290.ナンネの街の、状況。

『シルクキャタピラー』の里と『飛竜』の里を後にして、俺は『ナンネの街』に戻ってきた。


 すぐに『スピリット・オウル』のフウ、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトルが報告にきた。

 この短い間に、軍団を組織できたようだ。


 フウの『野鳥軍団ナンネ支部』は四十羽、トーラの『野良軍団ナンネ支部』は二十匹、タトルの『爬虫類軍団ナンネ支部』は五十匹とのことだ。


 『領都』に比べれば、面積も少ないのでこの程度の数しか集まらなかったようだ。

 ただ街の大きさを考えると、十分機能してくれそうだ。



 次に、街の調査に行っていたミルキーたちが、戻ってきて報告をしてくれた。


『ナンネの街』は、悪魔の襲撃の時に被害のあった場所は、瓦礫が全て片付いているが、ほとんどが更地の状態のようだ。

 新たに建築中の建物は、一つも無いらしい。


 家を失った者は仮設住宅で暮らし、配給を受けて生活しているようだ。


 元々商売をしていて、被害を免れた人だけが商売を続けているらしい。


 他の市町からの移民たちも、仮設住宅には住んでいるが、仕事はしていない状態のようだ。


 『領都』に比べると、遥かに人口が少なく規模も小さいので、仕事を作り出すことも大変そうだ。

 復興が意外と難しいかもしれない。


 同じ程度の面積の『マグネの街』は、元々五百人程度の人口が避難民の流入で千人近くまで増えたので、商売もそれなりに成り立ったのだ。


『ナンネの街』は、元々五百人程度の人口が悪魔の襲撃で二百人程度まで減り、移民が二百人程度入って現在四百人程度の人口なのだ。

 この少ない人口で商売をして、経済を活性化させるのはかなり難易度が高い気がする……。


『フェアリー商会ナンネ支店』は、結構大変かもしれない。


 やはり『レインボーシルク』などの付加価値が高い製品を作って、外に向けて販売し外貨を獲得しないと厳しいかもしれない。



 俺たちは、みんなで仮設の役所に出向いた。


 ミリアさんも俺を探していたようで、すぐに仮設役所の大きな会議室に通された。


 丁度いい機会なので、この街の復興方針について簡単に打ち合わせをしようと思う。


 まず街のメインの施設である『役所』やその隣にあった『ギルド会館』は、破壊されてその場所は更地になっているらしい。


 この『ナンネの街』は、基本的に『マグネの街』と同じ作りをしている。


 中央通りの丁度真ん中あたりにある広場の一つ西側のブロックに、大きな公園がある。

 その一画に『役所』と『ギルド会館』があったようだ。

 そして更にその西隣の一ブロックが丸ごと『守護の屋敷』になっていたようだ。

 そこも破壊されて更地の状態らしい。

 この周辺にある高級住宅エリアだった場所も同様に、破壊されて現在更地の状態とのことだ。

 中央を通ってるメイン通り沿いには、『マグネの街』と同じように宿やお店が並んでいたが、それも半分以上は破壊されて更地に近い状態になっているそうだ。


 まず俺は、ミリアさんに一つ提案をした。


 “妖精女神の御業”と『トレント』であるレントンの力を使って、『役所』や『ギルド会館』そして『守護の屋敷』などを建設してしまおうかと思っているのだ。


 もはや『トレント』は解禁されているし、一夜にして巨大な建物を建てても、何とかなるだろう。

 作る工程さえ隠せば、“妖精女神の御業”と『トレント』の特殊能力で誤魔化せると思う。

 早く復興を進めるためには、主要な建物を建設してしまった方がいいと思うんだよね。


 俺のこの提案に、ミリアさんは目をキラキラさせて了承してくれた。


『役所』も『ギルド会館』も『守護の屋敷』も『マグネの街』と同じような施設であれば、『家魔法』を使えばすぐに作れる。

 木製でよければ、いつものようにレントンのスキルでできるのだが、本来の外観の方がいいだろうから、『マグネの街』にある建物を参考に『家魔法』で作ろうと思う。


『波動複写』を使って建物そのものをコピーできないかと思い、『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに相談してみた。


(『波動複写』をするためには、細かい波動情報を取得する必要があります。そのためには、一度『波動収納』に収納しなければなりません。現在使っていない建物で、かつ人目がなければ可能ですが、使用中の『マグネの街』の建物については、見送った方がいいと思います。一度大森林に行って、『家魔法』を使い建物を作ってみてはどうでしょう。上手くできれば、それを一旦『波動収納』に収納し、その情報を元に『波動複写』でコピーを作っておけます。そうすれば、今後建物が必要になったときに、『波動収納』から取り出して設置することが可能となります。そもそも未だ魔力調整がちゃんとできていないマスターは、大森林で実験するべきと思います)


 という感じで、ナビーからはいつものように今後の段取りを含めた的確なアドバイスと、軽いディスりをいただいた……トホホ……。


 ちなみにいつも転移用に設置しているログハウスは、以前はレントンに作ってもらった物を『波動収納』から出して設置していたが、最近は『波動複写』でコピーした物を取り出して設置しているのだ。

 改めてレントンに作ってもらうという手間をかけてなくて済むようになったのだ。

 まぁこのやり方も、ナビーによる的確なアドバイスのお陰だけどね……。


 小さな建物であれば、魔力調整が拙い俺ではなく、『家魔法』の元祖使い手であるサーヤにお願いすれば簡単に新築できてしまう。


 だが『守護の屋敷』や『役所』のような大きな建物は、魔力消費が大きく今のサーヤのレベルと実力をもってしても、一度ではできないようなのだ。

 三日ぐらいかけて、分割して作ればできるようだが……。


 やはり、ナビーの言うように大森林に移動して、俺自身の手で『家魔法』を使い作ってみる必要があるようだ。

 大森林なら魔力調整に失敗して、超どデカイ物ができても特に問題は無いからね……。


 一旦サーヤとともに大森林に行って、チャレンジしてみようと思う。

 どうしても上手く作れない場合は、サーヤにお願いして三日ぐらいかけて作ればいいだけだからね。

 もっとも、『魔力回復薬』を使えば三日もかけなくても、少し休憩しながらやれば一日でできてしまうと思うが……。

 そう考えると……少し気が楽になった……。

 ダメ元で『家魔法』がんばってみよう!


 それからミリアさんに、俺個人としての屋敷を建てる土地と『フェアリー商会』の施設を建てる土地の場所を説明された。


 もうミリアさんの方で決めていたようだ。

 俺の個人の屋敷の場所は、守護の屋敷が立つブロックの一つ北側の一ブロック全てということだった。


 あまりにも広大でびっくりしてしまったが、ミリアさんからは丸ごと俺の屋敷にしてもいいし『フェアリー商会』の従業員の宿舎を建ててもいいと言われた。自由に使ってほしいとのことだった。


 ちなみに広さは、『マグネの街』の一号屋敷と二号屋敷を合わせた面積の二倍以上なのだ。


 それから『フェアリー商会』の事業で使う土地も纏まっていた方がいいだろうということで、今の俺の屋敷予定のブロックの東隣の一ブロック丸ごとが提供されるとのことだった。


 これも面積は、先程の俺の個人屋敷用の土地と同じくらいある。

 元々は高級住宅エリアで、全て破壊されて更地になっているようだ。


 そしてその更の東隣が大通りに面した商店スペースになっているが、そこも現在丁度更地になっているので俺に提供してくれるとのことだ。

 大通りを挟んだ更に東側の一ブロックも提供してくれるようで、大通りの東西両側のブロックを丸ごと俺に提供してもらえることになった。


 元々小さい街だが、全ての店舗が隣接エリアに集中するのは効率がいい。

 しかも大通りの真ん中付近の立地のいい場所に出店できるのだ。

 ミリアさんの気遣いに、本当に感謝したい。


 このメイン通りに面した商店ブロックは、通常のブロックの半分のサイズなので両側合わせて先程の一ブロック分の広さだ。


 それにしても……全部合わせるとかなり広大な面積になる。


 この土地の代金について尋ねると、全て無償と言われてしまった。

 アンナ辺境伯からそう言われているとのことだった。

 今までの俺の数々の貢献の報奨という意味と、復興を早めるための産業育成支援という意味で、無償で与えるとのことらしい。

 一日でも早く、復興を進めてほしいということだろう。


 俺は、ありがたく厚意を受けることにした。


 おそらくこの『ナンネの街』で『フェアリー商会』を黒字にするには、かなり時間がかかりそうだからね。

 当面、雇用の人件費だけが出ていく事業部門が多くなりそうな気がしているし……。

  まぁそんな弱気なことを言ってもしょうがないんだけどね……。


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