313.パワーレベリングの、デメリット。

  三つのチームは、最初の訓練を終えた。

 今後は各チームごとに、同時並行で戦闘訓練を行うことにした。


 一旦のチーム名を適当に付けたものの……我ながら呼びにくい……。

 かといって、他にいい名前も思いつかないのだが……。


 そこでオーソドックスに、番号で呼ぶチーム名につけ直すことにした。

 一番隊、二番隊、三番隊にすることにしたのだ。

 ちょっと新選組っぽくて、かっこいい感じもするし……。

 『トップチーム』改め『一番隊』がニアたちのチームで、隊長はニアだ。

 『仲良しチーム』改め『二番隊』がリリイたちのチームで、隊長は俺がやることにする。

 『お仕事頑張ってるチーム』改め『三番隊』がサーヤたちのチームで、サーヤが隊長になる。


 このチームは、迷宮でのレベル上げ特訓のためのチームで、必ずしも実戦にこのチームで当たるわけではない。

 ただチームで行動する必要が生じたときには、このチームを基準に考えようと思っている。


 これから、『一番隊』は二十四階層、『二番隊』は二十三階層、『三番隊』は二十二階層で更なる実戦訓練を行う予定だ。


 それから、ミノショウさんがレベル上げに関する注意事項というか、総合的なアドバイスをしてくれた。


 命を守るための基本的な強さを身につけるために、レベル30くらいまでは俺たちがやっていたような高レベルな人間と一緒に戦い、一気に経験値を獲得してレベルを上げるいわゆる『パワーレベリング』をしてもいいそうだ。

 といっても……ミノショウさんの感じからすると、やむを得ないといった感じだが……。


 そしてレベル30以降は、同レベルの魔物を相手に戦いながら、じっくりレベルを上げたほうがいいとのことだ。

 その方が、本当の強さが身に付くそうだ。

 戦闘の勘、技術、駆け引きを見につけることが重要で、それが極限状態での生死を分けるとのことだ。

 スキルもレベルが上がるときに身に付きやすいので、一気にレベルも上げるよりも1レベルずつ上げた方が取得できる確率が高まるらしい。

 一気に10レベル上がると、スキルが身につきやすいチャンスが一回になってしまうが、一つずつ上げると10回チャンスがあることになるということだろう。

 言われてみれば、納得の理屈だ……。


 そういう意味では、俺は一気に限界突破してレベルが上がってしまったので、スキルが身に付きやすくなるチャンスを失った感じだ……。


 ただそれを補うようなように『共有スキル』が使えるから、あまり問題は感じていないが。

 もし『共有スキル』が使えなかったら、かなり心もとないスキルしかなかっただろうけど。結果オーライな感じでしかないが……。


 もっとも、スキルはレベルが上がるときに身に付きやすいというだけで、それ以外のときでも努力すれば取得することができるんだけどね。

 だから俺が独自にスキルをあまり身に付けられていないのは、単なる努力不足かもしれない……トホホ。

 というか、『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに言ったら、確実にその通りだと言われてしまうだろう……。


(その通りです! 散々私にも指摘されて、わかっているのに努力できないのは……ある種の才能かもしれませんね)


 わお! 俺がちょっとナビーのことを思ってしまったばかりに……頭の中で速攻でディスられてしまった。完全に……嫌味を言われてる……厳しいお方……トホホ。


 (厳しくありません! 普通です。むしろ優しいくらいです!)


 トホホ……。

 確かに軽いディスりだから優しい方かもしれないけど……もしほんとに怒ったら……

 考えるのやめよう……。


(その方が賢明だと思います)


 わあ……ほんとに怖いんですけど……。


 ミノショウさんのより詳しいアドバイスによれば、身につけたいと希望するスキルに関連することを地道に練習することが大切とのことだ。

 そういう状況の中でレベルが上がると、そのタイミングでスキルとして身に付く可能性が高いらしい。

 また、その努力は無駄にはならずスキルを取得できなかったとしても、自分の技術として身につくとのことだ。

 ミノショウさん曰く……極論すれば、スキルは効率よくその技術を発動する手段に過ぎないらしい。

 スキルなしでも努力で身に付け、同じようなことをすることができるものもあるそうだ。

 剣術などはいい例らしい。『剣術』スキルがなくても、剣を振るうことができる人はいるわけだからね。



 これらのミノショウさんのアドバイスにより、今後の育成方針が決まった。

 新しく仲間になった者は、レベル30までは命を守るために強い仲間と一緒に戦うパワーレベリングで一気にレベルを上げる。

 それ以降は、地道に1レベルずつ上げるようにじっくり育成し、最大限の成長を促すことにした。


 今の仲間たちも、今後はできるだけじっくり育成しようと思う。

 そういう意味では、この迷宮を利用できるのは大きい。

 じっくりとは言いつつも、いつでも訓練できるし、計画的にレベル上げをすることも可能だからね。



 もう一つミノショウさんが提案してくれたのは、これから本格的に行うチーム戦の訓練だけでなく、個人でどう戦うかのソロ戦も訓練するというものだ。


 確かにチームとして連携して戦うことも大事だが、状況によっては一人で戦う局面もあるかもしれないからね。


 いろんな場面を想定して訓練することは、いいことだと思う。

 チーム戦の訓練が一段落ついたら、個人戦の訓練も組み込むか……。



 先程決めたように、各階層に各チームを送り出そうと思っていたとき……『アラクネ』のケニーたちが帰ってきた。

 彼女たちは、先行して数日前から合宿をしていたのだ。


「あるじ殿、お待ちしておりました。あるじ殿に先んじての合宿を許可していただき、ありがとうございました。丁度合宿を終えたところでございます」


 ケニーがそう言いながら近づいてきた。

 いつものように、触脚をツンツンさせている。

 その後には、今回参加した大森林と霊域の幹部メンバーがいる。


 たしか……五日くらい前に出発したはずだから……かなり長く合宿したようだ。

 どれだけレベルが上がったんだろう……。


 事前にケニーにも、ミノショウさんからアドバイスがあったらしく、無理矢理にはレベルを上げていないようだが……それでも今回の目標レベルは50に設定したようだ。

 ケニーのように元々レベル50を超えていた者は、目標をレベル60にしたらしい。


 俺は大森林と霊域の合宿参加メンバーに挨拶をし、労をねぎらった。


「オーナー、この迷宮のオーナーにもなるなんて、さすがっしょ! まじ尊敬! まじまんじ!」


 キンちゃんを始めとした『ライジング・カープ』のみんなに囲まれてしまった。

 相変わらず陽気な子たちだ。


 他の仲間たちも、すごく誇らしい顔をしている。

 がんばってやり遂げた顔だね。


 そこでみんなのレベルを、軽くチェックすることにした。


 『アラクネ』のケニーは、レベルが62になっている。

 ケニー直属の副官『マナ・ジャンピング・スパイダー』のジャン、ジャピ、ジャグの三体は、レベル52になっている。

『マナ・ホワイト・ベア』のシロクは、レベル50だ。

 リーダーのコッカをはじめとする『コカトリス』たちは、揃ってレベル50になっている。

『ミノタウロス』のミノ太は、レベル52だ。

 ケニーへのアピールのためもあるだろうが、ミノ太もがんばったようだ。

 だが相変わらずケニーの前では、グフグフ言って一人で興奮して体から蒸気を出しているので……ただの危ないやつ状態だが……。

『マナ・ダガー・イーグル』のワシシとワシミは、レベル50だ。

『マナ・ファング・ウルフ』のウルルとウルミもレベル50に到達している。

『マナ・デスサイズ・マンティス』のカママと『マナ・ボクサー・マンティス』のイーノとキーノも揃ってレベル50だ。

『マナ・シールド・ベア』のアベベとアベミも、レベル50だ。

『スピリット・エルク』のメリクリ、『スピリット・イエロー・ベア』のプププ、『スピリット・シルバー・ウルフ』のギンロ、『スピリット・レッド・フォックス』のオアゲ、『スピリット・グリーン・ラグーン』のオアゲ、『スピリット・ブルー・スワロー』のヤクルは、揃ってレベル50に到達している。

『ライジング・カープ』のキンちゃんはレベル52で、他のカープ騎士たちはレベル50になっている。


 みんなかなり頑張ったようだ。


『マナ・クイーン・アーミー・アント』のアリリをはじめとする今回参加できなかったメンバーたちも、ケニーたちと入れ替わりで訓練にくる予定だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る