245.不思議な、縁。

 俺はアイデアを形にするべく、早速改良版の『魔法の巻物』を作成した。

 試し打ちができる大森林にいるうちに、作ってしまいたかったのだ。


 初のオリジナル巻物だ!

 飲料水を創り出す魔法の巻物と、氷を創り出す巻物を製作した。

 名前は『純水創造ピュアウォーター』と『氷塊創造ロックアイス』にした。


 早速サーヤに試してもらった。


 下に容器を置いて、それに向けて巻物を広げる。


「流れろ! 純水!」


 コマンドワードを発すると、巻物からバレーボールくらいの大きさの水球が出て、ゆっくりと落下していった。

 上手く容器に入り、破壊することもなく収まった。

 六リットル程度は、あるんじゃないだろうか。


 次は氷の巻物だ。


 これも同様に容器を用意し、そこに向けて魔法の巻物を広げコマンドワードを発する。


「降り積もれ! 氷塊 !」


 ——ガチガチガチッ


 直径三センチくらいの氷の塊が、いくつも降り注いだ。


 この巻物は、魔法陣のサイズと量を表す項目を書き換え、小さなサイズで数多く出現するかたちにしたのだ。

 五十個の塊が出るようになっている。


 二つとも問題なく作動するようだ。


 この二つは、ほぼ俺のオリジナルなので『波動複写』でコピーして量産して販売しても、俺の自主規制に引っかからない。

 特に氷の巻物は、便利で人々が喜ぶと思うので、早めに発売を考えたい。


 ただリユースタイプの巻物を作れる『魔法紙』は貴重なはずなので、販売するほどの『魔法紙』を手に入れていることは少し不自然かもしれない。

 どこかで『魔法紙』を調達する正式なルートを作っておきたいところだが……

 すぐに見つかる可能性は少ないだろうから、しばらくはいつも“妖精女神の知り合いの職人”が作っていると誤魔化すしかないだろう。


 個人的には『魔法紙』や『魔法筆』も自分で使ってみたい。

 そういう特別な技術の資料や本などがあれば、『睡眠学習』でマスターできると思うのだが……

 資料を手に入れること自体が、かなり難しいことだよね。







  ◇







 魔法の巻物の試射を終えて俺は、領城に戻ってきた。

 まだ早朝の時間帯だ。



 今日から正式に吟遊詩人のアグネスさんに弾き語りの活動してもらうが、語ってもらう内容は本来予定していたものとは異なる。


 領民に対する安全対策の告知に、主眼を置いた内容になっている。


 子供や女性、特に若い女性を『正義の爪痕』が狙っていることがはっきりしたので、その危険と注意を呼びかけることにしたのだ。

 そして身寄りのない子供たちや住む場所がない人たちは、役所に申し出るようにという案内もしてもらう。

 子供たちは孤児院に入ってもらい、家のない人、修繕が大変な人には仮設住宅に住んでもらうのである。


 一つ間違えば、本来の活動目的とは真逆の不安を煽るという結果になってしまう恐れがある。

 だが、事前に危険の存在を明確に告知した方がいいと判断したのだ。

 やはり知り合い同士で、気をつけてもらうことが大事だと思う。

 行方不明になっても早期に気づいてもらえば、対応も早くできる。


 ただ不安だけを煽ってもしょうがないので、安心できる話も弾き語りしてもらう予定だ。


 一昨日の夜のアンデッドの襲撃は犯罪組織の仕業で、その混乱に乗じて人を拐う計画だったが、辺境伯と妖精女神の一行が殲滅し、一人の死者も出さなかったことも告知してもらう。

 この部分は、本来の弾き語り的な話になる。


 そして女神の使徒や領都守備隊の兵士が、定期的に見回りをすることも伝えてもらう。

 これにより安心する人もいるだろうし、犯罪を考えている者には抑止力になると思う。

 そしてなにかあれば、巡回の守備兵にすぐに連絡するようにとの告知も付け加えた。


 ついでに守備兵の新規募集もするので、興味のある者は役所に申し出るようにという募集告知までしてしまうつもりなのだ。


 更に今後防犯用の笛を随時配るので、危険に遭遇したら笛を吹いて知らせるようにとの告知もしてもらう。


 これだけ告知すれば、いたずらに不安だけを煽るということにはならないだろう。


 これをアグネスさんたちに、各ブロックの広場で告知してもらうのだ。



 弾き語りに出発する前に、アグネスさんとタマルさんに『フェアリー商会』領都支店本部に来てもらった。


 昨日渡し忘れた防犯用の角笛の見本を渡すためだ。

 弾き語りをするときに、見本で吹いてもらおうと思っているのだ。

 この防犯用の角笛は、正式名称を『守り笛』という名前にした。


  二人と少しの打ち合わせをした後、早速、役所前広場から始めてもらうことにした。


 見送りのために本部の外に出ると、一台の馬車が止まった。


 おお……もう着いたのか……。


 なんと……やってきたのは『マグネの街』で会った冒険者パーティ『炎武』のみなさんだった。


「皆さん、早いですね。もう着いたのですか?」


 俺がそう声をかけると、みんな急いで馬車から降りてきて礼を取った。

 別に俺の臣下ってわけじゃないんだから、そんなにかしこまらなくていいのに……。


「グリム様、おはようございます。一刻も早くと思いまして、馬車を飛ばしてやって参りました」


 リーダーのローレルさんが、にこやかに挨拶をしてくれた。


「ローレルおばちゃんたちなのだ!」

「わーい! もう会えたなの〜」


 リリイとチャッピーも再会に大喜びだ!


「二人に早く会いたくて、急いで来たんだよ」


 ローレルさんが、飛び込んだ二人をぎゅっと抱きしめた。


「そうだ! 紹介するのだ! リリイとチャッピーの先生なのだ!」

「アグネスお姉ちゃんとタマルお姉ちゃんなの〜」


 そう言ってリリイとチャッピーは、ローレルさんたちにアグネスさんたちを紹介した。


「あ、あなたは…… 」


 ローレルさんが、驚きの表情で言葉を詰まらせた。


 おや……知り合いなのか?


 よく見ると、アグネスさんも驚いているようだ。


「お、お久しぶりです。覚えていて頂いたのですね。吟遊詩人のアグネスです」


 アグネスさんがそう話しかけた。


「お二人は……お知り合いなのですか?」


 俺がそう尋ねると……


「はい。私が弾き語りの旅で『アルテミナ公国』を訪れたときに、お世話になった冒険者の皆様です。かなり前のことなのに、覚えていていただけて嬉しいです」


 アグネスさんがそう答えた。


「あ、はい……そうですね。七年も前のことになりますものね。ご無事で旅をされていて、本当によかったです」


 ローレルさんもそう答えて、笑顔になった。


 七年前って………アグネスさん十七歳じゃないのかなあ……。

 まぁ成人が十五歳だから、別に十七歳で旅をしててもおかしくないか……。

 それにタマルさんは、元々『アルテミナ公国』の出身のようだし。


「七年も前のことなんですか……もしかしてそのときに、タマルさんと友人になったのですか?」


 俺はそう尋ねてみた。


「え、ええ、そうです。そのときに友達になって以降、一緒に旅をしていたのです。ところでグリムさんは、こちらの冒険者の皆さんとは、どういうご関係なのですか?」


「実は『マグネの街』で知り合いまして、領都に作る『狩猟ギルド』の運営や魔物を狩るハンターを育成する学校の教官をお願いしたのです」


「そうだったんですか。私もグリム様の『フェアリー商会』でお世話になることになったのです。この子たちの教師もすることになっています。これもなにかのご縁ですね。よろしくお願いします」


 アグネスさんはそう言って、ローレルさんたちに頭を下げた。


「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 ローレルさんたちも、アグネスさんたちに頭を下げた。


 知人と偶然に再会するなんて、縁があったということなんだろうね。


「つい最近まで『アルテミナ公国』にいらっしゃったと思いますが、よろしければ最近の情勢の話を教えていただけませんか?」


 今まで黙っていたタマルさんが、そう切り出した。

 彼女は『アルテミナ公国』出身だから、故郷のこととかいろいろ気になるのかもしれない。


「ええ、もちろんです。あなたも随分大人になったのね。ほんとに元気でいてくれて嬉しいわ。よければ私たちの馬車で送りますが……」


 ローレルさんがそう申し出てくれた。


「じゃぁ、そうしてあげてください。私はまだしばらくこの本部にいますので、後から来ていただければ大丈夫ですよ」


 俺はそう言って、送り出してあげた。


 タマルさんにとっては懐かしい故郷の話だし、すぐに話を聞きたいだろうと思ったからだ。

 気を使ったのだ。



 俺たちは、本部の執務室に戻った。


 今日もやることがいっぱいあるからね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る