208.美熟女戦士、見参!
スキンヘッドの体が鈍い音を立てながら、どんどん膨れ上がっていく。
まずい……
『死人薬』を飲んだようだ。
いつの間に……
一瞬の早技で飲んだのか……
スキンヘッドは完全に『死人魔物』になった。
しかも象の『死人魔物』だ。
象のタイプは初見だ。
両足が象の足になってる。踏まれたらヤバそうだ。
胸に象の頭が付いている。
長い鼻に大きな牙が突き出ている。
耳はプロテクターのように、腕と肩をカバーしている。
かなり強そうだ……。
『波動鑑定』をかけてみると……
なんだ⁈
鑑定が何かに阻害されているようだ……。
ノイズのようなものが入り、鑑定画面が乱れる。
乱れながらも、抗うように一時的に表示される内容をなんとか読み取ると……
レベル45だ!
こいつは、かなり厄介そうだ。
「待ちな! そいつは私がやる! グリムもニア様も手出し無用だよ。新しい力を試すのに丁度いい! 」
ユーフェミア公爵がそう言って、動き出そうとした俺達を制した。
「わかりました。フォローに回ります。くれぐれも無理をなさらぬように」
俺は公爵の気持ちを汲んで、そう返事をした。
そしてニアと共に、フォロー体制で見守る事にした。
剣を構えたシャリアさん達も、意向を汲んでその場で様子見をしている。
「
公爵がそう叫ぶと、公爵のへその下おそらく丹田のあたりから、前方に光が照射された。
そこに少し成長した姿の子供トレントが現れた。レントンより少し大きい。
頭部にはピンクの花……桜の花が咲いている。
おそらく公爵が言っていたミティなのだろう。
ただ、実体としては希薄な感じで、どちらかというと立体映像に近い気がする。
ミティは、優しい笑みを浮かべて公爵を見つめている。
「ユウ・ハブ・コントロール! 」
おお、ミティが喋った!
「アイ・ハブ・コントロール!」
公爵がニヤリと笑みを浮かべ、そう宣言した!
瞬間、ミティが公爵にダイブする様に抱きついた!
すると桜の花びらが渦を巻き、公爵を包み込む———
———渦が一瞬で消える!
輝きを発しながら、武装したユーフェミア公爵が現れた!
おお!
凄い! かっこいい! 綺麗! 可愛い! なにこれ!
———まるで変身ヒロインだ!
地球を守る戦隊ヒーローのピンクのような身体を包むアンダースーツに、ピンクの鎧パーツが装着されている。
上半身、腰、足、腕、そして頭部に装着されている。
頭部のパーツは、ティアラのような形状のヘッドギアになっている。
綺麗な金髪が、桜の花びらと共に風になびいている。
アンダースーツはピンクとシルバーが基調で、鎧パーツというか強化外装は、綺麗な桜のピンク色に所々金の縁取りが入っている。
とてつもなく乙女チックで、綺麗可愛い鎧だ!
俺の元の世界で女の子達が憧れていた、プリティーかつ癒しの美少女戦士のような出で立ちだ!
美少女戦士というか……“美魔女”戦士だ!
思わず見とれてしまった……
年上好きの俺としては……少しだけ惚れそうになってしまった……
そのぐらいかっこいいのだ!
俺は興味に勝てず……思わず『波動鑑定』してしまった。
なんと! 各ステータスが…… 三割も上昇している!
全ステータスが強化されるなんて…… 凄い強化スキルじゃないか!
おそらくこの鎧自体の防御力も、相当なものだろう。
この戦いは、安心して見ていられそうだ。
公爵は腰の左右に装備した二本の剣を抜き、二刀流の構えを取る。
「オマエら化け物の好きにはさせないよ! この領は必ず守ってみせる! さぁかかってきな! 」
公爵がそう挑発すると、『死人魔物』は完全に公爵をロックオンしたようで、象の鼻先からイシツブテを連続発射した!
連続で迫るイシツブテを剣で叩き落していた公爵だが、波状攻撃に対応しきれず何発か被弾してしまった。
それでも鎧の防御力が高く、全くのノーダメージのようだ。
今度は公爵が斬り込んで行く!
降り注ぐイシツブテを斬り捨てながら、加速すると下から象の鼻を斬り上げた!
象の鼻が両断され宙に舞ったが、『象死人』は全く意に介さず公爵に牙を突き立てる———
———瞬間のバックステップで、公爵がギリギリ躱した。
そして今度は低い姿勢から、スライディングするような形で『象死人』の足を斬り付けた!
だが象足に変化している為皮膚が厚く、一撃ではえぐる事は出来ても、切断する事は出来なかったようだ。
『象死人』は何事もなかったかのように公爵の方に向き直ると、今度は象耳を大きく動かし強風を巻き起こした!
一瞬の突風に公爵が吹き飛ばされる!
その落下地点に象死人が突進する———
象足なのに、なんて早さだ!
そして……なんとドロップキックを放った!
まじか! やばい!
公爵が直撃を喰らって、地面をえぐりながら飛ばされて行く……
シャリアさん達三姉妹が一斉に動き出した!
だが……途中ですぐに足を止めた。
公爵が不敵な笑みを浮かべながら立ち上がったのだ。
ちょっとだけバトルジャンキーっぽく見える……。
「ふふふ、ミティ、また助けられちまったね。この武装でなければ死んでたね。さて、そろそろケリをつけるかね……」
そう言いながら公爵は、『象死人』に向かって走り出した。
そして目にも止まらぬ早業で、二本の剣を『象死人』に向けて投げつけた!
超速で迫る剣を象魔物は避ける事が出来ず、左右の象耳をその体に縫い止められた。
なるほど……あの風攻撃を封じたようだ。
だが剣を手放して、無手状態のまま突っ込んで大丈夫なのだろうか……
象耳を封じられた『象死人』は、なんと……足同様に腕まで象足に変形させてしまった。
懐に飛び込む公爵に向かって、左右から象腕が迫る———
バゴォーンッ———
轟音と共に『象死人』の両腕が弾かれた!
なんと!
公爵の両肩から蔓が伸び、桜の花びら形状の盾を持って『象死人』の攻撃を弾き返したのだ!
よく見ると、公爵の肩の強化外装が外れ、植物の蔓が腕のように伸びている。
外れた強化外装が巨大化して、盾になったようだ。
そして公爵は二発、三発と『象死人』の象頭を殴りつけている。
公爵が肘から曲げた左右の拳を上に向けると、「シャキンッ」という音を伴って強化外装の手甲パーツから、ピンク色のロングソードが伸びた!
公爵は、その両腕のロングソードをクロスして
公爵は宣言通り、一人で見事『象死人』を討ち取ったのだ!
気が付かなかったが、公爵の腰の左右から蔓が伸び、『象死人』の足に巻き付き固定していたようだ。
公爵の両腕の手甲パーツからピンクの剣刃が飛び出したのは、驚きだった。攻撃力も半端ない!
そして……両肩からも腰の左右からも蔓が飛び出すし……まるで六本腕で戦っているような状態だった!
見た目の派手さに違わず、能力も凄い!
凄過ぎる! このスキル……強すぎるわ……。
ユーフェミア公爵は、人としての強さや能力も凄いのに、武力まで圧倒的になっちゃって……もう無双でしょ!
最後のラッシュはほんと凄くて、みんな口をあんぐり開けて見とれていた……。
ちなみに隣のニアさんも相当驚いたようで、開いたままの口からよだれが垂れてしまっている……残念。
アンナ辺境伯は憧れの先輩を見るような感じで、キラキラお目々になっている。
シャリアさん達三姉妹は、何か呆然としちゃってる。
そして今度は何のスイッチが入ったのか……三姉妹で互いの顔を見やりながら大笑いしだした。
「ユウ・ハブ・コントロール」
公爵がそっと呟くと、武装が溶けて通常の状態に戻った。
だが公爵は、その場に膝をついて腰を落としてしまった。
おそらく自分の中のトレントのエネルギーと、自分の生命力をかなり消費したのだろう。
スキル使用後の疲労感や虚脱感が激しいようだ。
まるで『ライジング・カープ』のキンちゃんが種族固有スキル『登竜門』で、一時的にドラゴンに変身した後の状態にそっくりだ。
一時的に強力な力を得るスキルは、使用後の疲労や消耗が激しいという事なのだろう。
「お疲れ様でした。お見事です」
俺はそう言いながら、公爵に『スタミナ回復薬』と『気力回復薬』を差し出した。
「ありがとう。私もまだまだだね、全く修行が足りないよ。このスキルを使いこなせるように、一からやり直しだよ」
いつになく屈託のない笑みを浮かべた公爵は、まるで少女のように可愛いかった。
「そうですね。ユーフェミア様は、まだまだ若いですから。それに戦う姿があまりにも綺麗で、一瞬心が奪われそうになりました! 」
俺はなぜか……美魔女戦士に感動した興奮状態からなのか……普段なら絶対言わないような事を茶目っ気たっぷりに言ってしまった。
もちろん公爵には、ちゃんと冗談として通じてくれたようで……
「まったく、大人をからかうんじゃないよ! 」
公爵はそう言いながら、俺の背中を「バシンッ」と叩いた。
俺は頭を掻きながら笑った。
そして俺の発言が聞こえてしまったらしく、ニアと三姉妹が猛烈なジト目で見ている……解せぬ……。
途中から騒ぎに気づいて仲間達が近くに来ていたが、俺達の様子を見て同様に戦況を見守っていたようだ。
リリイとチャッピーとレントンが、公爵に駆け寄って抱きついた。
三人とも目をキラキラさせている。
変身ヒーローにあった子供のようだ。
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