286.ナンネの街の、事後処理。

 俺はまずセイバーン公爵家三女でこの街の代官であるミリアさんと一緒に、この『ナンネの街』の事後処理の段取りをやってしまうことにした。


 倒した『死人魔物』は二百体近くになるので、それを片付けるだけでもかなりの作業だ。

 これについては、ミリアさんの護衛として同行していたセイバーン公爵軍の近衛隊に担当してもらうことにした。

 魔物部分のパーツを採取して、人型部分はまとめて埋葬することになった。


 魔物パーツは半分を俺が貰い、残り半分をセイバーン軍とピグシード軍で分けるということになるそうだ。

 俺としては、特にパーツは必要ないのだが、一応貰っておくことにした。

  一番被害を受けたのはこの街の住民なので、そのパーツを売却して街の財源に当ててもいいと思っている。

 ただ今のピグシード辺境伯領には、すぐにパーツを買ってくれそうな大きな商会は残っていない。

 そこでセイバーン公爵領で売れるようなら売却して、街の財源に当ててほしいとミリアさんにお願いした。


 もしセイバーン領で上手く売却できない場合でも、王都なら確実に高値で売れるらしい。

 その場合は、第一王女で審問官のクリスティアさんが手配をしてくれると申し出てくれた。

 ということで、ミリアさんとクリスティアさんで打ち合わせをしてくれることになった。

 第一王女でもあるクリスティアさんが、そんなことまで協力してくれるなんて……本当にありがたい限りだ。

 でもなぜかまた……ウインクをされてしまった……。

 リアルウインク……何回されても慣れないんですけど……。


 そしてなぜか……それを目撃したミリアさんまで、俺にウィンクをしている……

 ウインクって……された方からすると、どう返していいかわからないんだよね……

 ウィンクし返すわけにもいかないし……。


 まぁこの前と同じように、苦笑いで返すしかなかったわけだが…………。

 この件を考えるのは、やめにしよう。


『死人魔物』の魔芯核ともいえる体内の一回り大きくなった『死人薬』だったもの……つまり紅色の玉は、全て領城で厳重に保管されることになっている。

 まだ解析ができておらず、危険かもしれないからだ。

 これについても、王都から派遣されてくる王立研究所の研究員に、分析してもらう予定のようだ。


 街は一部破壊されているが、それほど大きな被害は無い。

 そこで住民については、家に戻ってもらうことになった。

 ただアジトまで拐われてしまった女性たちについては、到着次第、一応の聞き取り調査が行われることになった。


 『ナンネの街』の元々の役所は、悪魔による襲撃の時に破壊されていて、今は臨時の役所庁舎を使っている。


 俺たちはそこの会議室で、一旦の打ち合わせをしていたのだ。


 しばらくすると、ニアたちが先導する女性たちを運ぶ馬車が到着した。


 一旦役所の中に入って、聞き取りを終えるまで泊まってもらうことになる。

 心配する家族が、臨時役所の前に集まって来ていたので、無事の確認だけさせてあげて、役所の中に入ってもらった。


 最初に『土使い』の女性の一家と、『死霊使い』だった吟遊詩人の妹弟たちの聞き取り調査をクリスティアさんにやってもらい、その後俺の方で保護するというかたちになった。


 その後に捕まっていた女性たちの聞き取りを簡単に行い、最後に捕縛した構成員たちの尋問をするという段取りになった。


 『ナンネの街』の衛兵たち約四十名には、街の細かな被害確認と、住民たちに行方不明者がいないかの確認をしてもらうことにした。


 この街に元々いた衛兵たちも、突然現れた『正義の爪痕』の強襲部隊に人質を取られ投降するしかない状態になっていたのだ。

 やはり忸怩じくじたる思いがあるようで、衛兵長を始めとする何人かが責任を感じ俺に詫びを入れてきた。


 衛兵長は、ビルドさんというガッチリとした体格の四十歳の銀髪の男性だ。


 俺は今後の街の運営への協力をお願いしつつ、今回のことは気にする必要はないと話した。


 だが、このままでは街を守る衛兵として不甲斐なく、どうにかして強くなりたい、俺に教えを請いたいと希望されてしまった。


 俺は剣術の基礎もないし、衛兵を指導することなどできないので、この街にしばらく滞在するセイバーン公爵軍の近衛隊長のゴルディオンさんに鍛えてもらうことにした。

 すぐにミリアさんとゴルディオンさんに話をし、了承してもらった。

 落ち着き次第、訓練を始めてくれるようだ。

 ゴルディオンさんの剣技は凄かったので、衛兵たちもかなり実力アップしてくれるに違いない。

 彼らの生存率を高めるためにも、非常にいいことだと思っている。


 それから衛兵たちには、『正義の爪痕』が作った各広場にある地下への入り口を封鎖し、警備してもらうことにした。



 サーヤたちが戻ってきたので、俺は密かに抜け出して『マナ・ホワイト・アント』たちが作った地下スペースに待機していた『アラクネ』のケニーたちのところに向かった。


「ケニー、ありがとう。助かったよ。みんなも、よくやってくれたね!」


 俺は、ケニーをはじめとした今回の作戦に協力してくれた大森林や霊域の仲間たちに、お礼を言った。


「あるじ殿のお役に立てて、私を含め皆光栄でございます。今後は、大森林を出ての作戦に参加しやすい、サイズの小さい仲間たちのチームも作っておくようにいたします!」


 ケニーは、いつものように触脚をツンツンさせながらそう言った。

 可愛い奴め……

 そして、すぐにそんな提案ができるなんて…… 相変わらず凄い有能さだ……。


 ケニーのいう通り、今回の作戦に参加してくれたのは、体が比較的小さい仲間たちだけなのだ。

『ライジングカープ』のキンちゃんなども張り切っていたようだが、いかんせん彼女たちは鯉のぼりサイズなので、デカすぎて今回の作戦は遠慮してもらったのだ。


 サイズ的に『スライム』たちが、圧倒的多数になっていたのだ。

 遊撃部隊の中では、比較的小さな『スピリット・レッド・フォックス』のオアゲ、『スピリット・グリーン・ラグーン』のオテン、『スピリット・ブルー・スワロー』のヤクルなどが参加してくれていた。

 皆誇らしそうな顔をしている。

 本当に頼もしい仲間たちだ。


 みんなで少しだけ歓談した後、サーヤの転移で大森林に帰還してもらった。


 ちなみに、『マナ・ホワイト・アント』たちが作った俺たち専用の地下道には、みんなが作戦開始までの間に待機するために、かなり広大な広場スペースが作ってある。

 せっかく作ったので、このスペースを今後なにかに使おうと思っている。

 なんか……秘密基地みたいで……いい感じなんだよね……。

 とりあえずサーヤの転移用に、小さいサイズの転移用ログハウスを設置して、いつでも来れるようにした。


 セイバーン公爵領内にある先程の『正義の爪痕』のアジトだった地下施設にも、転移用のログハウスを設置しようかとも思ったが、これからセイバーン軍の調査が入る可能性が高いのでやめておいた。

 ただいつでも行けるように、地上の少し離れた目立たない場所に転移用のログハウスを設置しておくことにした。

 万が一にも、『正義の爪痕』が再度現れたときなどに、すぐに駆けつけられるようにしといた方がいいからね。



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