244.魔法の巻物、使ってみた。

 翌朝、夜明けと同時に俺は大森林を訪れた。


 昨日作った『魔法の巻物』を試すためだ。


 ちなみに昨夜は、枕元にあの本を置いて『睡眠学習』コマンドを発動して就寝してみた。


 やはり寝ている間に本の波動情報を読み取って、ダイレクトに頭の中に入るようだ。


 本に書いてあった内容が、大体把握できている気がする。


 あの本は初級編なので、それほど複雑なことは書いていないようなのだが、普通に読んだときには理解が大変だった。

 ところが今は、理解できている感じなのだ。


『魔法』を『魔術』というかたちに定型化できたことによって、『魔法道具』や『魔法の巻物』が容易に作成できるようになって普及したようだ。


 理論上は、学習さえすれば誰にでも作成できるらしいのだが……

 実際には、能力があったり勉強ができる特別な環境の人にしか作れないと思う。


 そして現代では、その『魔術』自体が廃れているらしいので、『魔法道具』や『魔法の巻物』を作るのは非常に困難になっているようだ。



 ちなみに昨日俺が初めて作った『魔法の巻物』は、なぜか……全て階級が『上級ハイ』になっていた。

 そして品質は『高品質』になっていた。


 本来なら『下級イージー』の『魔法の巻物』のはずだが……

 品質が『高品質』になるのはまだわかるが、階級自体が上がってしまうなんて……どういうことなんだろう……。


 武具を作ったときは『武器作成』スキルがレベル10だったから、いきなり『上級』を作れたのもなんとなくわかるが………

 今回はどのスキルが影響したのだろう………


 ナビーの見解では、魔法陣やコマンドワードを『波動複写』でコピーして貼り付けたので、綺麗に描けた状態になったことで品質が『高品質』になったと考えられるとのことだ。

 そして本来は『魔法筆』を使って魔力を通しながら書くのだが、俺はコピーして貼り付けているので『魔法筆』を使っていない。

 だが、その代わりに俺の魔力を直接注ぎ込んだかたちになっている。

 俺の限界を突破した魔力が影響して『上級』になったのではないかとのことだ。



『魔法の巻物』のテストは、俺がやると威力が出過ぎる可能性が高いので、今回もサーヤとミルキーに手伝ってもらうことにした。


 まずはサーヤが『火球ファイヤーボール』の巻物を試す。


 試射用の的として置いてある大岩に向けて、巻物をかざす……


「燃え上がれ! 火の玉となり敵を穿て!」


 サーヤがコマンドワードを唱えると、広げた巻物の魔法陣が一瞬光を発した。

 ほぼ同時にバレーボールくらいの大きさの火の玉が出現し、発射された。


 ————ボンッ


 火の玉は、岩の表面を砕いて焦がした。


 まあまあの威力だと思う。


 ただ火の玉を一発打ち出して終わりというのは……なかなかに厳しいんじゃないだろうか……。

 まぁ俺が作ったのは初歩の初歩的な魔術の巻物だから、しょうがないのかもしれないけど……。


 サーヤが試しに連続してコマンドワードを唱えると、連続発射も可能なようだが……

 いくら短いコマンドワードとはいえ、何回も叫ばなきゃいけないのは効率が悪い。

 早口言葉言ってるみたいになってるし……。


 リンやシチミが使っている『魔法の杖』の方がはるかに有効だと思う。

 魔力を通して念じるだけで、発動できるからね。


 敢えてこの巻物を使う意味がないような気がする……。



 リリイがやってみたいと言うので、使わせてみた。


 リリイがコマンドワードを唱えると、サーヤのときと同様に火の玉が発射された。


 え………曲がった!

 変化球……?


 なぜか火の玉が軌道を変えた。


 リリイが念の力で曲げたらしい。


 本来手元に戻ってくる機能がない丸盾も、普通に戻ってきてたし……リリイとチャッピーには、なにか特別な力があるんだろうか……。


 俺はダメ元で、『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに尋ねてみた……


 ナビーもはっきりとはわからないようだが、一つの仮説としてリリイとチャッピーは幼く純真であるがゆえに、念が強く働いていると考えられるとのことだ。

 自分ができると思ったことを疑っていない、つまり曲げようと思えば曲がると信じきっていることが大きな力になっている可能性があるようだ。

 いわゆる念の力……念じる力……念力のようなものなんだろうか……。


 俺はサーヤに、もう一度『魔法の巻物』を使ってもらった。

 リリイと同じように曲げれるか試してもらったのだ。


 もちろんサーヤには曲がると信じて、強く念じるように指示した。


 すると……


 ………確かに曲がった!


 リリイほどではないが、少し曲がったのだ。


 なるほど………


 スキルもそうだが……道具も、特に魔法道具は使い方次第のようだ……。

 なにか……リリイとチャッピーに諭されている気分だ。


 そして……リリイが更に凄いことをやりだした!


 連続で発射するのは大変だという話を聞いていたからだと思うが、なんと火の玉を出現させて発射しないでそのまま空中に止めたのだ。

 それを連続で四回やった。

 リリイの周囲には、四つの火の玉が浮かんでいる。

 そしてリリイが指差しながら呟いた……


「火の玉となりて敵を穿て!」


 次の瞬間、浮遊していた火の玉が、次々に岩に向かい連続攻撃をした!


 なんて使い方だ……。

 このリリイの使い方なら、十分戦闘に役立ちそうだ。


 どうもリリイは、発動真言コマンドワードを分割して使ったみたいだ……。

 おそらく「燃え上がれ!」で、火の玉を出現させて、その場にとどめたのだろう。

 そして「火の玉となりて敵を穿て!」で発射したようだ。


 そんな使い方ができるなんて……想像もしなかった。

 ただよく考えてみれば、発動真言コマンドワードが二つあるんだから、そういうことも本来可能だったのかもしれない。

 それをあっさりやってのけるリリイって……やっぱり天才だな……。

 もっともリリイなら、発動真言コマンドワードが一つだったとしても、念の力で自由にコントロールしたような気はするが……。


 リリイは普通にやっているが、発動真言コマンドワードを中断して維持しながら、もう一度発動することを繰り返すのはかなり大変だと思う。

 魔力を精密にコントロールしてなきゃいけないから、誰にでもできることではないだろう。


 サーヤとニアの見解では、リリイとチャッピー、特にリリイは魔力調整が天才的に上手らしく、その能力があるからできることだろうとのことだ。


 ナビーも同様の見解だった。

 ちなみにナビーには……


(天才的に魔力調整が下手なマスターは、天才的に上手なリリイに弟子入りしてほしいところですが、リリイは天才ゆえにコツを教えることは難しいでしょう)


 ……となぜかディスられてしまった……。


 最近のナビーって……すぐにディスるんだよね……。

 まぁ俺も慣れてきたというか……むしろディスられないと、ちょっと物足りない感じにもなってきているが……。

 俺って……やばい方向に行ってる……?



 チャッピーも同様に試してみたが、やはり軌道を曲げることができたし、浮遊させることもできた。

 リリイほどじゃないが、チャッピーの魔力調整も凄い。


 二人のアメコミヒーローのような丸盾の使い方に、今更ながら納得してしまった。



 次に『水球ウォーターボール』の巻物を使ってもらった。


 これは先程の火の玉の水バージョンで、同様に水の球が発射される。


 射出されるのは純粋な水なので、リリイのように空中に止めることができれば、そっと鍋に落とて普通の水として飲むこともできるはずだ。


 これはかなり便利じゃないだろうか。

 船旅などでも、重宝するのではないだろうか。


 俺は攻撃魔法の巻物というよりも、飲み水を作り出す巻物として使えないかと考えた。


 この魔法陣を少し修正して前方に発射するのではなく、空中に浮かんで止まるという仕様にすれば誰でも飲み水が作り出せる。


 よし! 改良バージョンを作ってみよう!


 昨日の『睡眠学習』のお陰で、どうすればいいかが思い浮かぶ。

 魔法陣の一部……動作に関する術式や記号を『発射』ではなく『浮遊』『落下』に書き換えればいいのだ。


 いくつかの基本的な術式パターンや記号が本に載っていたので、もう頭に浮んでいる。


 生活に役立つ『魔法の巻物』が作れそうだ。


 そして同じように『氷球アイスボール』も、氷を作る巻物として改良しよう!

 氷が簡単に作れればみんな喜ぶだろうし、ある意味、革命的かもしれない!


 飲食店で氷入りの冷たい飲み物が提供できたり、魚などの鮮度維持がしやすくなる。


 将来的にはこの術式を組み込んだ大きな保存箱を作って、氷を利用した冷蔵庫のような物も作れる気がしてきた……。


 もう……売れまくる予感しかしない……。



 最後の一つの『光の灯籠』の巻物は、周囲を照らす光を作り出すものだ。


 巻物を広げてコマンドワードを唱えると、巻物の上空三十センチに光の玉が出現し、その位置をキープするのだ。

 発動後の巻物は再度巻いて棒状にして、手に持つと約三十センチ上に光の玉が固定され、松明のようなかたちになるのだ。

 これを手に持って移動することもできるし、なにかに立てて部屋におけば空間を照らす照明としても使えるのだ。


 光の玉は、魔力が切れるまで光っているのでかなり便利だ。


 この巻物を埋め込んだ街灯などを作れば、夜もある程度明るくできる。

 今は主要な広場や飲み屋通りなどに薪を燃やした篝火かがりびが焚かれているが、魔法の街灯なら薪を補充する必要もなくかなり便利になるはずだ。


 これも将来的には、商品化を考えてもいいかもしれない。


 ただせっかくの異世界なので……バリバリの夜のネオン街みたいなものにはなってほしくないけど……

 現状の篝火の代わり程度ならいいだろう。


 またこの術式を埋め込んだ光魔法のランタンを作ってもいいかもしれない。

 様々な場面で重宝しそうだ。


 なんか……楽しくなってきた!


 商品のアイディアがどんどん湧いてくる!


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