305.念願の、迷宮合宿へ。
『ナンネの街』の『フェアリー商会』の営業準備を終えた俺たちは、念願の『ミノタウロスの小迷宮』でのレベル上げ合宿に出発することにした。
代官のミリアさんには、しばらくの間『イシード市』周辺の調査に行くという話にしてある。
『イシード市』の周辺に、『正義の爪痕』のアジトらしき遺跡が存在する可能性があり、その調査は、俺が担当することになっている。
今回は、いよいよその調査に出向くということにしたのだ。
実際には、スライムたちに調べさせているのだが……未だ有力情報は上がっていない。
サーヤの転移で、『ミノタウロスの小迷宮』の地下三十一階層に移動した。
「グリム様、お待ちしておりました」
早速、ダンジョンマスターである『ミノタウロス』の族長ミノダロスさんが出迎えてくれた。
「グリム様、お待ちしておりました。焦らすなんて……そんなテクどこで覚えたの?」
突然、この迷宮自身であるミノショウさんが姿を現した。
そして色っぽい視線で、変なことを口走っている……
それに反応してニアは、俺の頭をポカポカしてくる……なぜよ?
「これからお世話になります。よろしくお願いします」
俺はそう挨拶し、改めて仲間たちを紹介した。
初めて訪れた仲間もいるからね。
先行して合宿に来ている『アラクネ』のケニーたちは、迷宮の地下二十五階層でレベル上げ中とのことで、ここにはいない。
「只今、お得な合宿プランをご用意してますよ!」
ミノショウさんがそう言って、手揉みしている。
おお……合宿プラン……気になってたんだよね。
「合宿プランって、どういう内容なの?」
「はい。二十一階層以降でという前提になりますが、最短で効率よくレベル上げができるように、魔物のレベルや遭遇する数や順番、種類を私の方で調整してあげます。迷宮の変形機能を使って、上手く魔物を誘導してあげます。通常では絶対やらない特別プランなのよ……うふん」
そう言ってミノショウさんは、妖しく微笑んだ。
なるほど……カスタムプランみたいな感じだけど……。
最短でかつ安全にレベル上げができるように、いろいろ調整してくれるということか。
ミノショウさんに聞いたところによると、迷宮自身であるミノショウさんのような立場の者やダンジョンマスターであるミノダロス族長のような立場の者が、迷宮に訪れた者の前に姿を現すことは通常ありえないらしい。
もちろん“ダンジョンマスター戦”には、ダンジョンマスターが登場するわけだが、余程の実力者がこない限りは発生しない事態のようだ。
それゆえに、今回提案してくれたような“レベル上げに都合がいい特別プラン”を提案すること自体ありえない話とのことだ。
『ダンジョンオーナー』になってもらったお礼の特別待遇なのだそうだ。
「じゃぁ、それでお願いします」
俺がそう言うと、ミノショウさんはうっとりと俺を見つめ……
「かしこまりました。今回は特別に、私の個人レッスンもお付けいたします」
意味ありげにそう言うと、また妖しく微笑んだ。
個人レッスン……?
なんのことかと思いを巡らせていると…… またもやニアの『頭ポカポカ』攻撃を喰らい、追加でサーヤとミルキーの『お尻ツネツネ』攻撃まで喰らってしまった……なぜよ?
「心配しないでください。個人レッスンといっても、私が戦闘のアドバイスをしてあげるというだけの話です。主に連携プレイですけどね」
そう言って、ミノショウさんはニヤりとした。
なるほど……そういうことか。
コーチングしてくれるってことね……いいじゃないか!
迷宮自身なだけに、いろんな戦いを見てきているのだろう。
「じゃあ、早速お願いします!」
「はい。それからレベルを上げるだけでなく戦闘の実力をつけるには、実際の戦闘も効果的なものにしないといけません。五人前後で一つのチームを作って、戦闘するのがいいと思います」
ミノショウさんのそんなアドバイスを受けて、俺はチームを作ることにした。
俺がチームに入ってしまうと、バランスを崩してしまうので俺は除いてチームを作った。
まず『トップチーム』として、『ロイヤルピクシー』になったニア、『ロイヤルスライム』のリン、『ミミック』のシチミ、『スピリット・オウル』のフウ、『竜馬』オリョウを選出し、高レベルメンバーで一チームを組んだ。
もう一チームは、リリイ、チャッピー、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトル、『トレント』のレントンの『仲良しチーム』だ。
最後の一つは、『シルキー』のサーヤ、『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナ、『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウ、兎の亜人の姉弟ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーの『お仕事頑張ってるチーム』だ。
特訓は、迷宮の『下層』で行われることになる。
ちなみにこの迷宮は……
『上層』といわれている地下一階層から十階層までのエリアは、弱い魔物の領域でレベル30くらいまでの魔物しかいないとのことだ。
もっとも、レベル30の魔物は普通の感覚では十分に強い魔物で、人族の冒険者は主にこの『上層』で活動しているようだ。
地下十一階層から二十階層までの『中層』は、レベル50程度までの魔物が出るようで、強い冒険者のみが訪れるエリアらしい。
地下二十一階窓から三十階層までの『下層』は、それ以上の魔物が出るエリアで、冒険者が訪れることはほとんどないようだ。
そういう意味では、俺たちの合宿にはうってつけの場所なのだ。
ただ俺たちの中でもレベル50を超えているメンバーは少ないので、十分に気をつけて戦わなければならない。
もっとも、レベルが高い敵と戦うのが、レベルアップ効率が一番いい。
レベル差があれば、レベル補正がかかって経験値が多く入るようだからね。
ただ突然レベル70とかの魔物が出てこられても命に関わるので、『お得な合宿プラン』を適用しレベル50台の魔物に限定して誘導してもらうようにお願いした。
ちなみに『ダンジョンマスター』であるミノダロス族長は、レベルが72とのことだ。
したがって、この迷宮ではレベル72までの魔物しか出ないらしい。
このレベル72は、俺の仲間の中では一番高いし、ニアの話では伝説の英雄や勇者ですらレベル80台のようなので、かなり高いのは間違いない。
ミノショウさんに転送してもらい、全員で地下二十一階層にやってきた。
綺麗で明るい草原のエリアになっている。
見晴らしがいいので、魔物に不意打ちされることが少ないエリアのようだ。
ただ階層全体が草原というわけではなく、大きな岩などもある。
この地形は迷宮自身であるミノショウさんがある程度変更できるようで、その力で魔物を誘導してくれるらしい。
俺たちは三チーム作ったが、最初は同時並行ではなく一チームずつ戦うことにした。
他のメンバーは、戦いを見学する形式にしたのだ。
その方が安全だし、人の戦いを見ることは勉強になると思うんだよね。
最初は、俺たちの中の『トップチーム』であるニアのチームが出撃することになった。
俺は残りのメンバーと共に、後方から戦況を見守ることにした。
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