246.スタッフの、教育体制。
冒険者パーティ『炎武』の皆さんが戻ってきたので、俺はギルドと育成学校についての打ち合わせを行った。
『猟師ギルド』と『ハンターギルド』を合わせた『狩猟ギルド』のギルド長には、リーダーのローレルさんに就任してもらうことにした。
受付の職員などは、サーヤの方で手配をしてくれている。
拐われていた女性たちの中から選抜しているようだ。
『ハンター育成学校』の校長には、サブリーダーのサラさんに就任してもらうことにした。
ローレルさんを含めた全メンバーに、教官として指導に当たってもらう。
『ギルド会館』の北側に大きな敷地を提供してもらったので、そこに育成学校を建設する予定だ。
学校には、教員用の宿舎と生徒のための寮も作るつもりだ。
訓練スペースも、広く取れそうだ。
必要な設備や道具、訓練スペースの構造についても打ち合わせを行った。
乗馬や馬車の扱いもできた方がいいので、馬たちのための厩舎も作ることになった。
乗馬訓練や操車訓練は、ローレルさんたちの馬と馬車で行ってくれるそうだ。
実戦訓練や野営訓練も必要ということだったので、領都の南にある山の中腹にあった『正義の爪痕』のアジトだった場所を実戦訓練のための合宿施設として利用することにした。
あの山ならある程度の頻度で、魔物に遭遇すると思う。
実戦訓練の拠点として使うには、ちょうどいいだろう。
打ち合わせが終わり雑談をしている中で、『ギルド会館』に入る予定の『職人ギルド』や『農林水産ギルド』のギルド長にふさわしい人材も探しているとちらっと話した。
それを聞いたローレルさんから『アルテミナ公国』にいる知り合いに声をかけていいかと聞かれたので、適任者がいるなら声をかけてほしいとお願いした。
次にローレルさんたちを、『ギルド会館』に案内することにした。
『ギルド会館』の一階の半分のスペースが、『狩猟ギルド』になる。
早速、準備作業に取り掛かってもらうことにした。
とは言ってもきたばかりだし、今日は準備の段取りをつけたら自由に領都を散策してくれるように話した。
これから暮らす街だから、しっかり見て回った方がいいからね。
俺はローレルさんたちと別れて、『商業ギルド』に顔を出した。
今日もギルド長のウインさんは、こちらで働いているようだ。
自分の商会の方は大丈夫なんだろうか……。
前回打ち合わせした事業や土地を買い取る案件については、ほとんど話をまとめあげているようだ。
あれから一日半程度しか経っていないのに……相変わらず有能すぎる……。
それから、『フェアリー商会』への就職希望や商品や技術の売り込み希望の人からの相談も受けているとのことだった。
希望者については、『フェアリー商会』の領都支店本部を訪ねるように案内してもらうことにした。
ただ既にギルドで、各案件の受付もしてくれていたようだ。
なんとなく……このまま受付窓口をやってもらった方がいいような気がするが……。
それは甘えすぎかな……。
あと買い取り予定の商会の陶芸職人二人と連絡を取るように頼んでいたが、それも済ませてくれたようだ。
俺が急ぎで焼物の依頼をしたいという事情を、二人に説明してくれたらしい。
二人は、すぐに注文を受けてくれそうな陶芸工房を紹介してくれたとのことだ。
焼釜があれば自分たちでできるが、焼釜が破壊されていて、釜を作り直す時間を考えると知人に頼んだ方がいいと判断したようだ。
俺は場所を教えてもらい、早速向かうことにした。
『南西ブロック』の下級エリアにあるようだ。
工房を尋ねると、四十代ぐらいの男性二人と、見習いと思われる十代後半の男性三人がいた。
「突然すみません。私はグリムと申します。作ってほしい物があって伺ったのですが……」
俺がそう声をかけると、全員で一斉にこちらを向いた。
みんなで、成型作業をしているところだったらしい。
「な、なんと……シンオベロン騎士爵様ではありませんか!」
代表らしき髭面の男性がそう言うと……みんな顔を向けたまま固まってしまった……。
「どうぞ、かしこまらないでください。グリムと呼んでいただいて構いませんから」
「と、と、とんでもありやせん! 何度もあっしらを救っていただき、なんとお礼を言っていいやら……」
代表らしき男性がそう言うと、全員一例に並んで俺に頭を下げた。
そこまでかしこまれると……逆に気まずい感じだ……。
ニアがいなくてよかった。
いたら絶対に拝まれてるよね……。
ちなみにニアは途中からリリイとチャッピーを連れて、吟遊詩人のアグネスさんの弾き語りを覗きに行ったのだ。
俺は訪れた事情説明し、七輪の製作を依頼した。
珪藻土についても聞いてみたのだが、珪藻土が取れるような場所の心当たりはないとのことだった。
やはり焼き物で七輪を作るしかないので、製作を依頼した。
俺はいつものように、拙い絵を書いて説明した。
微妙に伝わりきっていない感じだったので……
粘土をもらって完成品っぽい物の形を作ってみた……。
多分……絵と粘土の合わせ技で、理解してくれたと思う。
成型した後の乾燥の工程が数日かかってしまうので、どんなに急いでも四、五日かかるそうだ。
まぁしょうがないね。
最優先でやってくれると約束してくれた。
最初はサンプルを数個作ってもらって、完成度を確かめてから本格的に頼もうかと思ったのだが……
焼肉居酒屋の営業を少しでも早く始めるために、サンプルなしで五十個作ってもらうことにした。
◇
商会の支店本部に戻ると、サーヤが一人の女性を連れてきた。
なんとなく見覚えがある感じがする……
女性の名前はメリンダさんといい、俺が最初に救出した『正義の爪痕』に囚われていた女性たちの一人だった。
俺に最初に話しかけてきて、『正義の爪痕』の構成員の情報を教えてくれた女性だった。
女性たちの中で、リーダー的な役割をしていた感じだったのを覚えている。
その後、“厚化粧の女”構成員あぶり出すためにおこなった面接のときも、しっかりとした考えを持った女性だと感心したのを思い出した。
助け出したときはボロボロの状態だったが、今はすっかり回復しプラチナブロンドの綺麗な髪をなびかせている。
目鼻立ちのハッキリとした美人さんだ。
なんか全身からやる気が出てる感じで……
できるビジネスウーマン的な雰囲気を醸し出している……。
サーヤの話ではリーダーシップがあって、人望もあるので領都支店本部の本部支配人候補として育てたいとのことだ。
まだ二十歳で若いが、亡くなった父親の商売も手伝っていたようで、飲み込みが早いらしい。
サーヤの人選なら間違いないだろう。
他にも幹部候補が十二人いて、各事業部門での部門長候補にしたいとのことだった。
準幹部候補といえる人材も、二十人ほどは選抜しているようだ。
この選抜から漏れた人たちも、皆『フェアリー商会』で働けることに喜びを感じていて、やる気があるので今後の成長が大いに期待できるらしい。
サーヤとしては、教育次第で可能性を感じる人材が多いらしく、スタッフに対する教育を充実させたいらしい。
文字の読み書きができない人が結構いるらしいが、そういう基本的な能力さえあれば可能性が広がりそうな人が多いとのことだ。
この際なので、しっかりとした教育体制を作ってしまうことにした。
仕事開始後の一時間を、学習に充てるという体制を構築することにした。
この世界では電気が発達していないので、活動時間は前倒しになっている。
一般的には、朝六時くらいから働き、夕方五時くらいに終わるかたちが多いようだ。
大体日の出が四時過ぎなので、日の出とともに起きるようだ。
そういう生活リズムだと朝六時から働いても、そんな早いという感覚ではないらしい。
大体十時間くらい働くのが普通らしいし、それ以上働かせることも多いようだ。
ただ俺はブラック企業にはなりたくないので、朝七時から夕方四時の勤務体制を基本としている。
ただ乗合馬車や飲食部門などこの体制をとりにくい部門については、交代制やシフト制にしている。
業務上問題のない部門については、始業直後の七時から一時間を学習の時間に充てることにした。
この体制が取れない部門については、個別に時間を設定して実施するかたちにする。
先生役は各部門の中で読み書きができる人が交代でやることにし、授業スタイルのパートと個人の自習を軸にした個別指導スタイルのパートを併用するかたちにした。
ちなみに文字の読み書きに関する教材は、『マグネの街』の本屋のブリーさんが作った教材を使う許可を得ているので、それを使う予定である。
それから一時間の学習時間のうち、十分か十五分程度、護身術を習う時間にしようと思っている。
アグネスさんとタマルさんに相談して、『護身柔術』を少しずつ教える体制を作りたいのだ。
ラジオ体操みたいな感じで、基本の型とかを毎日練習できるようにしたい。
働いてくれるスタッフに、自分の身を守れる力をつけさせてあげたいのだ。
もちろん商会のスタッフや関係者全員には、『マグネ一式標準装備』のインナーを配布して着用してもらうことにしてあるが。
文字の読み書きができる者に対しては、それ以外のビジネススキルを教える体制も作ろう思っている。
算術を教えたりする予定だ。
成人していない子供たちでも、働きたい子たちは、手伝いや見習いとしてできるだけ雇用してあげようと思っている。
この教育を受けてもらえば、働きながら読み書きも覚えられるのでいい体制だと思う。
もちろん一般の子たちに向けた『ぽかぽか塾』も早めに始める予定だ。
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