287.飛竜の、里。

 俺たちは地上に戻り、この街の外壁の外側の警戒に当たってくれていた『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウや『家精霊』のナーナとも合流し、みんなで休憩することにした。


「 ナーナ、凄かったね! あれが新しいスキルかい?」


 俺はナーナに、そう声をかけた。

 本当に凄かったからね。一人で全て倒しちゃたし。


「はい。新しく取得した『固有スキル』です。お役に立てて良かったです」


 ナーナは少し照れ臭そうに、そう答えた。

『家馬車』を家の別棟扱いで、自分の分身としているナーナだからこその『固有スキル』といえる。

 ナーナの正式な種族名は『付喪神 スピリット・ハウス』だが、その『種族固有スキル』ではなく、ナーナだけの『固有スキル』として『人馬車一体じんばしゃいったい』が発現したのだ。


 本当に凄い戦いぶりだったからね……ほんと……ビデオが欲しい……。


 実際に見た俺とフォウで、ナーナの戦いぶりをみんなに伝えた。


 みんな目をキラキラさせながら聞いていた。

 特にリリイとチャッピーは、目を星マークにして体をクネクネさせながらナーナを見つめていた。


「ナーナ、見たいのだ! 乗せてほしいのだ!」

「乗りたいなの〜。一緒に戦いたいなの〜」


 リリイとチャッピーがたまらず、ナーナに擦り寄ってお願いしていた。


「二人ともまた今度ね。大森林で特訓するときにでもやりましょう」


  ナーナがそう答えると、二人は少し残念そうな表情を浮かべた。

 それを見たナーナとサーヤが頭を撫でながら、なだめてくれていた。



 俺は飛竜のフジたちとフジが応援で連れてきてくれた飛竜たち三十体にも労いの言葉をかけた。


「みんな、助けてくれてありがとう! 助かったよ。もう里に戻ってくれて大丈夫だよ」


 俺がそう言うと……


「ご主人様。できればこの者たちを、今後も我らと一緒にお側に置いていただけないでしょうか。必ずお役に立って見せます」


 リーダーのフジが、そんなことを言ってきた。


 フジの話によれば、今回連れてきたのは皆若い飛竜たちで、これから里を出て新たにコロニーを作る必要があった者たちとのことだ。

 新天地で新コロニーを作るよりも、正式に俺の仲間になって働きたいと希望しているそうなのだ。

 どうも、フジのことをすごく慕っているようにも見える。


 俺としては飛竜が増えるのは、移動も便利になるし大歓迎だ。

 なので、仲間になることを快く了承した。


 ただ三十体増えたとなると、元々の十体と合わせて四十体になる。

 五体は、今ユーフェミア公爵たちに貸し出し中でいないが、いずれ戻ってくるだろう。

 新しく加わった三十体は『フェアリー牧場』にでも専用の厩舎を作って、住んでもらうしかないかなぁ……。


 大森林に住んでもらってもいいが、いざというときに出動させやすいのは牧場だと思うんだよね。

 アンナ辺境伯たちにも貸し出しできるし……。


 まぁ後でゆっくり考えることにしよう。


 俺の仲間になれて、若い飛竜たちはみんな喜んでくれているようだ。

 黒い飛竜は珍しいようだが、みんなフジたちと同じ黒い飛竜だ。

 どうも黒い飛竜の一族のようだ。


「ご主人様、実はもう一つお願いがございます。一度我らが飛竜の里に足をお運びいただけませんでしょうか。実はこのすぐ近く……今回『正義の爪痕』が作っていたアジト近くの山脈にある大山の中腹にあるのです。族長が挨拶をしたいと申しております。実は私は……族長の娘なのです。なにかお伝えしたいこともあるようなのです」


 フジが今度は、そんな話をしてきた。


 なんと……フジは飛竜の里の族長の娘だったらしい……

 どこか育ちのいい……気品のようなものを感じていたが……どうも飛竜界のお嬢様だったらしい。

 飛竜の里……せっかくなので、行ってみたい!



 俺はミリアさんに、少し仲間たちと休憩を取ると言って時間を作った。


 そして早速仲間たちと飛竜に騎乗し、飛竜の里に向かった。

 連れて行くのは、ニア、リン、シチミ、レントン、サーヤ、リリイ、チャッピーだ。


 残りのメンバーには、これから復興のためにしばらく拠点とするこの街の詳しい調査や目ぼしい物件などを調べてもらうことにした。

『スピリット・オウル』のフウ、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトルの三人には、この『ナンネの街』でもそれぞれ『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』を組織してもらうため、仲間の勧誘をやってもらう予定だ。

 この街にも、早く情報網を整備する必要があるからね。

 三人とも張り切って出かけてくれた。

 ただどうも見た感じ……領都ほどはそれぞれの生き物がいないようだが……。

 まぁ全くいないというわけでもないだろうから、少ない数でも組織した方がいいだろう。


 『竜馬』のオリョウと『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウには『家馬車』を引いてもらい、『家精霊』のナーナと『兎の亜人』のミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーたちと、この街の詳しい立地調査や商会などの調査をしてもらおうと思っている。

 街の規模は『マグネの街』と同程度なので、少ない時間でも概略ぐらいは調査できるだろうと思っている。



『ピグシード辺境伯領』と『セイバーン公爵領』の領境にもなっている山脈は、東西にかなり長い山脈なのだが、飛竜たちの里がある大きな山は西にあって、『ナンネの街』に近いところにある。

 飛竜たちの機動性からすれば、“近く”と言っていい場所なので、あっという間に着いてしまった。


 山脈の中でも一際大きな山の中腹に、広大な面積の里があるようだ。


 俺たちが降り立つと、族長らしき大きな飛竜が現れた。

 瞳に深みのある、落ち着いた気品溢れる飛竜だ。


(強き王よ。お目にかかれて望外の幸せです。お越しいただき、ありがとうございます。そしてわが娘たちを救って頂いたそうで、感謝のしようもございません)


 族長飛竜は、俺の『使役生物テイムド』というわけではないので、念話が通じない。

 飛竜がフジが通訳してくれているのだ。


 (今回は作戦に協力していただき、ありがとうございます。私も会えて嬉しいです)


 俺もそう挨拶を交わした。


 そしてこの族長から、この飛竜の里について話を聞くことができた。


 この飛竜の里は、代々続く由緒正しき飛竜の隠れ里で、族長の家系は代々飛竜を取りまとめているのだそうだ。

 いわば、この地域の飛竜の王家と言っていい家系なのだそうだ。


 フジは、その王家の直系であり、次期族長候補でもあるそうだ。

 飛竜は基本的に女系社会らしく、現族長もメスのようだ。

 フジの育ちのいい感じは、そこからきていたようだ。

 ある意味、飛竜の王女みたいな感じなのだろう。


 この飛竜の里自体は、面積的に二百体くらいしか住めないようだ。

 それ故に、若い飛竜たちを中心に随時この里を出て、新しいコロニーを作っているんだそうだ。

 フジも族長の娘でありながらも、修行という意味も含めて新しいコロニーを作ろうとしていたようだ。

 そこを『正義を爪痕』に捕まったわけだが……。


 この里の周辺にすでに十カ所のコロニーがあり、各コロニーに三十体から五十体程度の飛竜が暮らしているらしい。

 その飛竜たちをまとめただけでも四百体程度になり、この里を合わせると六百体の規模の飛竜の集団なのだそうだ。


 新天地を求めて遠くにコロニーを作っている飛竜も入れると、もっと凄い数になるそうだが、とりあえずすぐに連絡の取れるコロニーはその十カ所のようだ。


 この集団全体を統べるのが族長であり、王のような存在になっているようだ。

 族長は代々続く『テンクウ』という名を引き継いでいるのだそうだ。


 そしてなぜか……俺の仲間になりたいという申し出をされた。


 フジから俺の話を聞いたようで、強き王である俺の役に立ちたいと思ってくれているのだそうだ。

 よくいろんな生物たちに“強き王”と言われるのだが……

 自分では、なんのことかよくわからない……

 限界突破してるステータスとか……そこから滲み出るなにかを感じ取っているのだろうか……


 仲間になることについては、どうもフジも強く勧めてくれたようだ。


 人族の騎竜となるだけなら危険だが、俺の仲間の騎竜になるなら逆に強くなれるとフジが話したようだ。


 それにしても……里丸ごと俺の仲間になる必要はないと思うのだが…………。


 まぁ俺の仲間になってくれるなら、『共有スキル』で強化されるし、前にフジたちが捕まったように悪い人間に捕まる危険も減るだろう。

 俺としては、この領に散らばっているスライムたちと同じように、そのままこの里に住み続けてもらえばいいので、仲間にすることにした。

 今回みたいに、急に飛行戦力が必要になったときに、協力してもらえたら助かるしね。


 なぜか族長は、めちゃめちゃ喜んでいる……

 なんでそんなに仲間になりたいのだろうか……

 ここにいても、十分普通に暮らしていけるだろうし……

 コロニーはともかく、この里に人が踏み込むことはかなり難しいと思う。人跡未踏といえる場所なのだ。


 俺が了承したので、また『テイム』スキルを使うことなく、ここにいる二百十九体が全て仲間になっていた。


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