296.子供達の、ファッションショー。

 クリスティアさんから、改めてユーフェミア公爵たちに今回の事件の概要と尋問により判明した内容の説明が行われた。


「なるほど……そういうことかい……。ということは、奴らは装置を壊したわけだから、目的の半分は達成したということか……。しかし地下道や地下空間を作るとは恐れいったね。『使い人』を使ったとはいえ……発想自体が恐ろしいよ。そんなものを張り巡らされる前に阻止できて……ほんとに良かったさね」


 ユーフェミア公爵が腕組みしながら、ため息を一つ吐いた。


「姉様、作られた地下空間や地下道はどういたしましょう? 埋めてしまうのが確実だとは思うのですが……」


 アンナ辺境伯がそう尋ねた。

 何か含みがありそうだが……


「そうだね……難しいねぇ……何か考えでもあるのかい? アンナ」


「はい、悪用されないことが前提ですが……何かに有効活用した方がいいのではないかと思っています。領都は地下道が通っているだけで、巨大な空間はありませんが、『ナンネの街』にはかなりの地下空間が作られています。災害時の避難施設のような使い方は出来ないでしょうか?」


 アンナ辺境伯は、そう提案してくれた。


 いい考えだと思う!

 実は俺も、『避難シェルター』として使えるんじゃないかと考えていたんだよね。


 それに『ナンネの街』から領都までの長い距離を結ぶ地下道なんて……作ろうと思っても簡単に作れるものじゃない。

 もちろん俺的には大森林の『マナ・ホワイト・アント』たちに頼めば、簡単に作れるが…… 人族の一般的な観点から見れば、かなり難しいことなのだ。


 地下道自体が災害時のシェルターになるかもしれないし、交通網として機能する可能性も高い。


 俺の元いた世界にあった地下鉄車両も通せるくらいの広さがあるからね。

 この世界でやるとしたら地下馬車になるのだろうが……

 わざわざ地下道で馬車を走らす意味がないので、そんな提案はしなかったが……。


「そうだね。『避難シェルター』として有効活用した方がいいね、安全第一に考えれば埋めた方がいいが、有効活用する方がいいだろう」


 ユーフェミア公爵がそう言って同意した。


「私もそれがいいと思います。場合によっては、地下の空間を非常用の備蓄品の貯蔵庫として活用してもいいと思います。『ナンネの街』は、充分有効活用できると思います。領都についても住民が避難出来るような地下空間を整備した方がいいかもしれません。私が保護する『土使い』の女性に頼んで『避難シェルター』を充実させるのはどうでしょう? 彼女は人質をとられていたとはいえ、自分のやったことを後悔しています。償いたいと言っていますので、喜んで協力してくれると思います」


 俺はそう提案した。


「そうだね。それでいいと思う。ただ『土使い』の女性の件は、くれぐれも極秘事項だ。その能力を使うとしても、この領都だけにしておこう。『マグネの街』や他のところも『避難シェルター』を整備したいだろうが、情報漏れが怖い」


 ユーフェミア公爵はそう言って、慎重な姿勢を示した。


 さすがだ……本来ならセイバーン公爵領にも『避難シェルター』を作りたいと思うところだろうが、『土使い』の女性の安全を最優先で考えてくれている。


「ユーフェミア様、セイバーン領内に作られている『正義の爪痕』の地下施設はどうしますか?」


 俺は、残るアジトの処置を確認しておきたかった。


「そうさね……『ナンネの街』まで地下道で繋がっているんだったね……。せっかくだから……何かに活用したいところだね……。ピグシード辺境伯領とセイバーン公爵領の共同の施設にでもするかい? 何がいいかねー……研究施設みたいにしてもいいと思うが……。何かアイデアはあるのかい?」


 ユーフェミア公爵にそう尋ねられたので……


「アジトのある場所は、二つの領の領境になっている山脈の西端の裾野に当たります。周囲には魔物もいますが、野生生物や植物を含めた自然資源も豊富な場所です。緊急時の『避難シェルター』を兼ねた二領共同の『研究所』もしくは『狩猟ギルド』のようなものを作ってはどうでしょう?」


 俺はそんな提案をしてみた。


「そうさね……悪くないが……。できれば……しばらくは存在自体を秘密にしておきたいね。もちろん『ナンネの街』や『領都』の『避難シェルター』もそうだが、存在自体が秘密に出来ないといざというときに機能しない可能性があるからね。『避難シェルター』自体が標的になったら、意味が無い……。そう考えると……『狩猟ギルド』は今のところはやめておきたい。『研究所』も……私も一瞬考えたが……今はやめた方がいいかもしれないね。何かいいアイディアが浮かぶまでは……“妖精女神の使徒”の秘密基地にでもしたらどうだい?」


 ユーフェミア公爵もすぐには名案が思い浮かばないみたいで……最後には半分冗談とも取れる発言をしていた。

 ただ目が笑ってないから……半分以上本気で言ってる感じだが……。


「そうね! “妖精女神の使徒”の秘密基地! なんか……かっこいいかも! じゃぁそうさせてもらうわ! それなら情報が漏れることもないし! 万が一『正義の爪痕』の『武器の博士』が襲ってきても迎撃できるもの! 使わせてもらうことにするわ!」


 なんか……ニアが超ノリノリだ。

 どうも……『秘密基地』っていう言葉が心の琴線に触れたようだ。目が星マークだもの……。


 絶対使い道とか考えてないよね……『秘密基地』って言葉がかっこよかっただけだと思う……。


 ユーフェミア公爵たちも、不思議に……みんな満足そうに頷いている……。


 結局あの地下施設は、俺たちが自由に使える施設になってしまった。

 確かに……『秘密基地』というワードは、失われた中二心を蘇らせるが……

 ……てか、ニアのこと笑えないね……。


 本当に……『秘密基地』にしちゃおうかな……

 ただ『秘密基地』といっても……今のままでは、秘密に住んでいるだけみたいな感じになりそうだけど……。

『秘密基地』というからには、何かを開発したい気になるんだけど……

『装甲馬車』とか……『飛行馬車』とか……

 やばい……中二病が再発の兆しだ……。


 まぁいいだろう。

 もう少し活用法がないか……考えてみることにしよう。



 それから俺は、『ナンネの街』の今後の復興策について、ミリアさんと打ち合わせした内容を報告した。


「シ、シルクキャタピラーを見つけたのかい!」


 ユーフェミア公爵は、呆れ顔をしながら驚きの声を上げた。

 アンナ辺境伯始めこの話を初めて聞いた人たちも、一様に驚きの声を上げた。


「あゝ……シルクキャタピラー見たい! どこにいるんですの?」


 そしてドロシー嬢が、めちゃめちゃ食いついてきた!

 やはり珍しい生き物だから……研究心がそそられるのだろう。


「『ナンネの街』に牧場が出来次第、移ってもらう予定でいますが、既に仲間になっています。これが『シルクキャタピラー』たちから貰った『レインボーシルク』の糸玉です」


 俺がそう言って、魔法カバン経由で『波動収納』から糸玉を取り出した。


「「「まあ!」」」


 輝く現物を見て、皆衝撃の声を上げた。


 はじめはみんな目を輝かせていたが……そのうちうっとりした表情に変わった。

 それほど綺麗なのだ。


「凄いでしょう! 私はグリムさんから一ついただいたのよ!」


 なぜかそこで、ミリアさんが自慢げにそんな話をしてしまった……なぜよ……。


 当然……他のみんなから一斉に……俺に対し熱い視線の注がれた……


 どう考えても……自分にも欲しいという熱視線だよね……トホホ……。


 しょうがない……俺は魔法カバン経由で『波動収納』から人数分の糸玉を出してプレゼントした。

 というか……プレゼントせざるを得なかった……。

 まぁ沢山あるから別にいいけどね……。


 しかし……この大きな糸玉をどうするんだろう……部屋に飾るのかなあ……。


「これは凄いね。もうこの『ピグシード辺境伯領』の経済は安泰だね。これはどこからも引っ張りだこになる。絶対に売れるよ! 評判になるね。この国だけじゃなく、隣国からも買い付けが殺到するね!」


 ユーフェミア公爵が、ニヤニヤしながらそう言った。

 その視線はさっきから『レインボーシルク』の糸玉に釘付けだけどね。


 ここで俺はリリイとチャッピーに念話を繋ぎ、会議室に来るように伝えた。


 すぐ来てくれたので、俺は会議室の入り口に立ってみんなが注目してくれるように軽く手を叩いた。


「それでは、『レインボーシルク』のドレスをご覧ください!」


 俺はそう言って、会議室のドアを開けた——


 登場したのは『レインボーシルク』のドレスを着たリリイ、チャッピー、ソフィアちゃん、タリアちゃんだ!


 大森林の『アラクネ』のケニーに頼んで、『レインボーシルク』の糸玉で綺麗なドレスを作ってもらったのだ。

 ソフィアちゃんとタリアちゃんのドレスは、口頭で大体のサイズを伝えただけだったがぴったりだった。


 まさに映画に出てくるプリンセスのような綺麗さと華やかさ……可愛さに溢れている!


『レインボーシルク』が光の加減で七色に変化している。

 そして同時に色を発したりするので、本当に虹を纏っているような感じにもなる。

 銀色がベースなのに、虹の七色に変化して見えるという不思議生地なのだが、ケニーの話では染色してベースの色を変えることも出来そうだとのことだった。

 今後の商品開発で、検証していきたいと思っている。


 みんな息を呑んで見ている。


「こりゃたまげた! リリイ、チャッピー、凄いね! お姫様じゃないか! 可愛いよ!」

「まあ……ソフィアもタリアもなんて綺麗なの! リリイちゃん、チャッピーちゃんも本当に綺麗! まるで四姉妹のようだわ!」


 ユーフェミア公爵とアンナ辺境伯も頬が緩みっぱなしだ。


「サラサラで気持ちいいのだ!」

「チャッピーお姫様みたいなの〜」

「こんな素敵なドレス……初めてです!」

「もう嬉しすぎて……凄すぎて……」


 リリイ、チャッピー、ソフィアちゃん、タリアちゃんがそう言って、ニヤニヤ、クネクネしている。


 みんなのリクエストに応じて、その場で回ったり、ポーズを決めたりしている。

 まるで……ファッションショーだ!

『ピグシード・ガールズコレクション』といったところか……。

 まぁランウェイが短かすぎるけどね……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る