302.ハイピクシーの、その先へ。

 翌朝、俺たちは予定通り飛竜と『飛竜船』を使って『ナンネの街』に戻ってきた。


 俺はまず吟遊詩人のアグネスさんとタマルさんに、『死霊使い』で吟遊詩人だったジョニーさんの妹弟であるギャビーさんとアントニオくんを紹介した。


「ギャビーと申します。ご指導よろしくお願いします」

「アントニオです。精一杯努力します。よろしくお願いします」


 二人がそう言って、アグネスさんたちに頭を下げた。


「わかりました。なくなったお兄さんの分までがんばりましょう」

「自分の身を守れる強さも身に付ける。それが一流の吟遊詩人よ。護身術は私が教えてあげる」


 アグネスさん、タマルさんがそう言って二人の肩に手を添えた。



『フェアリー商会ナンネ支店』の立ち上げメンバーのカイラーさん、メリッサさん、タイラーさんと、子供メンバーのアレックスちゃん、レナちゃん、マギーちゃん、モン君は、先行して準備してくれているサーヤたちと合流してもらい、早速準備をはじめてもたった。


 サーヤの話によると、助け出した女性たちが昨日に引き続き手伝いに来てくれているそうだ。


『フェアリー商会ナンネ支店』の立ち上げ優先事業は、カカオやカシューナッツなどチョコレート関連作物を栽培する『フェアリー農場』、『シルクキャタピラー』の飼育をする『フェアリー牧場』、通勤の足となる『フェアリー運行』、『チョコレート工場』を作る『フェアリー食品』、『紡績工場』と『縫製工場』を作る『フェアリー紡績』になる。


 あと街の住人みんなを元気にするために、『フェアリー軽食』で各種屋台も早々に営業を始めたいと思っている。

 美味しいものをリーズナブルに提供できるから、きっと喜ばれるだろう。


 これらの人員として、手伝いにきている女性たちを雇用してあげようと思っている。


 他にも広く雇用を考えているので、しばらくの間アグネスさんたち『吟遊詩人チーム』には、街中を巡回して『フェアリー商会』での人員募集の告知をしてもらおうと思っている。



 サーヤたちと少し打ち合わせをして一段落したころで、大森林の『アラクネ』のケニーから念話が入った。


 内容は……『ミノタウロスの小迷宮』で予定しているレベル上げ合宿についてだった。


 霊域と大森林のメンバーでチームを編成して、随時合宿に送り出したいという内容だった。


 本来なら最初に俺とパーティーメンバーが行こうと思っていたのだが……

『ナンネの街』の復興に取りかかったばかりなので、すぐに行ける感じではない。


 ケニーたちも待ちきれないようなので、先に合宿に行くことを許可した。


 『ミノタウロスの小迷宮』自身であるミノショウさんと、ケニーたちが打ち合わせをして上手くやってくれるだろう。


 ミノショウさんが言っていた“お得な合宿プラン”というのがなんなのか気になるが……

 まぁ後で教えてもらえばいいだろう……。


 俺たちはもう少し落ち着いてから、合宿に行くことにしよう。


 ケニーの話では、レベルが上がりにくくなっている高レベルの仲間たちから優先して、迷宮に送り出すとのことだ。

 遊撃部隊が中心となるのだろう。


 『ライジング・カープ』のキンちゃんたちとか……これ以上強くなっちゃったら……どうなっちゃうんだろう……楽しみでもあり……若干の不安も…………。



 そんなケニーたちのやる気満々の話を聞いたからか……ニアもとうとう決意してしまったようだ……。


「私……クラスチェンジしようと思うの! もうロイヤルピクシーになってもいい頃合いよ!」


 やっとクラスチェンジする気になったようだ……。


「いいんじゃない! すぐやるの?」


 俺は、なるべくいつもと変わらない調子で尋ねた。

 過剰反応して……心変わりされても困るからね……。


「そうね……決めたからには、善は急げよ!」


 ニアはそう言って、拳を突き上げた。ちょっとだけ……残念感が……。


 俺が首肯をすると、ニアは鼻息を荒くして自分の頬を二回叩いた。


「じゃぁ、行くわよ! クラスチェンジ! ロイヤルピクシー!」


 ニアが叫ぶと同時に、その体が光に包まれる————


 球体に広がったその光は、前回同様に繭のようになった。


 数秒で光の繭が弾けると、ニアが元気に出てきた!


 その姿は………


 今回も……全く変わってなかった……残念……。


 俺は笑みがこぼれないように唇を噛みしめ、真顔で見守った。


 俺と目が合ったニアは、「なによ!」と言いながら、自分で確認していた。


 今回もさらなる超絶美少女への変化は起きておらず……ちょっとがっかりしている感じだ……。

 別に今のままでも、黙ってれば超絶美少女なんだからいいと思うんだけど……。

 まぁここはスルーしてあげるところだろう…………久々のやさしさスルー発動!


 雰囲気を変える意味も含めて、ニアにステータスなどについて尋ねたところ……


 前回のクラスチェンジのときと同様に、各ステータス数値が上昇したらしい。


 スキルも『ロイヤルピクシー』としての『種族固有スキル』が追加されたとのことだ。


 その内容は……


 『癒しのキス』『高貴な瞳』『ロイヤルストレートフラッシュ』の三つが追加されたようだ。


『癒しのキス』は、部位欠損をも治せる威力の高い回復スキルのようだ。

 手足を失った人を、失った直後でなくても、手足がなくても治せるということのようだ……。

 また生えてくるということなんだろうか……想像するとちょっと怖いけど……。

 もう……ほんとに女神みたいになってきてる……。


『高貴な瞳』は、各種の状態異常を解除できる回復スキルのようだ。

『共有スキル』にセットしてある『状態異常付与』の反対の解除版といったところだ。

 これが『通常スキル』だったら『共有スキル』にセットできたのだが……『種族固有スキル』だから無理なのだ……。


『ロイヤルストレートフラッシュ』は、攻撃スキルのようだが詳しい内容は「秘密」と言われてしまった。

 ニアのことだから……なにか……無茶苦茶な攻撃である予感しかしない……。


『ピクシー』は風属性だったし、『ハイピクシー』は雷属性だった。

『ロイヤルピクシー』は……回復属性みたいな感じなのかな……。

 回復属性という属性自体が、あるのかどうかわからないけどね。


 ちなみにニアは、現在のレベルが58だ。

 今までのペースからすれば……もしかしたらレベル60になると、さらなるクラスチェンジができるかもしれない……。

 まぁそうなっても、すぐにクラスチェンジするかどうかはニア次第だけど……。


 ロイヤルの上って一体なんだろう……

 普通に考えれば……キングとかクイーンということなんだろうけど…………。

 ニアさん……次はクイーンとかになっちゃうのかな……。


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