303.ナンネ支店営業開始、その一。

  五日後の朝、俺たちはようやく『ナンネの街』の『フェアリー商会』の営業準備と復興の段取りを終えた。


 この五日間を共に働いて思ったが、ミリアさんの代官としての仕事ぶりは凄まじいものがある。

 成人したばかりの十五歳とは、とても思えない手腕だ。


 必要な仕事を項目分けして、文官たちに的確に指示を出している。

 段取りに卒がないし、凄く効率的なのだ。


 文官の配置も見事で、人材を見抜く力もあるようだ。

 まさに、適材適所なのだ。


 街の問題点を洗い出すと、すぐに対策を打ってくれる。


 事実上閉鎖状態だった孤児院をすぐに再建し、身寄りのない子供たちをしっかりと保護してくれた。

 この街には、領が運営する『領立 シンオベロン養護院 ナンネ分院』がすぐにできたのだ。

 領都と同じように養護院に俺の名前をつける必要はないと言ったのだが……聞き入れてはもらえなかったけど……。


『ぽかぽか養護院』や領都の五つの養護院と同様に、多機能果樹園を併設したスタイルにしてくれた。

 果樹園の下で鶏を飼い、小川を通して小エビを養殖するスタイルだ。


『ナンネ分院』では、特別に『アンゴラモルモット』も飼育してもらおうと思っている。


『アンゴラモルモット』は、『アンゴラウサギ』に似ていて光沢のある綺麗なロン毛のモルモットなのだ。

 このモルモットからも上質の糸が取れると思うので、試しに飼育してもらおうと思っている。


『シルクキャタピラー』の生息エリアに暮らしていたを見つけたのだ。


 かなり……かわいいのだ。


 モルモットはウサギ以上に育てやすく、集団での飼育にも向いている。

 繁殖も容易で、小さな子供でも面倒を見れるのだ。

 モルモットの赤ちゃんは毛が生えた状態で生まれてきて、すぐに普通の餌も食べれるので生存率もかなり高いのだ。



 危険を知らせるための『守り笛』もこの街用に提供したので、ミリアさんはすぐに養護院の子供たちを始めとした街の子供たちに配ってくれた。

 大人たちにも、これから随時配る予定だそうだ。



 『正義の爪痕』のアジトまで連れ去られていた六十四名の女性たちが手伝いに来ていたのだが、ほとんどの女性は『フェアリー商会』で雇用してしまった。


 ただミリアさんは、サーヤ並みの人選眼を持っているようで、サーヤが幹部候補として考えていた人のうち五人ほどを文官として登用してしまったのだ。


 サーヤとミリアさんで話し合って、最終的には本人の希望で決めたようだ。


 他にも五人ほど、女性でありながら衛兵を希望した人たちがいた。

 衛兵長のビルドさんの面接と試験の結果、新規に採用されることになったのだ。

 約四十名ほどだった衛兵隊も、募集をかけて五十五名になった。


 ちなみにこの街の治安維持に協力してくれていたセイバーン公爵軍の近衛隊は、ユーフェミア公爵、シャリアさんとともに、すでにセイバーン領に戻っている。

 短い間だったが隊長のゴルディオンさんはじめ精鋭の兵士たちに訓練してもらい、この街の衛兵たちもだいぶ実力が上がったようだ。



 ギルドの再建についてもミリアさんの手配は早く、文官の中から一人を『商業ギルド』のギルド長に指名して行政主体で再建する手配をしてくれた。

『職人ギルド』についても、その文官さんが掛け持ちでしばらく運営をしてくれるようだ。

 小さな街だから、それで充分かもしれない。


 領都で『フェアリー商会』が担当していた『狩猟ギルド』や『農林水産ギルド』は、『ナンネの街』でも『フェアリー商会』に頼みたいとのことだった。

 すぐにはじめる必要はないが、街の復興に合わせて作る予定だ。

 ギルド長ができる人材も探さないといけないしね……。



 それからこの街の地下に作られた空間については、予定通り避難用のシェルターや食料の備蓄庫として使うように、手配が進んでいるようである。


 俺たちの秘密基地にする予定のセイバーン公爵領内の元『正義の爪痕』の地下施設は、今のところ手をつけていない。

 ただ、この周辺のスライムたちをリンに集めてもらった。

 八十体のスライムたちが周辺警戒に当たってくれている。



『フェアリー商会ナンネ支店』の事業はというと……


『フェアリー商会ナンネ支店』


 支店の総支店長——カイラー


 支店全体を統括する総支店長は、俺の奴隷になっている大人チームのリーダー格の女性、カイラーさんを抜擢した。

 まだ若いが、メリッサさんとタイラーさんと力を合わせて三人で当たれば、なんとかやれるだろう。


 俺の奴隷扱いになっているうちの子供メンバー、十三歳のアレックスちゃん、十一歳のレナちゃん、ハ歳のマギーちゃん、六歳のモン君は、この三人の補助的な仕事をしてくれることになっている。

 一緒に暮らしながら、家族として協力してくれるかたちなのだ。


 一、支店統括本部——商会の本部ブロックに設置。ナンネ支店の指令本部のようなものだ。

 俺が商会のナンネ支店で仕事をするときも、この本部建物の執務室で行なうことになる。


 二、牧場事業——『フェアリー牧場』——『道具の博士』のアジトだった『アイテマー迷宮』で飼育されていた牛、ヤギ、鶏、ガチョウを飼育している。

 幻の虫馬『シルクキャタピラー』も飼育している。


 三、農業事業——『フェアリー農場』——ナス、トマト、ピーマン、キュウリなどの苗を『マグネの街』から移植した。野菜が順調に育っている。

 他にも野菜類全般の種まきをした。

 『カカオ』『カシューナッツ』の木を移植して、落花生も大量に種蒔きした。

 大森林で苗を作った『マナウンシュウ』と霊域の『スピピーチ』も、移植した。

 『ライチ』『ビワ』も栽培されている。



 この『フェアリー牧場』と『フェアリー農場』とは別に、俺がプロデュースしているピグシード家直営の各種荘園も順調に栽培を行っている。

『牧場荘園』——牛、羊、ヤギ、鶏、馬などが飼育されている。

『野菜荘園』——『フェアリー農場』から種や苗を分けて、多種多様の野菜を作っている。

『穀物荘園』——小麦を中心に作付してある。

『果樹荘園』——マンゴー、パイナップルが栽培されている。ぶどう、オリーブ、リンゴ、プラム、オレンジ類も栽培されており順調に生育している。

『水田荘園』——水稲の種蒔きをした。



 四、薬局事業——『フェアリー薬局』——中央通り沿いの店舗ブロックに作った施設棟に出店した。施設棟は領都同様に三階建ての商業ビルのようなものにした。

  薬師の知識を持っている人が雇用出来なかったので、当面は『マグネの街』の『フェアリー薬局』で作った商品を販売することになる。

 この街でも薬師になりたいと希望する者が結構いるので、『マグネの街』の『フェアリー薬局』のハーリーさんのところに、修行に行ってもらう予定だ。


 ちなみに『マグネの街』の『フェアリー薬局』には、『アルテミナ公国』から冒険者が押し寄せ、各種回復薬が飛ぶように売れているそうだ。品質が良いと評判になっているらしい。

 領都の『フェアリー薬局』では、相変わらずオリジナルの『薬草茶』や『ドライフルーツ紅茶』各種が、売れているようだ。


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