282.神出鬼没の、武器の博士。

 残っていた『死人魔物』も、回復薬で復活したマチルダさんたち近衛兵が取り囲んで討ち取っていた。


 これでまたもや残りは『武器の博士』と『土使い』の女性だけになった。


 でも『武器の博士』は、余裕の表情をしている。

 四十代くらいの黒髪ロングの怪しげな美人顔が、嗜虐の笑みを浮かべている。


 舌舐めずりをした次の瞬間————


『武器の博士』は、再度剣先からの魔力弾を乱射した!


 だがその魔力弾は、マチルダさんやローレルさんたちに届くことはなかった。


 スライムたちが間に合ってくれたようだ。


 領都内の巡回警備要員だったスライムたちが、駆けつけ盾となって魔力弾を受け止めたのだ!


 だが『武器の博士』は、全く動じていない。瞳を怪しく光らせている!


 あれは……


『武器の博士』が突然宝箱のような物を取り出した!


 彼女は、どうやら『アイテムボックス』スキルを持っているようだ。

 突然、空間から取り出したのだ。


 改めて『鑑定』すると……


 彼女はレベル52だ!


 そしてスキルも凄い!

『アイテムボックス』『剣術』『槍術』『斧術』『棒術』『盾術』『弓術』『銃術』『格闘』などの戦闘系スキルをほとんど持っているようだ!

『強者看破』という看破系のスキルも持っているようだ。



 え、箱が輝き出した!


 この感じ…………やばい!


 ゴオッン、バゴォーン————


 一瞬だった。箱が爆発した!


 爆風で何も見えない…………


 だが……大丈夫なようだ……。


 スライムたちも危機察知したらしく、『物理吸収』『魔力吸収』スキルなどを発動し、衝撃を受け止めてくれたようだ。


 お陰で、マチルダさんやローレルさんたちには被害が出ていない。


 それにしても…… まるで爆弾だ……。


 俺の知ってるような物理的な爆弾なのか、魔法の爆弾なのかわからないが……とにかく凄い爆発だった。


 そして、この隙に『武器の博士』と『土使い』の女性の姿が消えていた。


 おそらく……殲滅攻撃だけでなく、目くらましとしての意味でも使ったのだろう。


 そしてこの場には、巨大な土人形が四体出現している。

 おそらく足止め用に、ゴーレムを作ったのだろう。

『土使い』スキルなら、ゴーレムを作れるはずだ。

 物語にも登場していたからね。

『土使い』の女性のレベルは、25だったからそのくらいの実力はあるのだろう。


 俺はゴーレムたちを『鑑定』してみた…………


 種族名が『簡易ゴーレム(下級)』となっている。レベルが15だ。


 レベル的には全く脅威にならないが、どうも耐久力が凄まじいらしくローレルさんたちもすぐには粉砕できないでいる。


 俺は蜂の『使い魔人形ファミリアドール』を飛ばして、必死で『武器の博士』と『土使い』の女性を探した。


 だが……見当たらない。


 もし領城の外に出たなら、警戒している仲間たちから情報が入るはずだ。


 それが入らない以上、侵入してきた穴から逃げ出したと考えた方がよさそうだ。


 穴を探さなければ…………


 …………あそこか!


 領城の中庭の端に、不自然な一角がある。

 周りの土と同じように偽装しているが……なにかおかしい気配だ……。


 ここのようだ。


 だが今の『使い魔人形ファミリアドール』の蜂の体では、この扉を開けることはできない。


 近くにいたスライムたちを呼んで、隠し扉を開けてもらった。

 すぐに中に潜入したのだが……既に気配は感じられなかった。


 なにか高速での移動手段を持っているのだろうか……



 そんな時だ……


 ボゴンッ————

 バンッ————

 ゴオンッ————


 大きな爆発音がした!


 これは……


 ……こっちだ!

 爆発はここだ!


 俺はすぐに『使い魔人形ファミリアドール』の感覚共有を解いて、自分に意識を戻した。


 え……


 拘束していたスキンヘッドをはじめとする幹部たちが、一斉に『死人魔物』になっていたのである。


 どうして……?


 すべて象の『死人魔物』だ。

 胸に象の頭がついている。


 そして何体かの『象死人』が下に飛び降りた!


 視線を下に向けると…………


 北門から外に向けて走る人影が…………


 なに! …………あの白衣…………やつは!?


『武器の博士』なのか!?


 一瞬で『領都』から『ナンネの街』に来たというのか…………


 まさか…… 転移したのか……


 普通に『鑑定』した限りでは、転移系のスキルは持っていなかったはずだ……。

 転移ができる魔法道具を持っているのか……


 奴は一直線に『道具の博士』の扮装をしている兵士と助手たちの方に向かっている!


 まずい……


 俺は『波動収納』から『魔盾 千手盾』を取り出して、『武器の博士』に向けて投げつけた!


「千手盾! 奴を止めろ!」


 俺の指示に従い、『千手盾』は十数本の手を出しながら、投げられた勢いのまま背後から『武器の博士』に襲いかかった!


 だが、それを察知した『武器の博士』は即座に高くジャンプして交わしたのだった。

『千手盾』はそのまま地面に激突するかに見えたが、腕を地面に当て腕立て伏せの要領で衝撃を吸収し、体勢を立て直すと『武器の博士』に向き直った。


『武器の博士』は、素早い動きで助手たちの方に近づきながら、魔力弾を打ち出す剣を取り出し乱射した!


 『道具の博士』と助手たちを助け出すのかと思ったが……口封じのために殺すことを選んだようだ。


 だが『千手盾』は、無数の手を伸ばして即座に対応した。


 だが乱射が広範囲に及んだため、全ての魔力弾を防ぐことはできなかった。


 もっとも、防げなかった両サイドの魔力弾も助手たちに当たることはなかった。

『家精霊』のナーナと『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウが、『共有スキル』の『風盾ウィンドシールド』を展開し防いだのだ。


『武器の博士』は、防がれたことなど気にも留めずに、体を回転させながら全方位に更に乱射した!


 だがこれも当たることはない!


 周囲に展開していたスライムたちが、盾となりほとんどを防ぎ、漏れた魔力弾もアンナ辺境伯たちが盾などを使って見事に防いで見せたのだ!


 よし! 大きな被害は出ていない!

 だが、あいつはさっきの爆弾みたいに、ヤバイ物を持っていそうだ……。


 まずあいつを拘束してしまわないと!


 俺は外壁から飛び降り、やつを目指した!


 その瞬間、奴は振り向き俺を見た!


 そして、一瞬奴の長い黒髪が逆だったように見えた。


 次の瞬間、奴は消えてしまった!


 一瞬空間が揺らいだように見えたので、やはり転移したようだ。


 やはり転移の魔法道具を持っているようだ。


 どうやら助手たちの抹殺を諦めて、逃げたようだ。

 俺を見てなにか……危機察知のようなものを感じたのだろうか……。


 だが今は『象死人』の対処をしないといけない。


 外壁上の広場に二体、地上に四体いるのだ。


 先程から兵士たちが対応しているが、今までの『死人魔物』と同じようにはいかない感じだ。


 もとが強襲部隊『ソードワン』の幹部だけあって、『死人魔物』のレベルが50を超えているのだ。

 おまけに全てが『象死人』だけあって、胸に着いた象頭の牙と鼻による変幻自在の攻撃が厄介だし、耳を広げたガードで守りも堅いのだ。

 おまけに大きさも……五メートルくらいの巨大さになっている。


「千手盾! アンナ様を守れ!」


 俺の指示に従い『千手盾』はすぐにアンナ辺境伯の前に移動し、守備の体制に入った。


 バンッ——

 ——ボンッ


 突然、銃声が響き、一体の『象死人』の頭が吹き飛んだ!


 まるで俺が知ってる拳銃のような音だ……

 振り向くと……


 ナーナだった。

『魔法の銃剣』を使ったようだ。


 以前手に入れた武具販売店の先代が集めていたロマン武器の中に、槍としても使える『魔法の銃剣』があったから、ナーナに渡していたのだ。

 槍としても使えるので、槍が得意なナーナに丁度いいと思ってプレゼントしたのだ。

 遠距離攻撃手段としても使えるから、ナーナの活躍の幅が広がると思ったのだが、正解だったようだ。


 いい腕をしている。

 威力も凄い!


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