314.アラクネの、その先へ。
「あ、あるじ殿、実はクラスチェンジができるようになりました……」
『アラクネ』のケニーが、突撃、そんな話をしだした。
どうもケニーは、レベルが60を超えたことによって、クラスチェンジができるようになったようだ。
魔物の中でもオリジンである『アラクネ』には、クラスチェンジがないのかと思っていたが、存在していたらしい。
一緒に話を聞いていたミノショウさんによると、普通の魔物やオリジン、それから妖精族などについてもクラスチェンジが発生する種族としない種族があるようだ。
また同じ種族でも、クラスチェンジが発生しないままレベルが上がっていく場合と、クラスチェンジが突然発生する場合があるとのことだ。
具体的な基準や種族については、ミノショウさんもよくわからないらしい。
ただミノショウさん曰く、クラスチェンジしなくてもレベルが上がれば十分強くなるので、クラスチェンジが発生しないからといって弱いことにはならないとのことだ。
もともと強い種族などは、クラスチェンジが発生しないことが多いらしい。
ケニーは、 律儀に俺にクラスチェンジの許可を求めてきたが、当然すぐに許可を出した。
「クラスチェンジ! アラクネロード!」
ケニーが叫ぶと同時に、その体が光の糸に包まれる————
光の糸は球状に広がり、繭のようになった。
数秒で光の繭が弾け、『アラクネロード』となったケニーが姿を現した!
その姿は……大きくは変わっていないが、以前よりも神々しい感じになっている。
より妖艶で綺麗になっている感じもする……。
上半身の人型の部分は、相変わらず怜悧な美しさを持つ女性の姿だ。
色白で、綺麗なサラサラの銀髪だ。
目は以前は赤みがかった茶色をしていたが、今はほとんど茶色に近い落ち着いた感じだ。
下半身の蜘蛛の部分も大きくは変わっていない。
前と同じく白を基調とした配色だが、所々に金色が混じっていて、それが神々しい感じを出しているのかなしれない。
人型のちょうどお腹の下あたりに、蜘蛛としての八つの目がついているのだが、以前は真っ赤だったが今は黒みを帯び落ち着いた感じなっている。
上半身の人型の部分に着ている服は、いつも着ている銀色のシルクのような感じのノースリーブの服だ。
ケニーは、少し頬を赤らめこちらを見つめている。
「なんか……神々しい感じになったね。より綺麗になったんじゃないかな」
俺がそう言うと、ケニーはさらに頬を赤らめ触脚をツンツンさせていた。
やっぱりかわいいやつだ……。
ケニーの話によると『アラクネロード』になったことで、新たな『種族固有スキル』が身に付いたらしい。
『分離行動』というスキルで、二体に分離して別々に活動ができるというスキルらしい。
まるで分身の術じゃないか……すごい!
分離していられる時間は、スキルレベルによるらしい。
試しにスキルを使ってみるとのことだ。
当然スキルは、まだレベル1なので短い時間しか分離できないのだろうが……。
「分離行動!」
ケニーが呟くようにそう言いながら、精神統一するように両手を胸の前で合わせた。
するとケニーが一瞬発光し……次の瞬間——
ケニーの人型部分がジャンプするように、蜘蛛の部分から分離した。
人の足が現れて、二足歩行で立っている。
……超美脚なんですけど!
そして……かなりのセクシー状態になってしまっている……。
ケニーが上半身に着ていた服が長めなので、ギリギリ腰回りを隠せているが、超ミニスカ状態になっているのだ。
思わず美脚に見とれていたら……
殺気を感じた次の瞬間、ニアに『頭ポカポカ』攻撃をされてしまった。
サーヤとミルキーは、速攻で両サイドにポジショニングして、左右から『お尻ツネツネ』攻撃を発動した……トホホ。
この三人……なんか絶妙に連携が取れてるんですけど……
まさかそんな練習してないよね……?
俺の視線に気づいてしまったケニーは、より真っ赤な顔になって足をモジモジさせている。
そして両手の人差し指を合わせて、ツンツンさせている。
蜘蛛部分と分離して触脚がないので、人型部分の指でツンツンしてしまったようだ。
もう一体の蜘蛛の部分は、ケニーの人型部分が抜けた穴が塞がり、通常の蜘蛛の魔物のかたちになっている。
ケニーの話によれば、両方とも同時に意識できるし、情報も入ってくるらしい。
そして会話なども、それぞれに同時にできるのだそうだ。
とても不思議な感覚のようだ。
二つの視点で、同時行動をしている感じらしい。
まるで並列処理しているコンピューターのようだ。
いや……並列思考かな……。
二つに分離しても、それぞれの体でスキルなども使えるようだ。
……ということは……あの強いケニーが二人いるってことじゃないか!
それ……めっちゃ強いだろ!
なんて非常識なスキルなんだ……。
今のところ新たに身に付いているのは、このスキルだけのようだ。
まぁこの一つだけで、もう十分過ぎるくらいの超絶スキルだよね。
二人になっちゃうんだからね。
連携攻撃なんかも、できちゃうんだろうな……。
“以心伝心”以上の連携だよね、きっと……。
二体に分離しても、それぞれにレベルもステータス数値も維持されているようだ。
二等分で半分に下がるというようなことはないようだ。
完璧じゃないか……。
課題があるとすれば、分離していられる時間が限られているということだろう。
ただ、これもスキルレベルが上がればかなり伸びるはずだから、戦闘で使う場合にはそれほど大きな問題にはならないかもしれないね。
スキルレベルが低いうちは、分離時間が短く使い所を見極める必要があるんだろうけど。
まぁ分離時間が短いといっても、実際どのぐらいなのかは今のところわからないけどね。
三十分や一時間程度ならほんとに短いし、半日ぐらいならかなりの活動ができるしね。
それは、これから検証するのだろう。
いずれにしろスキルレベルが上がって、ある程度の時間分離していられるようになったら、人型部分のケニーは人族の街に遊びに行けちゃう感じだ。
見た目は、完全な人族の美人さんだからね。
まぁ美人すぎて……人目を引いちゃうっていうことは、あるかもしれないけど。
ケニー自身も人型になれることが嬉しいようだ。
「「あるじ殿、これで私もあるじ殿と……いえ、あるじ殿のお役に立つように更に精進いたします!」」
おお……人型とクモ型のそれぞれから、同時に声を出したようだ。
そして人型ケニーは、真っ赤になりながら人差し指をツンツンさせている。
蜘蛛型のケニーも、いつものように触脚をツンツンさせている。
分離しても可愛い奴め……。
大森林と霊域の仲間たちでクラスチェンジできるようになった者は、他にはいなかったが『ライジングカープ』たちは、全員キンちゃんと同じように『種族固有スキル』の『登竜門』を身につけたようだ。
『登竜門』は、『種族固有スキル』とはいっても、必ず発現するとは限らないレアな『種族固有スキル』のようなのだ。
それを全員が身につけるとは……カープ騎士たち侮れない! さすがだ……。
キンちゃん含めて全員がスキルを発動させたら、十一体のドラゴンが現れるわけだから……もう無双だよね。
時間限定の強化スキルで稼動時間に制限があるとはいえ、遠い星からやってきた巨大ヒーローのように、三分ということはないから、余程の長期戦にならないかぎりは問題にならないだろう。
むしろ……強力すぎて周辺被害の方が問題になりそうだ。
キンちゃんたちのこのスキルは、強力すぎて意外と使えないんだよね……。
周辺被害を無視できるような場所でしか戦えないから……。
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