283.ナーナ、無双。

 一体の『象死人』を狙撃で倒した『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナは、すぐに『家馬車』を自走させ次に向かった。

 ナーナは『家馬車』の屋根の部分に乗っている。


 近づいた『象死人』に向かって、ナーナが『家馬車』の屋根からジャンプした!


 五メートル超えの『象死人』の頭に向けて、下から突っ込む形になっている。


 当然人部分の頭にたどり着く前に、象頭からの牙や鼻の攻撃が襲い来る!

 牙も鼻も伸縮自在に攻撃してくるのだ!


 それを予測しているナーナは、迫りながら『魔法の銃剣』を連射した!


 そして『象死人』の牙と鼻を撃ち抜いた!


 その勢いのまま『象死人』の人部分の頭に迫る——


 なんと!


 銃剣の先端の剣の部分が、赤い光を発しながら三倍以上に伸び『象死人』の人部分の頭を刺し貫いた!


 『魔法の銃剣』は、魔力弾を発射できるだけでなく、剣の部分も魔力によって伸長することができる仕様のようだ。


 これでナーナは、立て続けにレベル50以上の『死人魔物』を倒してしまった。


 なにか……ナーナが勢いづいている感じだ。


 そしてナーナは、次の『象死人』に向かう。


 もしかして……一人で全部倒す気なのか……


 おお……ナーナが屋根の中央の出入り口から、一旦中に入った。

 なにか……考えがあるようだ……。


 次の瞬間————


 自走している『家馬車』が輝きだした!


 なにか……スキルを使うのか!?


人馬車一体じんばしゃいったい!」


 そんな声を『聴力強化』スキルで強化した聴力が拾った。


 そういえば……新しいスキルを取得したとナーナが言っていた……。

 それを使うつもりのようだ。


 おお……なにそれ……え……


 なんと……『家馬車』の屋根の前方三分の一のところに、赤の全身鎧を纏った騎士の巨大な上半身が出現した!


 これはまるで……ケ、ケンタウロスの……『家馬車』バージョンか!?


 上半身が人型で下半身が馬となっている『ケンタウロス』の下半身の部分が……馬でなく『家馬車』になってる感じなのだ!


 上半身の赤いメタリックな全身鎧と、下半身部分の『家馬車』のほのぼの感が合わない気もするが……

 いや……『家馬車』部分の屋根のオレンジ色も全体の薄茶色も、いつもと違いメタリックな煌きを放っている!


 なんか……かっこいい感じになってきてる!


 フルフェイスのような兜で顔は覆われているが、伸びた赤髪が風に揺れている。


 今度は、馬車の底の部分から二本の巨大な槍が出現した!


 この戦闘スタイル用の仕込み武器なのだろうか……

 もしくはナーナの能力で、今作り出したものかもしれない。


 ナーナは、ナーナ自身である『家』や『家馬車』のそばなら人型に実体化できる。

 その能力の発展応用型のスキルなのだろう。

 その力で、巨大な騎士の上半身を実体化させているようだ。

 槍などの武器も実体化できるのかもしれない。


 全長四メートル越えの巨大さになっているので、『象死人』の巨大さともほぼ互角になっている。


 そしてナーナは槍を構え、左右の手から連続で投擲した!


 え……全然違う方向に投げちゃってるけど…………


 いや……違う……ナーナの狙いは……外壁の上の広場にいる二体の『象死人』なのだ!


 凄まじい勢いで飛んだ巨大槍が、二体の『象死人』の象頭部分を直撃した!


 一体が外壁から下に落ち、もう一体はギリギリ壁上の広場にとどまった。


 そこを逃さずその場にいる兵士たちが、人型の頭部分に攻撃を加えて倒してくれたようだ。


 そしてナーナは、地上の残り二体に近づくと……なんと殴りつけた!


 まさかの肉弾戦に打って出たのである。


 一体を大きく後ろにのけぞらせると、そのままもう一体のところに向かい、なぜか急ブレーキをかけ直前で止まり、『家馬車』の側面を『象死人』に向けた。


 すると『家馬車』の側面から、仕込み武器の矢が一斉に発射された!


 敢えて体制を崩すことで上方に角度のついた矢の雨は、面攻撃となって『象死人』を蜂の巣にした。


 人型部分の頭にも矢が命中し、そのまま絶命したようだ。

 防御の硬い象頭の部分にも矢が通っているので、ただの矢の攻撃力だけではないようだ。

 ナーナの魔力もしくはスキルの力が乗っているのだろう。

 ただの仕込武器もこの状態のナーナが使うと、相当に威力が強化されるようだ。


 ナーナは反転すると、先ほど弾き飛ばした『象死人』に近づき、『家馬車』に仕込んであるナーナがいつも使っている槍を取り出した。


 今の巨大化した騎士となっているナーナにとっては、かなり小さな槍になっているが、器用に掴み『象死人』の人型の頭部に突き刺した!


 これで『象死人』全てが倒された。


 ナーナ一人で、ほぼ全てを倒してしまったかたちになった。

 俺もそうだが、途中から周りの兵士たちも、あまりのナーナの圧倒的な戦いぶりに呆然と見つめるしかない状態になっていた。


 いつの間にこんなに強くなっていたのか……

 ナーナは、まだレベル30台後半だったはずだが……

 かなりの格上相手に、完全に圧倒していた。



 それにしても……あのケンタウロス型の戦闘スタイル……『人馬車一体じんばしゃいったい』という『固有スキル』を取得したようだ。

『人馬一体』という言葉は知っているが……人馬車一体とは……


 凄くかっこよかった!

 戦闘スタイルに……なんか名前をつけたい感じだ…………

 やっぱ……『バシャタウロス』モードかなぁ……

 うーん……我ながらダサすぎる名前だな……

 これ絶対にニアに聞かれたら……ジト目を使われていたことは間違いない……。


 なにか……もっとかっこいい名前を考えたいものだ……。



(あるじ殿、『土使い』スキルを持つ女性を捕縛しました)


 おお、街の中を担当している『アラクネ』のケニーから念話だ。

『土使い』の女性を捕まえてくれたようだ。


 ということは……おそらくだが……『武器の博士』が転移の魔法道具を持っていて領都からこの『ナンネの街』までは一緒に転移してきたのだろう。


 だが『武器の博士』は『道具の博士』と助手たちの暗殺のために一人飛び出してしまったので、『土使い』の女性が取り残されたか別の任務を与えられたのだろう。


 そして『武器の博士』が起動装置を作動させたために、拘束していた者たちが突然『死人魔物』に変わってしまったと思われる。


『武器の博士』は、『道具の博士』や助手たちの始末に失敗し俺の気配を感じて、不利を悟り緊急避難的に転移したのだろう。

 そのために、彼女は置いていかれたかたちになったようだ。


 俺はすぐに門の中へと戻り、ケニーの元へと向かった。


 地下広場の一つにいるようだ。


 いた……。確かに、あの女性だ。


『状態異常付与』スキルで眠らせていたので、付与を解除して目覚めさせる。


「あ、あーーー! ……帰らなければ! 私を帰してしてください!」


 目覚めて、俺たちを見るなり暴れながら叫んだ!

 縛っているロープが、どんどん彼女の体に食い込んでいく。


「大丈夫。君に危害を加えたりはしないよ。『隷属の首輪』で従わされていただけだろ?」


 俺のそんな言葉を遮るように、彼女は更に叫んだ!


「私のことなんかどうでもいい! 私は戻らなければ! 戻らなければ家族が……」


「もしかして、家族を人質に取られているのかい?」


「そうよ! だから帰して! 私が戻らなかったら、父さん母さん妹や弟が殺されてしまう! お願いだから帰して!」


 彼女は更に泣き叫んだ!


 なんてことだ……

『隷属の首輪』だけでは飽きたらず、家族を丸ごと人質に取るなんて……


 そういえば死んだ『死霊使い』の手紙にも家族を人質に取られていると書いてあった……

 できれば助けてほしいとも書いてあった……。


「帰すといっても、『武器の博士』はもう転移で逃げてしまっているよ」


 俺の言葉に、また彼女はかぶせ気味に叫んだ。


「いいんです! できるだけ急いでアジトに戻ります。そうしないと家族が……」


 落ち着かせないとまずい……

 このままでは、ここでスキルを使いかねない……。

 まぁスキルを使われても、すぐに対応はできるが……


「そのアジトというのは、この通路を進んだところにあるアジトかい? 」


「どうして、それを?」


「そこに家族も囚われているのかい?」


「そうよ! だから早く!」


「そうかい、わかった。じゃぁ家族ごと君を助けるよ!」


「……な、なにを……言ってるの……」


「大丈夫。俺の仲間がもうそのアジトに向かっている。必ず囚われている人たちを助けるから!」


「え…………無理よ…… アジトにはまだ三十人以上残っているはず……」


「なら大丈夫だよ。まずは『隷属の首輪』を外すから、一緒に助けに行かないかい?」


「え…………」


 女性はそう言いながら、涙をポロポロと流した。


 突然のことに話をよく飲み込めないようだが、勝手に涙が頬を伝っているようだ。


 俺は彼女の承諾を待たずに、『隷属の首輪』を外した。

 そして縄の拘束も全て解いてしまった。


「さぁ一緒に行こう!」


 俺は彼女を抱きかかえ、走りだした————


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