211.審問官の、正体。
「皆様もお久しぶりですわね」
ユーフェミア公爵にクリスティアと呼ばれたプラチナブロンド美人さんがそう言うと……
アンナ辺境伯、シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんが一斉に跪いた。
え……どういうこと?
「もう、やめて下さい! そんな他人行儀な! それに私は審問官として来たのですから、普通に接してください。アンナ様もお願いします。シャリア、ユリア、ミリア、久しぶりね」
クリスティアさんがそう言うと、皆一斉に立ち上がり笑みを浮かべた。
「クリスティアねぇ……いえ、クリスティア殿下お久しぶりです」
シャリアさんが言いかけた言葉を修正しながら、緊張気味に挨拶をした。
「もうシャリアったら! やめてって言ったでしょう! 姉様でいいのよ」
クリスティアさんは、そう言いながらシャリアさんの頭を撫でた。
「もう姉様ったら! 子供じゃないんですから! ふふ……」
なんか……シャリアさんが無邪気に笑ってる。
「クリスティア姉様、お久しぶりです」
ユリアさんが満面の笑顔を向ける。
「ユリア、あなた……また綺麗になったんじゃない? 」
クリスティアさんは、今度はユリアさんの頭を撫でた。
「クリスティア姉様、私だってもう成人したんですのよ! 」
ミリアさんが、元気一杯にクリスティアさんの手をとった。
「ミリア、まぁ大きくなって。そうよね、成人したのよね。なんだか胸も大きくなったんじゃないかしら」
「もう! 姉様ったら! からかわないでください! 」
ミリアさんが 少し頬を膨らませた。
「クリスティア様、ようこそおいでくださいました」
アンナ辺境伯が、改めて貴族の礼で挨拶をする。
「アンナ様、どうぞお気を使わずに。此度は大変でしたね。父も心配しておりました」
「陛下が……ありがとうございます」
うーん……なんかみんな盛り上がってるけど……
全くついていけないし……全く蚊帳の外なんですけど……
おっと……一通りの挨拶を終えたクリスティアさんが、俺とニアに目を止めた。
「妖精女神様、ニア様ですね。それにあなたはグリムさんですね。先日王都にいらしたユーフェミア伯母様からご活躍をお伺いしました。お会いできて光栄です。私はコウリュウド王国第一王女クリスティア=コウリュウドと申します。此度は審問官として派遣されました。よろしくお願いいたします。そして我が国民を救っていただいた事を深く感謝いたします」
そう言って貴族の礼をとってくれたこの人は……第一王女って……え⁈
もう話についていけないんですけど……
隣を見ると……さすがのニアも少し驚いているようだ。
ただニアは、俺のように固まってはいない。
「そう、私はニアよ。よろしくね。それにしても……第一王女が審問官? そんなのありなわけ? 」
おっと……さすがニアさん。
相手が王族でも全く関係ないようだ。
普通に質問ぶつけてるし……。
「ふふ、ありなのです! 貴重なスキルは活かさないといけませんし。第一王女が型破りなのは、我が国の伝統なのですわ! ねえ、ユーフェミア伯母様」
クリスティアさんは、そう言って悪戯な笑みをユーフェミア公爵に向けた。
「ニア様、この子はねぇ審問官やったり騎士団に入ろうとしたり、色々と忙しいお転婆なのさ。二十三だというのに嫁に行くつもりも全く無い」
ユーフェミア公爵はそう言って苦笑いした。
「お転婆は否定しませんけど……本当に好きな男に嫁げと言ったのは伯母様ですわよ。好きな男が現れないんだから仕方ありませんわ」
クリスティアさんが、少し拗ねたような可愛い仕草をした。
「なるほどね。この国の伝統は……第一王女がお転婆って事ねえ」
ニアが公爵とクリスティアさんを交互に見ながら茶目っ気たっぷりにそう言うと、シャリアさん達三姉妹が爆笑していた。
そんな爆笑のお陰もあって、固まっていた俺もようやくほぐれて来た……。
挨拶をしないと……
「お目にかかれて光栄です。私はグリムと申します」
少し緊張気味に、だが跪いて貴族の礼をとった。
「グリムさん、明日にはあなたも貴族になるんですよ。家名を名乗った方がよろしくってよ」
アンナ辺境伯にそう指摘された。
「改めまして、この度爵位を賜る事になりましたグリム=シンオベロンです」
俺が改めて挨拶をすると、クリスティアさんは満足そうに頷いてくれた。
それにしても……なに、この急展開!
もう……わけ分かんないんですけど……。
「早速だけどクリスティア、悪いが働いてもらうよ」
ユーフェミア公爵がそう言って、クリスティアさんに説明を始めた。
ここ数日の事件の経緯と先程までの会議の内容を、かいつまんで説明していた。
「あんたが来てくれたお陰で、明日の式典、少し光が見えてきたよ。上手く情報を引き出してくれれば、“博士”を見つけられるかもしれない」
ユーフェミア公爵が、優しくクリスティアさんの肩を叩いた。
「伯母様、分かりましたわ。早速仕事に取り掛かります!」
そう言ってクリスティアさんは、護衛役にシャリアさん達を連れて尋問に向かった。
◇
しばらくして、女構成員の聴取を終えたクリスティアさん達が戻ってきた。
彼女の持つ『強制尋問』というスキルは、『通常スキル』だがレアスキルであり、この王国には四人しか確認されていないそうだ。
スキルを発動させて質問すると、相手は抵抗出来ず答えてしまうらしい。
俺達は早速、尋問結果の報告を受けた。
やはり『正義の爪痕』は、式典での暴動及び暗殺を計画していたようだ。
領都で勧誘した使い捨ての構成員に『死人薬』を飲ませ、『死人魔物』にして破壊活動をさせる。
そしてその混乱に乗じて、元々の構成員達が公爵やアンナ辺境伯を暗殺する計画だったようだ。
だが領都内に潜伏させていた構成員達が一斉に摘発され、計画が失敗した事を知った“スキンヘッドの男”と“厚化粧の女”が独自の動きに出たらしい。
単独での暗殺だ。
元々その二人が『死人魔物』による混乱に乗じて、公爵達を暗殺する核のメンバーだったようだ。
その為に、領城内に潜入していたらしい。
ただ“厚化粧の女”の自白によれば、彼女も“スキンヘッドの男”も実行部隊の取りまとめ役程度の地位で、組織の中での地位はそれほど高くなかったようだ。
そして“博士”と呼ばれていた人物は、本名は明かされていないが、『四博士』と呼ばれている組織の幹部の一人である事は間違いないようだ。
通称『薬の博士』と呼ばれていたとの事だ。
特殊な薬の開発が得意だったらしい。
やはり『死人薬』を開発したのも、この博士だったようだ。
この『薬の博士』は領都には来ておらず、西の『イシード市』近くのアジトに避難したとの事だ。
そして女が言うには、今頃は大河を使って船でこの領を脱出しているはずとの事らしい。
それが事実だとすれば、“博士”を取り逃したのは悔しいが、明日の式典でのテロはもう無いと判断出来る。
そういう意味では一安心ではあるが……。
クリスティアさんから、もう一つ報告があった。
何故かスキルの効き目が悪く、スムーズに自白しなかったという報告だ。
そこでクリスティアさんは、何かの阻害アイテムを持っているか尋問したが、持っていなかったらしい。
ただ“博士”に飲めと言われた薬を飲んでいたという証言は、引き出せたとの事だった。
凄い! 俺が知りたかった情報を引き出してくれていた。
初見でそこまで気が回るとは……
クリスティアさんは勘がいいし、とても有能なようだ。
やはり認識阻害と偽装が出来る薬を使っていたようだ。
『認識阻害薬』とでも名付けるか……
おそらくこれも『薬の博士』が開発したのだろう……。
偽装効果があった事を考えると……一人ひとりにカスタム仕様で薬を作っていたのか……それとも一律に調整するような作用があるのか……いずれにしろ『死人薬』とはまた違った意味で、恐ろしい薬である事は間違いない。
まったく……恐ろしいマッドサイエンティストだ。
その能力をなぜいい事に使わないんだ……。
『認識阻害薬』は波動情報を乱すので、多少なりとも『強制尋問』スキルに影響したのだろう。
『強制尋問』スキルは、おそらく波動情報を読み取るのではなく、対象者に嘘をつけなくさせるスキルなのだろう。
だから知っている事は、正直に答えてしまう。
それゆえに『認識阻害薬』の影響は少ししか受けずに、情報を引き出す事が出来たようだ。
今回の報告は、『明日の式典に別の計画があるのか』と『“博士”の行方』に絞った尋問の結果で、この後も引き続き尋問するとの事だ。
「これで少しは安心出来るね。明日の警戒を緩めるわけにはいかないが、正体不明の“博士”はいないらしいし、他に計画もないようだからね」
ユーフェミア公爵が小さく頷きながらそう話した。
確かに警戒を解くわけにはいかないが、今回の報告のお陰で精神的には大分楽になった。
クリスティアさんが来てくれたのは、本当に大きかった。
ただやはり……マッドサイエンティストである『薬の博士』は、捕まえておきたかったが……
『正義の爪痕』は領都での次の計画と、幹部である“博士”の避難を同時並行で実行していたという事だ。
やはり侮れない組織だ……
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