259.ようこそ、チームに。
夜を過ぎ、トルコーネさんの『フェアリー亭』が閉店した頃、俺はニアとサーヤを連れてトルコーネさん一家を訪ねた。
改めて『十二人の使い人』の話をした。
そして、その特殊なスキルを狙って『正義の爪痕』という犯罪組織が活動している。スキル所持者を狙っているという話をした。
それゆえに、俺とニアの仲間に正式に加わってもらいたいとお願いした。
そのことによって俺の特殊なスキルの恩恵を受け、ロネちゃんがより安全になることも説明した。
トルコーネさんもネコルさんもロネちゃんも、途中からはただ黙って聞き入っていた。
実際に『正義の爪痕』が行っていた『蛇使い』の少女に対する酷い行為を聞いたときには、トルコーネさんは青ざめ、ネコルさんとロネちゃんは泣いていた。
だいぶ長い話になったが、一通り話し終えた。
さすがに俺が異世界から来たことまでは、今の時点では言わなかったが、かなり常識外のレベルで常識外のスキルを持っているということを話した。
「グリム殿、いえ、グリム様、どうかロネをお願いします。ロネをお仲間に加えてください。なんとしても、ロネを守ってください。私はなんでもします!」
「私もなんでもいたします。どうかロネを、この子をお願いします!」
「私もリリイちゃんやチャッピーちゃんみたいに強くなりたいです! 人を助けられるように、だん吉たちの力を十分に引き出してあげれるように、強くなりたいです!」
トルコーネさん、ネコルさん、ロネちゃんが、決意のこもった目で、真剣に訴えてきた。
「わかりました。ご理解いただき、ありがとうございます。それでは私の『
俺が笑顔でそう言うと、トルコーネさんが俺の手を両手で力強く握った。
「本当にありがとうございます。私たちは、これから何をすればいいんでしょうか? どうすればいいんでしょうか? 何でも言って下さい!」
跪きながら俺に頭を下げるトルコーネさんを椅子に戻し、俺はゆっくりと話を始めた。
「特に今までと変わらず、この『フェアリー亭』を頑張ってください。普通にしているのが一番です。存在を知られないことが最善です」
「は、はあ……」
トルコーネさんは、少し拍子抜けしたような顔をしている。
「そして次にすべきは、仮に存在を知られて襲撃されたときでも、身を守れる強さを身に付けることです。普段からスライムたちの巡回を強化させていますので、危険はすぐ察知できると思いますが完璧ではありません。なにかあったときに、仲間たちが駆けつけるまで、耐える力を身に付けてもらわなければなりません」
「はい、わかりました。どのような訓練をすればよろしいのでしょう?」
「私の特別なスキルの効果で、『共有スキル』として強力なスキルが使えるようになります。特に防御系のスキルを使えるようになりますので、応援がくるまで耐えることはできるようになると思います。毎日少ない時間でも構わないので、スキルを使う訓練をしてください。あとはレベルを上げて、地力を付けておくことが大事です。ロネちゃんとだん吉たちは定期的に特訓を受けてもらいます。できればレベル30までは上げたいところです。毎朝お店を始める前の一時間でも構いません。サーヤが迎えにきますので、仲間たちと特訓をしてください。トルコーネさんとネコルさんも、できる範囲で参加してもらえばいいと思います」
「わかりました。ぜひ参加させていただきます。よろしくお願いします」
「それから、くれぐれも私のスキルのことや特別な仲間たちのことは他言無用で願います」
「もちろんです。決して誰にも言いません。できればうっかりを防ぐために、また契約魔法をお願いします」
トルコーネさんが真剣に答え、そうお願いしてきた。
別に契約で縛るつもりはないが……
顔が広くいろんな人と関わることが多いだけに、うっかり対策の保険は必要かもしれない……。
なによりもそれで本人が安心するなら、やった方がいいだろう。
サーヤに契約魔法で言ってはいけない内容を追加してもらって、トルコーネさん、ネコルさん、ロネちゃんとそれぞれ契約更新をしてもらった。
それから俺は前から渡そうと思っていた『インナー装備』を渡した。
三人の分と今はいないお店の手伝いの子たちの分だ。
「すみません。こんなにしていただいて。なんとお礼を申していいのやら……」
「いいのです。『フェアリー商会』の関係者には全員に配るつもりで作っていましたから。気にしないでください。それから今まで通り、普通に接してください」
「わかりました。それでは今まで通り、グリム殿と呼ばせていただきます」
「ええ、そうしてください。そのほうが自然ですから。それから、私の正式な
「え、そんなことが……」
驚いているトルコーネさんに、早速、念話で話しかけてみた。
(こんな感じです。心の中に声が聞こえるでしょう)
「はい、聞こえます!」
トルコーネさんは、声に出して答えた。
はじめての時って、こうなっちゃうんだよね……。
「ただし、念話のときは、自分の心の中で話してください。そうでないと独り言を言ってる怪しい人と思われちゃいますから……」
俺は、場を和ませるために、若干冗談っぽく言ったのだが……
誰一人として、ニヤりともしなかった……ダダすべりだった……残念……。
それはともかく、以前にロネちゃんにしたのと同様にトルコーネさん、ネコルさん、そして改めてロネちゃんにもステータス偽装して、今までと変わらない状態にした。
俺の『波動』スキルの『波動調整』コマンドのサブコマンド『情報偽装』と『波動転写』を活用して、無難なステータスを貼り付けたのだ。
人の街で暮らす全ての仲間にはやっていることだ。
『共有スキル』などが見られたら大変だからね。
それから今回『使い人』の少女三人が『
『使い人』スキルは、かなりのレアスキルとはいえ『通常スキル』なので、本来であれば仲間となった時点で、俺が共有することができる『テイクシェアスキル』の選択スロットに入るはずだが、表示されなかったのだ。
特別なレアスキルで、『固有スキル』的な扱いなのかもしれない。
そして死んだ『死霊使い』だった吟遊詩人の手紙に書いてあったことが本当だとすれば、『使い人』スキルは意思を持つスキルということになる。
そうだとすれば、仮に選択スロットに入ったとしても『波動複写』で俺のスキルとしてコピーすることはできなかっただろう。
魂のあるものの複写は、できないことになっているからね。
ロネちゃんの『使い魔』となっているだん吉を始めとした
だん吉たち『虫馬軍団』も鍛えたいと思っていたし、なにかあったときは戦力になってくれると思うので、俺の『共有スキル』をセットしておきたかったのだ。
このことによって、なんとなく意思疎通していたロネちゃんが、明確にだん吉たちと会話ができるようになり、飛び跳ねて喜んでいた。
おそらくまだスキルレベルが低くて、ちゃんとした念話はできていなかったのだろう。
だん吉たちも嬉しそうだった。
そしてだん吉から、衝撃の告白があった。
(我が
なんと! 伝説の『虫使い』に仕えていた虫馬の末裔なのか……
最初にだん吉を『波動鑑定』したときに、『名称』がだん吉39となっていて、不思議に思っていたが…… 三十九代目だったとは……。
(ということは、大魔王との戦いの様子とか……他の『使い人』も情報とかも引き継いでいるのかい?)
俺は思わず訊いた。
もしそんな情報があるなら、是非知りたい!
(はい。語り継がれているところによると、この『だん吉』という名前には『襲名伝承魔法』という特別な魔法がかけられ、名前を襲名した者に、代々の記憶や能力が受け継がれるとされています。ただし情報量が多すぎて、通常の場合は限定的な情報しか引き出せないようになっています。本当に情報が必要とされる危機的な状況になったときだけ、解放されると伝わっています)
なるほど……そういうことか……リミッターがついているみたいな感じなのだろうか。
それにしても……『襲名伝承魔法』……そんなものがあるのか……。
何世代にも渡るなんて……時間を超えたチート能力じゃないか!
『虫使い』が持っていた能力なのか、それとも別の者にかけてもらった魔法なのか……。
この魔法については、本の虫であるニアも聞いたことがないようだ。
(『だん吉』という名前は、『虫使い』さんが付けたんだよね。『襲名伝承魔法』も『虫使い』さんが使ったのかな?)
(はい。『だん吉』という名前は、『虫使い』様に付けていただいた名前だと思います。『襲名伝承魔法』を『虫使い』様が持っていたかは、現時点ではわかりません)
そうか……
なんとなくだけど……『だん吉』という名前からして『虫使い』は、俺と同じような世界からの転移者か転生者のような気がするが……。
ただ普通に考えると、時間軸があまりにも違う気はするが……
もっとも異世界に転移してる時点で、時間軸もなにもない気はするけどね……なんでもありだよね……。
(ロネちゃんが『虫使い』っていうのは、どうしてわかったんだい?)
(はい、元々暖かなポカポカした光の発生を感じ、そちらに向かっておりました。そんな時『虫使い』スキルの覚醒の波動を感じたのです。我々は、本能的に感じ取れるようなのです。代々使命を受け継いできた私は特にですが、それ以外の虫たちもある程度感じ取れるようです)
なるほど……そうだったのか……。
(君たちにはロネちゃんを守ってもらいたいから、一緒に特訓を受けてもらうけど大丈夫かい?)
(もちろんです。我等一同、全力を尽くします!)
こうしてロネちゃんの『虫馬軍団』も、最強軍団への道を歩み出したのだった。
なんか最近……『野鳥軍団』とか『野良軍団』とか結成されてるし、今後が楽しみだ!
まぁ軍団と言えば……元々『スライム軍団』もいるし、霊域や大森林にも軍団と呼べるようなチームがいくつもあるけどね……。
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