212.捕縛と、救出。

 式典当日、俺は夜明け前から動く事にした。


 式典が始まるまでにはある程度時間があるので、『イシード市』近くにあるという『正義の爪痕』のアジトを探し、急襲しようと思っている。


 もしかしたら『薬の博士』がまだ居るかもしれないし、囚われている人がいるなら助けたい。


 昨夜のうちに、アンナ辺境伯とユーフェミア公爵には、夜のうちに飛竜を飛ばして『イシード市』の近くにアジトがないか確認に行く許可を取ってある。


 最初は難色を示されたが、必ず式典までに戻る事を約束し了承してもらった。


 万が一にも『薬の博士』がいれば捕縛したいという思いは、公爵達も同じだったようだ。


 シャリアさんは自分も飛竜で付いて行くと譲らなかったが、俺達がいない分守り手が必要だからと説得して、残ってもらった。


 実際は飛竜では無く、サーヤの転移で行こうと思っている。

 もちろん飛竜が厩舎に残っているのはおかしいので、三体の飛竜は一緒に転移で連れて行く。


 俺はサーヤに念話して、『マグネの街』居残り組も全員連れて来てもらった。


 そしてサーヤの転移で、『イシード市』近くに設置した転移用ログハウスに全員で転移した。


 俺は『波動検知』を使い、『正義の爪痕』の構成員に焦点を当て探す———


 …………………いた!


 どうやら構成員全てに行き渡るほど『認識阻害薬』は無いようだ。


 街道からかなり離れた場所にある小さな山の中のようだ。


 ここならスライム達の巡回エリアから外れているので、今までわからなかったのだろう。


 俺達は慎重に近づいた。


 どうも建物らしきものは無い。


 前回発見したアジトと同様に、天然の洞窟のようなものを利用しているのかもしれない。

 もしくは穴を掘って作った可能性もある。


 周囲を慎重に探り、やっと入り口らしきものを発見した。

 緩やかな斜面に、大きめの岩がもたれかかっている。


 あの岩の影になっているところに、入り口があるようだ。


 日の出直後なので、まだほとんどの人間は寝ているはずだ。


 いつものように、リンに先行偵察を頼む。



 しばらくして……リンが戻って来た。


「あるじ、悪い奴二十二人、みんな寝てる。捕まってる人達いっぱいいた。みんな檻に入っている」


 よし!


 『薬の博士』がいるかどうかはともかく、囚われていた人達は残っていたようだ。

 『薬の博士』と一緒に連れ出されたかと心配していたが、大丈夫のようだ。


 俺達は一気に突入し、瞬時に捕縛した。


 全員寝ていたから楽勝だった。


 やはりここにも女性ばかり五十名ほどいた。正確には五十五人のようだ。


 前回の時と同じような感じだ。

 この女性達から血を奪って、ここでも『死人薬』を製造していたのだろうか……。


 俺達は女性達に助けに来た旨告げて、安心するように言って落ち着かせた。


 そして、いつものように怪我を回復してあげて、『スタミナ回復薬』や『気力回復薬』を与えた。


 俺は捕縛した構成員達に『波動鑑定』をかけた。

『認識阻害薬』を飲んでいる可能性もあるので、一人一人じっくり凝視し時間をかけて行った。

 集中してじっくりやれば、『認識阻害薬』を飲んでいても見破れる可能性が高まるからね。


 だが……構成員の中に『薬の博士』と思われる者はいなかった。


 ここにいる構成員は、誰も『認識阻害薬』を飲んでいないようだ。

 下級の構成員なのだろう。


 俺は『薬の博士』の居場所について、尋問する事にした。

 もしまだ近くにいるなら、間に合うかもしれないからね。


 拷問なんかしたくないが……時間がないので少しだけ手荒に尋問した。


 一人の構成員の腕を、ほんの少しだけ縛り上げた……そうほんの少しだけだ……とても優しく……決して折りそうなほどではない……決して……。


 ———男は素直に口を割ってくれた。そう……素直だった……。


 やはり『薬の博士』は、既に船に乗った後のようだ。

 行き先はわからないらしい。


 そして思った通り、ここでも『死人薬』の製造が行われていたようだ。


 博士は出来上がっていた『死人薬』と、関係機材や資料を魔法カバンで回収し、アジトの破棄を告げて去ったそうだ。

 構成員達には、領民として各市町に潜伏するように指示を出していったらしい。

 そして血液採取に使っていた女達は、殺すか、奴隷として販売して活動資金にするか、自由に使えと言っていたそうだ。


 構成員達は、弱った女は殺し、見目の良い女はもて遊んだ後に、奴隷として売るつもりだったらしい。


 今までは血液を取る為の大事な道具として、乱暴は禁じられていたようだ。

 だが、それもなくなり危ないところだった。まさにギリギリだった感じだ。


 俺はこの話を聞いて……怒りが込み上げ、思わず手を折りそうになったが……何とか堪えた。


 そんな俺の更なる尋問により、他のアジトの場所も突き止める事が出来た。


 『イシード市』と同じく大河沿いにある『セイネの街』と『ホクネの街』の近くにアジトがあり、同様に『死人薬』の製造を行っているらしい。

 どうも三つのアジトは連動していたようで、情報を引き出す事が出来た。

 やはり女性達が監禁されているようだ。


 そして男性達は捕まった初期の段階で、領外に連れ出されたとの事だった。

 洗脳して構成員にするか、何かの実験に使うか、奴隷として販売して活動資金に充てるかという使い道なのだそうだ。


 聞いてるだけで反吐が出る!


 また腕を折りそうになってしまった……。


 なんて事を……この組織絶対にぶっ潰す!


 俺は再度心に強く誓った!


 俺は、『イシード市』周辺の巡回警備をしていたスライム達を呼んでここの警備を任せ、残り二箇所のアジトに囚われている女性達の解放に向かった。


 ここの女性達には、後で領軍が迎えに来るので、しばらく待つように伝えた。

 スライム達が守ってくれるから安心するようにとも伝え、食事や飲み物を与えた。


 領軍が来るまで数日かかる可能性があるので、転移の使えるサーヤに数日間の世話と女性達のケアを頼んだ。

『フェアリー商会』の運営などで忙しいサーヤだが、快く引き受けてくれた。


 サーヤも出来るだけこの女性達の力になってあげたいと思っているようだ。

 時間があるので、一人一人詳しい話を聞いて、『フェアリー商会』での雇用を含めた今後の再出発の力にもなりたいと言ってくれていた。

 サーヤって本当に素晴らしい。

 俺も是非そうしてあげたい!






 ◇






 残り二つのアジトを回り、同様に構成員達を捕縛し囚われていた女性達を助けた。


『セイネの街』近くのアジトには、構成員が十七名いて女性達が四十九名囚われていた。


『ホクネの街』近くのアジトには、構成員が十九名いて女性達が五十一名囚われていた。


 この二つのアジトも廃棄指示が出ていて、『死人薬』もその製造機材も関係書類も残っていなかった。

 ちなみに二カ所とも女性達は、かなり衰弱していたが、まだ乱暴などはされていなかった。

 間に合って良かった。本当に早く動いて正解だったようだ。


 三つのアジトに残されていた物は全て回収したが、構成員達が使う武器がほとんどで、有力な手がかりとなりそうな物は何もなかった。


 例の魔力を通して連射する吹き矢は、各アジトから五つずつ合計十五本回収した。

 矢のカートリッジもかなりあった。

 カートリッジには、麻痺バージョンと毒バージョンがあった。


 毒矢を吹かれたら、普通の人などひとたまりもない。

 暗殺用の武器として使えてしまう。


 まったく厄介な物を作りやがって!

 これが配られているとなると……かなり危険だ。


 俺の尋問により口が軽くなった構成員が言うには、『武器の博士』と言われている『四博士』の一人が作った量産武器第一号なのだそうだ。


  『死人薬』の製造についても、口を割った。


 女性の血を使うのは最終工程のようで、半製品状態の丸薬が持ち込まれ、それに女性の血を吸収させ完成品に仕上げるようだ。

 新鮮な血を、大量に一気に吸収させる必要があるらしい。

 あの紅色は、女性の血を吸った色だったようだ。



 俺は二つのアジトの女性達にも、領軍が迎えに来るのでしばらく待つように伝え、大量の飲み物と食料を渡した。


 この二箇所についても、サーヤにケアを頼んだ。

 サーヤの転移を使えば、すぐに移動出来るからね。


 サーヤが転移出来るように、三箇所の『正義の爪痕』のアジトだった場所は、俺の別荘という取り扱いにした。

 これでサーヤのスロットにセット出来る。


 また領都近くの最初に発見したアジトも、再利用されないように俺の別荘扱いにして、サーヤのセットリストに入れてもらった。


 あそこは大きな山の中腹だから、人目も全くなく秘密の合宿をしたりするのにいいかもしれない……。





 

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