258.保護した、奴隷たち。

 次に俺は、保護した四人の子供たちと三人の大人たちと話をした。


「改めましてグリムです。皆さんを助けるために奴隷として購入するかたちにしましたが、奴隷として働かせるつもりはありません。もしご家族などがいて帰りたい場所があるなら、そうしてもらって構いません。もし行くところがないようであれば、私のやってる『フェアリー商会』で雇用したいと思っています。もちろん給金は払います」


 俺がそう挨拶すると、みんな驚きの表情になった。

 特に大人たちは、信じられないというような顔つきだ。



 俺はみんなから話を聞いた。


  四人の子供たちは、みんな親や引き取られた親戚に売られてしまったようだ。


 一番年嵩の子が十三歳で、アレックスちゃんというようだ。

 ボブカットにした赤紫の髪が印象的なしっかりした感じの女の子だ。

 次が十一歳レナちゃんで、黒髪が胸の辺りまでかかっている。

 八歳のマギーちゃんも黒髪でショートカットにしている。活発な感じの女の子だ。

 一番下が六歳の男の子で、モンくんというようだ。

 この子も黒髪で、マギーちゃんと姉弟らしい。

 モンくんは、いつもマギーちゃんの後ろに隠れるように立っている。


「ご主人様、なんでもいたします。働かせてください。家には戻りたくありません」


  一番年嵩のアレックスちゃんが、真剣な表情で懇願してきた。


「ご主人様と呼ばなくて大丈夫だよ。奴隷とは思ってないからね。グリムと呼んでくれればいいよ。君に働く気があるなら大歓迎だよ。よろしくね」


 そう言うと、アレックスちゃんはホッとしたのか、泣き出してしまった。


「私もがんばります。捨てないでください」


 今度は十一歳のレナちゃんが、そうお願いしてきた。


「大丈夫、大丈夫。捨てたりなんかしないよ。安心して。無理に働かなくても大丈夫だよ。住むところと食事はちゃんと用意するから」


 俺はそう答え、レナちゃんの頭を撫でてあげた。


「できることは……なんでもします。あたしたちもおねがいします」


 マギーちゃんがモンくんの頭を押さえながら、一緒に頭を下げた。


「わかってるよ。君たちも大丈夫だよ。まだ小さいから無理に働く必要はないからね」


 俺がそう言うと、二人は安堵の表情を浮かべた。


 子供たちはみんな安心してくれたようだ。

 ただ涙が伝染したのか、全員泣いている。

 そして、だんだん号泣になってきている。

 サーヤとミルキーが抱きしめながら、あやしてくれている。



「旦那様。実は私たち三人は同じ商家の屋敷で働いておりました。ご主人様一家が亡くなり、商売が続けらなくなり、相続人に売られたのです。なんでも致します。どうぞ奴隷としてで構いませんので、使ってください」


 茶髪ショートの女性が代表してそう言ってきた。

 彼女は二十歳でカイラーさんというようだ。

 奴隷だったとは思えない教養を感じさせる女性だ。


 もう一人の女性が十九歳で目鼻立ちの整った金髪の地味可愛い感じの女性だ。

 メリッサさんというらしい。


 男性は二十二歳でタイラーさんという名前で、茶髪を短く刈り上げている。

 無口で朴訥ぼくとつな感じだ。

 カイラーさんのお兄さんのようだ。


 奴隷ではあったものの屋敷では下働き的な仕事だけでなく、事務仕事を含めた商売の補佐的な仕事も行っていたようだ。


 悪魔の襲撃のときに主人やその家族を失い、相続人となった親戚に売却されたとのことだ。


 ちなみに商売は宝石などの貴金属の販売を中心にやっていたようで、カイラーさんたちも宝石に詳しいようだ。

 一般の従業員と違って奴隷は裏切ることができないので、高額商品を扱う商家では重用されたのだろうとのことだ。

 冷静な自己分析だが、それだけではなく、やはり優秀だったのではないだろうか。

 この三人は、なかなか優秀そうである。なんか……やり手なオーラを感じるんだよね。


「もちろん。あなたたちがよければ『フェアリー商会』で働いてください。仕事はいっぱいありますから。住むところも用意しますからね」


「ありがとうございます。誠心誠意お仕えいたします」

「私も精一杯働きます。よろしくお願いします」

「力仕事でもなんでもやります。遠慮なく使ってください」


 カイラーさん、メリッサさん、タイラーさんがそう言って、安堵の表情を浮かべた。


「それから……もしよければなんだけど……みんなこの街にはあまりいい思い出もないと思うし、『ナンネの街』に行かないかい? 『ナンネの街』でも商会を立ち上げるんだけど、君たちに立ち上げメンバーになってもらえたらと思うんだよね」


 俺はそんな提案をしてみた。

 ここでは、自分を売り飛ばした者と顔を合わせるかもしれないし……

 環境を変えた方がいいんじゃないかと思ったんだよね。


「はい。旦那様のご指示であれば、どこへなりとも出向きます。喜んで行きます」


 代表してカイラーさんがそう答えると、みんな首肯した。


 子供たちも一緒に頷いているが……


「君たちもそれでいいかい?」


 俺は改めて確認した。


「「「はい」」」


 子供たちも大丈夫のようだ。


「旦那様、僭越ですが……もし構わなければ、この子たちと一緒に住まわせていただければと思います。まだ小さな子もおります。本来なら親が必要な年頃です。私たちに面倒を見させてください」


 おお、カイラーさんから嬉しい申し出だ。


「そうしていただけると助かります。家族として一緒に住んでもらえるなら、私としてはなによりも嬉しいことです」


「はい。ありがとうございます。子供たちのことはお任せ下さい」


 そうカイラーさんが言うと、メリッサさんとタイラーさんが子供たちに向けて優しく微笑んだ。


 子供たちも嬉しそうに、はにかんでいる。


 よかった。



 ということで、『ナンネの街』に行くときに、このファミリーを連れて行くことにした。


 それまでの間は、この本部でサーヤたちに英才教育をしてもらおうと思う。

 できれば幹部として活躍してもらいたいのだ。





  ◇





 俺は『石使い』の少女カーラちゃんを連れて、サーヤの転移で霊域にやってきた。


 早速、『蛇使い』の少女ギュリちゃんに紹介しようと思ったのだ。


 ギュリちゃんにはまだ『十二人の使い人』の話などを聞かせていなかったので、詳しく説明してあげた。


 ギュリちゃんは、大分落ち着いて元気になってきたようだ。


 ギュリちゃんを守るためにも、俺の仲間になってほしいという話をした。


「わ、私が仲間になってもいいのですか? ……私のせいで危険になるかもしれません……」


 ギュリちゃんは、少し戸惑いながら消え入るような声で言った。


「ギュリちゃん、大丈夫だよ。君を守りたいんだ。それにもし君を襲ってくる者がいたとしても、俺の仲間たちには、君を責める者は一人もいないよ。仲間同士で守り合う、そんな気持ちの者たちばかりだよ。それにこれから説明するけど、みんなめっちゃ強いから『正義の爪痕』なんかには負けないよ。悪魔にだって負けないんだから!」


 俺がそう言うと、ギュリちゃんは目から大粒の涙を流した。


「わ、私……仲間になりたいです。自分を守れるくらい強くなって、いつか恩を返したいです」


 そう言うと、ギュリちゃんはわんわん泣き出した。


 一緒にいたカーラちゃんが、そっとギュリちゃんを抱き寄せてあげていた。


 この二人は歳も近いし、いい友達になってくるのではないだろうか。



 こうして二人は俺の『心の仲間チーム』メンバーとなった。


 そして俺のスキルのことも説明し、『共有スキル』が『絆』メンバーには装備されることも説明した。


 二人は多分理解が追いついていなかったと思うが、一生懸命聞いてくれていた。

 わからなければ何度でも説明してあげればいいし、他のメンバーがフォローしてくれるだろう。


 二人は当面安全なこの霊域で暮らしてもらおうと思う。


 そして大森林で訓練して、ある程度までレベルを上げて、自分を守れる力を身に付けさせてあげたいと思っている。


 その後は状況によって、俺たちと一緒に行動してもいいし、大森林や霊域でのんびりしてもいいし、仕事がしてみたいなら『フェアリー商会』で働いてみてもいいと思う。


 彼女たちのやりたいように、選ばせてあげたいと思っている。



 ということで、一緒に話を聞いていた霊域の守護者『ドライアド』のフラニーと『スピリット・オウル』のカチョウに、今後の二人のことを任せることにした。


 途中から大森林の守護統括の『アラクネ』のケニーにもきてもらっていたので、彼女たちのレベル上げの訓練をお願いした。


「この子たちの状況を考えると、レベル30と言わずレベル50くらいまで上げて、防衛力を高くしておきたいところです。全力を尽くします。お任せください!」


 ケニーはそう言って、張り切っていた。

 余程嬉しかったのか…… 触脚をツンツンさせていた。


 リリイとチャッピーがきたときも最初に懐いたのはケニーだったし、指導も的確だった。

 ケニーも結構子供が好きなようだ。



 この二人の少女のことは、俺が心から信頼する霊域と大森林の仲間たちに任せておけば大丈夫だろう。


 ギュリちゃんの心の傷が心配だが、霊域という環境と仲間たちが癒してくれるに違いない。

 同年代の仲間として、境遇も似たカーラちゃんが一緒になってよかったと思う。



 さて次は……『虫使い』のロネちゃんだね……

 トルコーネさんたちに、どう話そうかなぁ……。



 

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