280.見守りチーム、奮戦。

 街の中の『死人魔物』たちも、『アラクネ』のケニー率いる浄魔と霊獣の遊撃部隊を中心としたチームで、瞬く間に倒したようだ。


 レベルの上がっているケニーたちにとっては、大した敵ではないからね。

 “一人一殺”できる数で臨んでいることもあり、楽勝だったようだ。


 保護した街の住人たちは、新たに『マナ・ホワイト・アント』たちに作ってもらった地下の巨大空間に保護していたようだ。

 それが功を奏し、住人の被害は全く出なかった。


 ただ捕縛した者たちを地上に集めていたので、広場の周辺の建物にはある程度の被害が出てしまったようだ。

 まぁそれは仕方がないね。

 人的被害が出なかっただけで、百点満点といえる。



 大体の状況確認が終わったそんな時だ——


 俺に予想だにしない念話が入った!


 領城の中の警護要員として配置していた、『ペット軍団』の『マジックスライム』のプヨちゃんからだった。


 なんと、突然、領城の中に『正義の爪痕』の構成員たちが現れたというのだ。


 俺は最初、耳を疑ったが……どうやら事実のようだった。

 突然、領城の中に出現したようだ。

 仮に領都内に侵入して領城まで進んできたなら、その途中で巡回しているスライムたちや『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』が気づき念話を入れてきたはずある。

 それがなく、領城内を警備をしていたプヨちゃんから報告が上がったのだから、やはり突然領城内に現れたのだろう。


 そんなことが可能だとすれば……空から舞い降りるか……まさか……


 この地下通路を領都まで繋げたのか……

 普通に見た限りでは、領都の方に続く地下道はなかったが……。

 もしかしたら……隠し扉のようなものがあって、繋がっていたのかもしれない。


 俺はすぐに領都の状況を確認するべく、領都に置いてきた『使い魔人形ファミリアドール』の蜂に感覚共有した。


 …………………………確かに……。

 領城の中に、『正義の爪痕』の構成員たちが十数名いるようだ。


 こっちにいる強襲部隊『ソードワン』と名乗った男たちと同じく、軽鎧を着た者たちが十一名。

 それにリーダーらしき白衣の女と……あれは……『隷属の首輪』をはめられた女性がいる。


 俺自身ではない蜂の『使い魔人形ファミリアドール』を通じて『波動鑑定』をすることはできないが、『使い魔人形ファミリアドール』も『使い魔ファミリア』として『絆』リストに入っているので、『共有スキル』を使うことができる。

 『共有スキル』にセットされている通常の『鑑定』なら、この蜂を通してもできるのだ。


 俺は早速、『鑑定』で二人を確認することにした。


 ………………なんと!


 白衣を着ている女は……『称号』に『武器の博士』というのがある!


 ……組織の幹部である四博士の一人が、直接攻め込んできたのか!


 そして隣にいる女性は…………


 …………なんと!


『土使い』というスキルを持っている!


 この女性は、『使い人』なのだ!


 そして『隷属の首輪』がはめられていることから推察すれば、組織に捕らえられ無理やり従わされているのだろう……。


 そして、この短期間に出来上がった地下通路や地下空間の謎が解けた……。


 おそらくこの『土使い』の女性が、スキルによって作ったものだろう。

 穴を掘るくらい、スキルの力で簡単にできるはずだからね。


 構成員たちは、領城の大広間に置いてある俺が押収した『道具の博士』が使っていた装置を、一瞬で破壊してしまったようだ。


 そしてここには、領城の警備のために配置していた『ペット軍団』というか『見守りチーム』のみんなが集まってきている。


 いや……運悪くピグシード家の姉妹ソフィアちゃんとタリアちゃんとともに、近くにいたようだ。


 彼女たちも集まってきてしまった……。


 まずい……


「こ、これは……、あ、あなたたち、なにをしてるのです! 近衛兵、マチルダ! 来て!」


 おお……ソフィアちゃんが、落ち着いた対応をしている!


 レベルが上がったせいか、怖がることなく立ち向かおうとしているようだ。

 怖くないわけはないだろうが……

 勇気を振り絞っているに違いない。


 ただレベルが上がったとはいえ、今の彼女たちのレベルでは危険だ……。


 それに俺の仲間になってるわけでもないので『共有スキル』もない……

 俺が作った『マグネ一式インナー装備』は着ていると思うが……それだけでは心もとない装備だ。

 剣も訓練用のものだろうし……。

 危険だ……。


 あっ!


 男たちが容赦なくクロスボウを発射した!


 危ない!


 ……と思ったのだが……ふう……『マジックスライム』のプヨちゃんたちが、二人の前に飛び出して止めてくれたようだ。

 プヨちゃんは体を大きく伸ばし、面積を増やして矢を受け止めた。

 『オカメインコ』のピーちゃんは『共有スキル』の『風盾ウィンドシールド』を使い、矢を防いだ。


『リス』のモグちゃんは、トリッキーな動きで構成員たちに近づくとその体を踏み台にしながら、縦横無尽に動き回り、クルミを顔面にぶつけている。

 おそらく『曲芸』スキルと『浮遊』と『立体機動』スキルの合わせ技だろう。

 そのスピードに構成員たちはついていけず、顔面にクルミを受けて鼻血を出してうずくまっている。


『アライグマ』のスリちゃんが、手を擦り合わせると泡が発生しシャボンとなって広がった。

 そのシャボンが川の流れのようにうねり、構成員たちの顔を襲って視界を奪っていく。

 これはおそらく『洗濯』スキルを使った技なのだろう。


 そこに『アルマジロ』のマルちゃんが、体を丸めボールのようになって構成員たちに向かって飛んでいくと、次々に顔面に激突し倒していった。

 まるでビリヤードのようだ。

『回転運動』スキルと『浮遊』スキルの合わせ技だろう。


 『マジックスライム』のプヨちゃんはレベル42、『オカメインコ』のピーちゃん、『リス』のモグちゃん、『アライグマ』のスリちゃん、『アルマジロ』のマルちゃんはレベル33になっている上に、『共有スキル』で強化されているから、護衛兵として十分に戦えるのだ。



 おお! 再度起き上がろうとした数人の構成員が、また倒れた。


 首には小さなトゲが刺さっている。


 ソフィアちゃんとタリアちゃんが、吹き矢で麻痺針を構成員たちの首に打ち込んだようだ。


 前に彼女たちの護身用にと思って、『正義の爪痕』から没収した『連射式吹き矢』を一つずつ渡しておいたのだ。

 こんなに上手に使えるようになっていたとは……。


 これで構成員たちは全て無力化したが、『武器の博士』と『土使い』の女性はスキルで出した土の壁によって全ての攻撃を防いでいた。


「えーーーいっ!」


 そこに近衛兵のマチルダさんたちが駆けつけた。


 マチルダさんは『武器の博士』に斬りかかったが、『武器の博士』が出した二本の大剣によって弾き返されてしまった。


『武器の博士』は、二刀流のようだ。


 次の瞬間————


 その二本の大剣の剣先から魔力弾と思われるものが連射された!

 魔法の剣だったようだ!


 不意をつかれたマチルダさんたち近衛兵は、次々に魔力弾に弾き飛ばされてしまった!


『マグネ一式標準装備』の防御力のお陰で、致命傷にはなっていないようだが、みんな血だらけだ……。


 まずい! 回復しないと……


 あ! 今度はソフィアちゃんたちの方に剣先を向けた!


 すぐにプヨちゃんとピーちゃんが『風盾ウィンドシールド』を展開した!


 間一髪!間に合ったようだ!


 モグちゃん、スリちゃん、マルちゃんは、マチルダさんたち近衛兵の方に駆け寄り、『風盾ウィンドシールド』を展開しつつ、回復をしてくれているようだ。


 みんな迅速な動きだ!


 一旦は凌いでくれたようだが……


 ん…………あれは……


 『武器の博士』が、今度はなにかスイッチのようなものを……あれは……やばい!


 次の瞬間————


 倒れていた構成員たちが「ボコボコ」と音を立てながら変形していく!


 仕込んでいた『死人薬』を強制的に発動させたようだ!

 一気に十数体の『死人魔物』が完成してしまった!


 まずい…………



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