209.認識阻害の、謎。
公爵が見事に、スキンヘッドの男が変異した『死人魔物』を倒してくれた。
だが、まだ油断は出来ない。
スキンヘッドがいたという事は、“厚化粧の女”や“博士”も潜んでいる可能性があるという事だ。
それにしても……なぜスキンヘッドの男がいたにもかかわらず、俺の『波動検知』に引っかからなかったのか……。
そして奴には……『波動鑑定』も上手く機能しなかった。
一体どういう事なのか……。
『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに訊いてみると…………
(おそらく……『ステータス偽装』等のスキルか、認識阻害型のアイテムの効果ではないかと思われます。マスターの『波動検知』にかからなかった事を考えると、偽装系では無く……認識自体を阻害する系統のものと考えた方がいいかもしれません。最悪は……両方の機能を備えている可能性もあります。『波動鑑定』は直接対象に向けられるスキルである為、マスターの突出した高レベルの威力で、何とか限定的にでも鑑定する事が可能だったと考えられます。もっとも……次も可能かはわかりませんが…… )
なるほど……確かに波動情報を乱す事が出来るスキルやアイテムを使っていたなら、俺が『波動検知』しても検知出来なかったはずだ。
考えてもみなかったが……俺の『波動検知』に引っかからないからといって、居ないと決めつけるのは危険だという事だ。
今後の教訓にしよう。
そして『波動鑑定』も……今回は何とか出来たが……いつも出来るとは限らないと思っていた方がいいという事か…………。
ニアの話では、通常スキルの『ステータス偽装』は自分のステータスを偽装出来るが、他人のステータスまでは偽装出来ないはずだとの事だ。
俺は『波動』スキルの『波動調整』コマンドのサブコマンド『情報偽装』を活用して、仲間達のステータスを偽装しているが、それはかなり特殊な事のようだ。
『鑑定』を誤魔化す為の認識阻害型のアイテムは、過去に遡れば何種類か実在したようだ。
そういうアイテムを使ったか、もしくはそういう薬を開発して飲んでいた可能性もあるのではないかとニアは予想を立てていた。
確かに『死人薬』なんてものを作り出せる組織だから、認識阻害薬みたいなものを開発している可能性もあるかもしれない……。
もし、“博士”と呼ばれる男も“厚化粧の女”も認識阻害系の何かを使っているとしたら、俺の『波動検知』で検知する事が出来ない。
元々『スピリット・オウル』のフウが持っていた『
そして直接対峙したとしても、『波動鑑定』で見破れるかどうかは……現時点ではわからないという事だ。
まったく以て……厄介だ……。
スキルを使って探し出せないとなると……
守りに入るしかない感じになってしまう……。
もしかしたら“博士”と“厚化粧の女”以外にも、認識阻害状態の構成員がいるのかもしれない。
昨夜俺が捕縛した構成員達は実働部隊の下っ端で、認識阻害型の何かが与えられていなかったのかもしれない。
ただ、そもそも潜伏場所を急襲されるとは思ってなかったはずだから、対策をしてなかっただけかもしれないが……。
それにしても困った……
このままでは……事件を起こすまで見つける事が出来ない。
刑事ドラマ並みの地道な捜査をするしかないが……明日の朝までに見つけ出せるかどうか……。
今は……やれる事をやるしかない。
俺はアンナ辺境伯とユーフェミア公爵に、先程倒したスキンヘッド男の『死人魔物』の遺体の解剖を進言した。
もし認識阻害型のアイテムや薬を使っているとすれば、体から何か出てくるかもしれないと考えたからだ。
『死人魔物』になった後も認識阻害効果を保っていたという事は、体の内部にある可能性が高い。
生きている時に着ていた服などは、魔物化した時に破れて手がかりになるようなものは見つけられなかった。
まともな形をとどめていた物は、俺が弾き飛ばした『吹き矢』だけだ。
構造を確認すると、かなり特殊だった。
完全な魔法道具というわけではなさそうだが、魔力を流して使う構造になっている。
あくまで物理的な吹き矢なのだが、連射する特殊な構造になっており、それを使う為には魔力を流す必要があるようだ。
驚く事に筒状の吹き矢の内部には、小さなトゲ状の矢が直列に三十個繋がっている一種のカートリッジのような物が入っていた。
例えるなら……円錐型のパーティー帽子が何個も重なっているような状態だ。
魔力を通すと、先頭から順番に射出される構造のようだ。
予備のカートリッジも落ちていた。
詳しく調べたいので、許可をもらって預かる事にした。
そして『死人魔物』の解剖には、俺も参加する事にした。
やはり胸の中央付近に『死人薬』が一回り大きくなった紅色の球がある。
俺達は、この核のような物を『死人核』と呼ぶ事にした。
他には特に何も見つからなかった。
もっと切り刻まないとダメなんだろうか……。
俺はもう一度この死体に『波動鑑定』をかけてみる……
………………やはりノイズが入る。
生きていた時ほどではないが、波動情報が乱れているのは間違いないようだ。
アイテム型の物だとしたら、小さい物が体に入っていて、稼働には魔力を必要とするのかもしれない。
それなら死んだ後に阻害効果が低くなる説明がつく。
もう一つの可能性は、薬状の物が体に溶け込んで阻害効果を発揮している為に、見つけられないというものだ。
死んで活動が無いので、阻害効果が薄れている可能性もあり得る。
後者の場合は、いくら体を切り刻んでも出て来ないだろう。
前者の場合でも、かなり細かく切り刻んで確認をしなければならない。
だがここは可能性に賭けてみるほかない。
俺は細かく切り刻む事にした。
俺は可能な限り調べてみたが……アイテムのような物は見つける事が出来なかった。
どうも薬的な物を使った可能性が高いようだ。
“博士”と“厚化粧の女”を何とか見つけないといけないが……『波動検知』で検知出来ない以上、発想を抜本的に変える必要があるかもしれない。
組織の幹部である事が確定している“博士”はともかく、“厚化粧の女”はスキンヘッドの男と同じようにテロの実行役として動く可能性もある。
そう考えると……片割れのスキンヘッドがここに潜入していた以上、厚化粧の女もやはりこの領城を狙う可能性が高い。
問題はどうやって、この領城に入り込むかだが……
スキンヘッドの男は荷物運びに紛れて入ったようだが……女性の方が目立ってしまうはずだ……
目立たずに、この領城に入る方法なんて…………
…………………………………………ん…………待てよ…… 一つだけ方法があるかもしれない!
認識阻害型の何かで『鑑定』等のスキルを誤魔化せるなら……領城に入り込む方法はある!
そうか…………
女を隠す一番良い場所は…………女の中だ!
「アンナ様、昨日保護した女性達はまだ領城にいますか? 」
「ええ、まだ居ります。一通りの聴取は終わりましたので、最後に今後の意向を確認して仮設住宅に移してあげようかと思っています」
俺の質問にそう答えてくれた辺境伯は、少しだけ不思議顔だ。
俺の質問の趣旨を捉えかねているのだろう。
「その件ですが、少し待っていただけますか? 」
辺境伯は更に不思議顔になり、公爵はじめ三姉妹も説明を求める視線を俺に送ってきた。
俺は頭に浮かんだ考えを説明する事にした。
もし厚化粧の女がスキンヘッドの男同様に、この領城に潜入して破壊活動を画策しているとしたら……
保護された五十数人の女性達に紛れるのではないかと考えたのだ。
保護された女性達は、事情聴取の為に領城に連れていかれる可能性が高い。
奴らは、その可能性に賭けたのではないか。
普段厚化粧だったという事は、化粧をとれば素顔がわからない可能性が高い。
元々囚われていた五十数人は、全員が顔見知りだったわけではない。
それにみんな弱っていたから、全員の事を把握していたわけでは無いはずだ。
紛れ込む事は、十分出来るだろう。
「なるほど……確かに……初めから逃げるつもりじゃなくて、攻めるつもりなら……二の矢三の矢をかけるつもりなら、十分あり得る筋立てだね」
公爵の言葉に、他のみんなも首肯してくれた。
そして俺は、厚化粧の女をあぶり出す為の作戦を提示した。
一か八かの賭けだが、やる価値はあるとの結論になった。
よし! あぶり出し作戦開始だ!
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