291.街の、産業育成。

 俺は『ナンネの街』の雇用対策の意味も込めた産業育成案を、ミリアさんに提案した。


 この『ナンネの街』独自の特産品を『チョコレート』にして、産業を育成しようと思っているのだ。


 『チョコレート』は、この領全体の特産品にしようとは思っている。

 領都にも『チョコレート工場』や『カカオ農園』を作ろうと思っているが、『ナンネの街』はよりそれに特化した街にしようと思っているのだ。


 農園も『チョコレート』の原料であるカカオだけでなく、『カシューナッツ』、『ピーナッツ』すなわち『落花生』を大量に植えようと思っている。

『アーモンド』の木なども、見つけられたら植えたいんだよね。

 つまり『チョコレート』のバリエーションに使える作物を、できるだけ栽培する農園を作ろうと思っているのだ。



 そしてもう一つ……領全体の特産品だが、この街で特化してやろうと思っている物がある。


 それは……『レインボーシルク』だ!

 俺は、まだ内密にという前置きをした上で、『シルクキャタピラー』を見つけてテイムしたと説明した。


 この話を聞いて、ミリアさんは絶句していた。

 とても信じられないという表情をしていたので、俺が手に入れた『レインボーシルク』の糸玉を一つ取り出して見せてあげた。


 ミリアさんは最初固まっていたが……すぐに破顔して、ワクワクした表情になった。


 そして糸玉を見つめて、うっとりとした笑みを浮かべていた。


 光の当たり具合で様々な色に変化し、本当に七色のように見えるから……思わず見とれてしまうんだよね。


 やはりミリアさんも、年相応の女の子ということなのだろう。


「ハア……きれい……」


 ミリアさんは、さっきから何度もそう呟き、糸玉に見とれている。


 まぁこの綺麗さを目の当たりにしたら……しょうがないよね……。


「よかったら、その糸玉は差し上げますよ」


 俺がそう言うと……


「ほんとですの! まぁ、ありがとう! もう大好きです!」


 ミリアさんはそう言いながら……なぜか抱きついてきた。


 もちろん……一瞬のハグのような感じで終わったわけだが…………。


 なぜか……ニアは俺の頭をポカポカ叩くし……サーヤとミルキーは両側から俺のお尻をつねるし……解せぬ……。


 『シルクキャタピラー』の飼育牧場をこの『ナンネの街』に作って、『レインボーシルク』を街の特産品にしようと思っているのだ。


 この『レインボーシルク』と先程の『チョコレート』の二つを他領や外国などに向けて販売することで、外貨を稼ぐ街にしようと思っている。

 “虹色の布”と“黒い宝石”の街……なんかいい感じだよね。


 この特産品を有効活用するためには、『フェアリー商会』に大規模な行商部隊を作る必要があるかもしれないが…………。


 普通に商隊のように馬車で行ってもいいが、新しく仲間になった飛竜たちを使った“航空行商”のようなものを始めてもいいかもしれない!


 うん! 飛竜を使った“航空行商”……いいかも!

 なんか……画期的な気がする!


 俺はそんな事を思いつき、一人ニヤっとしていたのだが……


 なにか……さっきから猛烈な視線を感じる……


 視線を感じる方に目を向けると……

 ミリアさんがキラキラした目で……俺を見ている……。

 なんか……ロックオンされている感じだ……。


 そして俺と目が合ったら……うっとりした表情になった……。

 そして……そのまま見つめている……

 どうリアクションしていいか……わからないんですけど……。


 そんな感じで……ドギマギして困っている俺を助けるどころか……ニアさんがまた頭をポカポカしてきた。

 そしてサーヤとミルキーも、また俺のお尻をつねった…………なぜよ!? ……トホホ……。


 俺の提案に対し、ミリアさんは大賛成してくれた。

 もちろん最終的には、アンナ辺境伯の了承を得るつもりだが。



 それからミリアさんから、街の中にある農業エリアの空き農地も俺に提供するという申し出があった。

 所有者が亡くなり相続人がいない農地を無償でいただけるとのことだ。

 壁内にある街中の農地は貴重なので、もらってしまっていいのかと思ったが……

 先程の特産品の件もあり、俺に使わせてるのが一番の有効活用法だと判断したとのことだった。


 他にも商会の事業のために土地が必要な場合は、無償もしくは格安で提供するので、気軽に言ってほしいと言われた。


 まぁ、俺の個人屋敷の用地や『フェアリー商会』の用地が確定したので、準備を始めることができるからよかった。

 あとは外壁の外側に作る『フェアリー農場』や『フェアリー牧場』の場所や、荘園の場所を決めれば、各分野に取り掛かることができるんだけどね。


 これについてもミリアさんと話をし、領都同様、荘園の村として復活させることは厳しいという見解で一致した。


 それゆえに、領都同様、ピグシード家の『直営荘園』と『フェアリー商会』の農場や牧場を作り、働く人たちは壁内から乗合馬車などで通勤するという形態にすることにした。


 各荘園の場所の栽培作物の選定は、領都の時と同じく俺に一任してくれることになった。

 すぐにでも決めようと思っている。



 俺としては、確認しておきたかった案件は、打ち合わせすることができた。

 漏れがないか考えていたのだが……

 そういえば……当面の寝る場所が必要だけど……どうするか……


 仮設住宅エリアの余っている仮設住宅を使わせてもらってもいいような気もするが……


 そういえば……ミリアさんは、どうするんだろう……。


「ミリアさんは、どこに宿泊される予定ですか?」


「そうなんですよね、宿泊できるような場所がありませんので、仮設住宅に泊まろうかと思っています。グリムさんも一緒で構いませんよ!」


 ミリアさんは、悪戯っぽい笑みでそう言うと、なぜかまたウインクをした……。


 それが結構可愛かったので……一瞬、ニヤけてしまった……。


 その一瞬を……ニアたちは一切見逃してはくれなかった……


 そう……またもやニアに頭をポカポカされ、サーヤとミルキーには左右のお尻をつねられてしまった……トホホ……。

 一瞬のニヤけくらい……見逃してくれよ……無念!


「なるべく早く守護の屋敷を建てますので、ミリアさんは代官として、そちらに住んでください。私はいつもいるわけではありませんから、ミリアさんに住んでもらった方が使用人たちも無駄にならずに済みます」


 俺はそんな提案をしてみた。


 ミリアさんの個人屋敷を作ってもいいんだろうけど、俺が不在でほとんど使わない守護屋敷を放置しておくのは、もったいないと思ったんだよね。

 この街に常駐するミリアさんに使ってもらうのが合理的だと思う。


 俺が来たときは、俺の個人屋敷に泊まればいいだけだからね。


「え、も、もう一緒に住むんですの…………まぁ私は構いませんが……覚悟はできています……」


 なんか……ミリアさんが訳がわからないことを口走りながら、俺を熱い視線で見つめている……


 そして……恐る恐る……周りを見ると……案の定……


 “頭ポカポカ”と“お尻ツネツネ”が待っていた……なぜよ! ……トホホ……。




 

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