257.石使いの、少女。
俺は奴隷として購入した人たちを『フェアリー商会』領都支店本部に連れてきて、休ませてあげることにした。
これから身体を綺麗にして着替えをしてもらった後、食事をとってもらおうと思っている。
本当ならお風呂に入れてあげたいが、ここにはまだお風呂がないので水浴びしかできないのだ。
ただ、その前に少しだけ話をしておくことにした。
まずは狼亜人の少女カーラちゃんを個室に呼んだ。
ニアとサーヤとミルキーにも、一緒に話を聞いてもらう。
ニアはご意見番だし、サーヤたち大人チームの二人には今後のこともあるので、一緒に話を聞いてもらおうと思ったのだ。
「改めて挨拶させてもらうね。俺はグリム。君を助けるために奴隷として購入したけど、奴隷として働かせるつもりはないから安心して」
俺は改めて挨拶して、ニア、サーヤ、ミルキーを紹介した。
「カ、カーラです。た、助けていただき、ありがとうございます」
カーラちゃんが、力なく挨拶をする。
まだ少し怯えているようだ。
「カーラちゃん、大丈夫よ。妖精女神の私がついてるんだから、もう大丈夫。奴隷として売られることはもうないから安心して」
元気のないカーラちゃんを、元気づけるようにニアが明るく言った。
「そうですよ。旦那様や私たちといれば安心です。守ってあげます」
「もう大丈夫。私たちもグリムさんに助けてもらったんだよ。この地方は亜人が少ないけど、私も亜人だしなにも心配ないよ」
サーヤとミルキーも元気付けようとしてくれている。
「や、やはり妖精女神様と、その御一行様だったんですね。ほ、本当にありがとうございます。あの……実は……」
カーラちゃんは少し安心した表情になり、なにかを言おうとしたが思い直したのか、言い淀んでしまった。
「スキルのことかい? そのことなら大丈夫だよ。『ステータス偽装』のスキルも『石使い』スキルのことも心配ないよ」
俺がそう言うと、彼女は驚きの表情になった。
『ステータス偽装』で隠している『石使い』スキルのことが知られていて、驚いたようだ。
驚く彼女に安心するように言って、俺は『使い人』スキルのことや『正義の爪痕』という犯罪組織が狙っていること、他にも『使い人』スキルを持つ子がいて保護していることなどを説明した。
カーラちゃんは俺の話を聞き終わると、ポロポロ涙を流した。
安心したのと、いろいろな事実を知り複雑な感情が入り混じったのだろう。
号泣という感じではなく、ただポロポロ涙が頬を伝うという感じだ。
「た、助けていただいて、本当にありがとうございました」
カーラちゃんは、改めて泣きながらお礼を言った。
カーラちゃんの話によれば、『ステータス偽装』のスキルも『石使い』のスキルも、いつから持っていたのか不明のようだ。
多分、幼いときから持っていたのではないかとのことだ。
普通の家庭では、小さな子に『鑑定』スキルによるステータス確認をすることはほとんどないようだからね。
そもそも『鑑定』スキルを持つ者が少ないから、頼む機会もほとんどないということだろう。
大きくなって物心が付くと、自分でステータス画面を開くことができるので、そのときにスキルに気づくことになるのだろう。
カーラちゃんは、自分のスキルに気づいて両親に告げて以来、スキルのことを誰にも言わないように言い付けられていたようだ。
そして『ステータス偽装』のスキルが使えるようになってからは、母親の指示で『石使い』のスキルを表示されないように偽装していたとのことだ。
『ステータス偽装』のスキルレベルが1しかないので、一つの項目しか偽装できなかったそうなのだ。
そこで『石使い』スキルだけを偽装して、表示されないようにしたらしい。
悪魔の襲撃の際に両親を失い彷徨っていたところを、父親の従兄弟だという男が現れて引き取られたそうだ。
その男は、ただ奴隷のようにこき使うだけの酷い男で、本当に父親の従兄弟なのかもわからないそうだ。
同じ狼の亜人だったので、信じてしまったそうだ。
ある日、『鑑定』スキルを持つおばあさんのところに連れて行かれ、『鑑定』されてレアスキルを持っていることを知られたそうだ。
そのおばあさんも、男に脅されて無理矢理『鑑定』させられたようだ。
珍しいスキルを持っている子供が高く売れるという噂を聴いたおじさんが、ダメ元で『鑑定』してもらったのだろう。
それでレアスキルを持っていることを知られてしまい、売られてしまったようだ。
カーラちゃんは他に身寄りがなく、行くところもないらしい。
通常なら、養護園に入れてあげるところだが……
この子は特別に守ってあげる必要があるし、本人が嫌でなければ俺の
そうすれば『共有スキル』もセットできるので、かなり安全度が上がる。
そしてできれば、自分の身を守れるくらいに強く鍛えてあげたいと思っている。
霊域で保護している『蛇使い』の少女ギュリちゃんについても、そうしようと考えていたところだ。
本当は『虫使い』のロネちゃんも同じようにして、安全度を上げたいところだが……
ロネちゃんは両親もいるし……俺の
今平和に暮らしているし、あまり巻き込みたくないんだよね……。
うーん、どうしたものか……
(ナビー、どうしたらいいと思う?)
困ったときのナビー頼み、俺は『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに心の中で相談した。
(答えは明白です。最優先すべきはロネちゃんの安全です。今平和に暮らしていても、特別なスキルを持つ以上、いつ争いに巻き込まれるかわかりません。それはマスターとの関係を深める深めないに関わらず起こることなのです。そしてマスターの常識外れのスキルなどの秘密保持よりも、優先されるべきことです。トルコーネさんやネコルさんの人間性も間違いないですし、秘密を打ち明け
ナビーに、はっきり言い切られてしまった。
ナビーも俺自身のはずなのに……一切の迷いがない。
でも確かに、言われてみればその通りだ。
もしロネちゃんになにかあったとき、最善を尽くしていなかったら自分を許せそうにない。
ロネちゃん守るために、秘密を打ち明け
そうすればロネちゃんにも『共有スキル』がセットできるし、トルコーネさんとネコルさんにも『共有スキル』がセットできる。
最強の宿屋のマスターと女将さんになっちゃうかもしれないが……
それはそれで……なんかいいかも……。
そして仲間になってくれれば、ロネちゃんを特訓して自分を守れるくらい強くしてあげることもできる。
強力な武器を渡すこともできるし……。
もちろんトルコーネさんとネコルさんにもだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます