281.冒険者の、実力。

 十数体の『死人魔物』を今の戦力で相手にするのは、かなり厳しい状況だ……。


 領都内を巡回中のスライムたちに領城に集まるように念話してあるが、早く来てくれないとまずい……


 そんな時だ——


 巨大な炎の槍が『死人魔物』の胴体に直撃し、大きく後方に弾き飛ばした!


「ここは私らに任せて、二人とも下がるんだ!」


 ピグシード家の姉妹ソフィアちゃんとタリアちゃんにそう叫んだのは……なんと! 元冒険者で『狩猟ギルド』のギルド長をお願いしたローレルさんだった!

 ローレルさんの仲間の冒険者パーティー『炎武』のメンバーも一緒だ。

 吟遊詩人のアグネスさんとタマルさんも、一緒に駆けつけてくれたようだ。


 おそらく、異常を察知して駆けつけてくれたのだろう。


 それにしても早い……。

 冒険者の危機察知能力の成せることなのだろうか……。


 この人たちが来てくれたなら、大丈夫かもしれない。

 ローレルさんたちは、皆レベルが40台後半だったはずだし、アグネスさんはレベル32、タマルさんはレベル35だったはずだ。


 俺は、『絆通信』のオープン回線でプヨちゃんたち『見守りチーム』に、ソフィアちゃんとタリアちゃんを安全圏まで下げて、護衛するように指示を出した。


 そして領都内の『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』には、領都全域を満遍なく警戒するように指示を出した。

 スライムたちは、最初の指示通り領城に集まってもらい、領城の中を満遍なく警戒するように指示を出した。


 本来なら俺がすぐに駆けつけたいところだが、サーヤはニアの方に行っているので、呼び戻さないと転移が使えない状況なのだ。


 ローレルさんたちの加勢のお陰で、十数体の『死人魔物』ならなんとか対応できそうな感じになってきた。

 状況が悪化したら、『正義の爪痕』のアジトの攻略に向かっているサーヤたちに領都に転移してもらえば、一瞬で駆けつけられる。

 いざというときはアジト攻略を諦めて、サーヤたちに転移してもらえばいいので、ここはローレルさんたちに期待して見守ることにしよう。


「弱点は頭だ! 頭を潰さないと倒せない!」


 よく響くキーの高い男性の声が戦場に響いた。


 実は『オカメインコ』のピーちゃんが叫んだのだ。

 俺の指示で『ものまね』スキルを使って、高めの男性の声を出してもらったのだ。


 ローレルさんたちは『死人魔物』が初見のはずなので、弱点を教えておかないと効率よく倒せない可能性があるからね。


 ————ボンッ


 次の瞬間には、矢が先程の炎の槍を浴びた『死人魔物』の頭に命中した!


 『ロングアタッカー』というポジションの矢の名手オリーさんが、矢を射ったようだ。

 凄い命中精度と威力だ!


 魔法の矢ではなく通常の矢のようだが、かなりの破壊力だ!

『炎武』は『冒険者ギルド』でトップクラスのランクだったと聞いていたが、伊達ではないようだ!

 そして『的中のオリー』という二つ名も、伊達ではないようだ。


 今の攻撃で完全に『死人魔物』たちは、ローレルさんたちをロックオンしたようで、一斉に突撃してきた!


 そこに『タンク』という壁役ポジションの大盾使いディグさんが飛び出した!

 なんと……彼は大きな盾を二枚、左右の手に一枚ずつ装備している。

 大柄で筋肉マッチョな人ではあるが、それにしても凄い筋力だ!


「シールドバッシュ!」


 ディグさんはそう叫ぶと、両手の盾を前方に超加速で突き出した!


 バゴォンッ——


 轟音とともに、先頭にいた『死人魔物』が真後ろの『死人魔物』を巻き込みながら、後方にはじけ飛んだ!


 まるで車同士の正面衝突のような迫力だったが、ディグさんは一歩も後ずさることなく『死人魔物』を弾き飛ばしてしまった!


 その左右から来ていた『死人魔物』にも、それぞれに盾を突き出し殴り飛ばした!


『死人魔物』を全く後ろに通さない、まさに壁だ!

『不動のディグ』の二つ名は、伊達ではないようだ。



 その間隙を縫って更に襲いかかる『死人魔物』に、目にも止まらぬ斬撃が放たれた!


 一度の斬撃のように見えたが、両手と首が吹っ飛んでいる!


 これは『アタッカー』というポジションのサラさんによる攻撃だ!


 『斬鬼のサラ』という二つ名も、伊達ではないようだ!



 もう一体の『死人魔物』の首に、音もなく一瞬で糸のようなものが巻きついた!


 『斥候』というポジションのフェリスさんが、左手にはめた小手の一部から発射したようだ。

 仕込み武器なのだろう。

 もしかしたら、魔法系の武器かもしれない。


 フェリスさんが左手を手前に引くと、『死人魔物』の首が地面に落ちた!


 一瞬にして首を切断してしまったようだ。


 音もなく一瞬で始末する……まるで“必殺”の暗殺者のようだ。

 『静寂のフェリス』の二つ名も伊達ではないようだ。


 今度は『魔法使い』ポジションのローレルさんが、両手に一本ずつ杖を構えている。


 右の杖からは、上に向けて火の柱が立った!

 そして左の杖からは、上に向けて風の渦のようなものが巻き起こっている!


 ローレルさんがその杖を『死人魔物』に向けて振り下ろすと……なんと火の柱と風の渦が合体し、炎の嵐を巻き起こした!


 そしてそのまま『死人魔物』を包み込むと、炎の刃となって切り刻んで行った!


 あっという間に動かなくなった『死人魔物』は、その場に崩れ落ちた。


 どうやら……今のは『合体魔法』のようだ。

『火魔法』と『風魔法』を同時に発動し、合体させて“炎の嵐”を作ったようだ。

 まさに『炎嵐えんらんのローレル』という二つ名そのままの業だ!


 今度は吟遊詩人のアグネスさんが、素早い動きで剣を振る!


 曲剣というのだろうか……ハテナマークのように極端に曲がった剣を二本持っている。二刀流のようだ。


 なにか不規則な……それでいて流れるような……まるで舞踏のような動きで『死人魔物』に斬り付けている。


 サメの頭を切り落とし、両腕と首を流れるような動きで立て続けに切り落とした!

 おそらく……彼女の持つ『剣術』スキルと『舞踏』スキルの合わせ技なのだろう。独特の動きだ。


 そしてそのまま、そばにいたもう一体の『死人魔物』に回転するように斬り付け、サメ頭を三枚におろしてしまった!

 流れる動きでその『サメ死人』の背後に回ると、曲剣のアーチ部分の内刃を二本クロスさせるように人部分の首に当てがった。

 左右に両腕を広げると、首がボトッと地面に落ちた!


 なんという不思議な動き……なんという早技……この人はレベル以上の強さを持っているようだ。

 連続で二体を倒してしまった。


 相棒のタマルさんも負けてない!


 猫のような独特な野性味あふれる動きで『サメ死人』を撹乱すると、素早い踏み込みで腕に装着したロングクローでサメ頭を斬り付けた!

 三本の鋭いかぎ爪で、この『サメ死人』の頭も三枚におろされてしまった。

 そしてその勢いのまま、人部分の頭部にかぎ爪を突き刺した!


 このサメの『死人魔物』を踏み台にして、もう一体のサメの『死人魔物』に飛び込む!

 待ち構えていた『サメ死人』の迎撃を、体を回転させながら避けて、ロングクローで片腕を切り落とした!


 そして、まるで空中に足場があるかのように宙を蹴り、向きを変えると前方に高速回転しながら『サメ死人』に大上段からかぎ爪を振り下ろした!


『サメ死人』は、頭部から体ごと三枚におろされてしまった。


 おそらく……独特な動きの攻撃は、彼女の持つ『拳法ーー虎爪牙拳こそうがけん』によるものだろう。

 空中での反転はおそらく……『空中殺法』スキルを使ったのだろう。


 彼女も立て続けに二体の『死人魔物』を倒してしまった。

 圧倒的だった!



 レベルだけで判断すれば、アグネスさんもタマルさんも『死人魔物』と同等もしくは格下と思えるレベルだが、完全に圧倒していた。


 おそらく、スキルの力を十分に使いこなしているのだろう。

 そんな戦いぶりだった。


 スキルを使いこなせれば、多少の格上相手でも全く苦にしない……むしろ圧倒的な戦いができるということのようだ。


 スキルを使いこなせていない俺としては……改めて反省するしかない感じだ……。


 戦いの最中になんだが……この二人をリリイとチャッピーの先生にして、本当に良かったと思える戦いぶりであった……。



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