202.アジトに、居た者達。

 みんなまだ俺が出した軽食をつまんでいるが、俺は一人抜け出し飛竜達のところに来ていた。


 先程の報告で、この領都の近くに『正義の爪痕』のアジトがある可能性が浮上したからだ。


 当然、飛竜達ならその場所がわかると思ったのだ。


(君達、今まで囚われていた場所はこの近くかい? )


(はい、ご主人様。南に下った山の中腹にあります)


(そこには、他にも構成員達はいるかい? )


(我々は外の檻に囚われていたので、全容は分かりませんが、いる可能性はあると思います)


 やはりこの近くにアジトがあるようだ。


 飛竜達に聞いた話では、やはり第一陣を投下した後にアジトに戻って第二陣を乗せて来たというのが真相のようだ。


(他にもアジトのような場所はあるのかな?)


(わかりません。ただ何度か西の都市の近くまでは行きました。アジトのような場所は無く、人と荷物を降ろしただけです)


 なるほど……

 人と荷物を降ろしたという事は、その近くにアジトがあったか、作りに行ったのかもしれない。


 嫌な感じだ……予想外に広範囲に入り込まれているのかもしれない。


 明日の早朝に急襲をかけるか。


 ただ急襲するとしても、俺達だけの方がやりやすいんだよね……。


 そこで俺はストーリーを考えた。


 早朝、飛竜に慣れる為に飛行していたら、突然飛竜がアジトのような場所に飛んで行き発見したというストーリーだ。

 場合によってはそこで遭遇戦となり、構成員達を確保したという筋書きを追加すればいい。


 このストーリーの為には、俺が飛竜に乗れるようになっておかなくてはならない。


 俺の『使役生物テイムド』になっているので、騎乗を習わなくても大丈夫なのだが、突然乗れるのは不自然なので習っておいた方がいい。


 俺はすぐに会議室に戻り、シャリアさんに飛竜の騎乗を教えて欲しいとお願いした。

 リリイとチャッピーも習いたいと言ってきたので、一緒に教えてもらう事にした。

 そして何故か会議室にいた全員で飛竜のところに行って、ソフィアちゃんやタリアちゃんまで騎乗の練習をする事になった。

 ちなみにセイバーン家の皆さんとアンナ辺境伯は騎乗出来るとの事で、教える立場での参加だった。



 日が暮れる頃には、俺も、リリイ、チャッピー、ソフィアちゃん、タリアちゃんも飛竜を乗りこなしていた。

 素晴らしい教師役が五人もいて、マンツーマン指導だったからね。

 それと飛竜達は、テイムドなので振り落としたり暴れるといった事が無いしね。


 俺はこの飛竜達に名前をつけてあげた。


 オスの飛竜


『ドウ』

『ラア』

『ゴン』

『スク』

『リウ』


 メスの飛竜


『フジ』

『ナミ』

『タツ』

『ミミ』

『イイ』


 全員レベル6の若い飛竜達だ。

 リーダーとして俺と話していたのは、メスのフジだ。





  ◇





 翌早朝、俺は予定通り飛竜達とともに『正義の爪痕』のアジトに向かっている。


 今回連れてきているのはニア、リン、シチミ、フウ、レントン、トーラ、タトル、そしてリリイとチャッピーだ。


 俺とニア、リン、シチミはフジに騎乗している。

 リリイはレントン、タトルとナミに騎乗、チャッピーはトーラと一緒にタツに騎乗している。



 山の中腹に着くと、広場のようになっている平坦な場所があった。

 奥には洞窟がある。あそこがアジトのようだ。

 その手前に大きな檻がある。

 あの檻に飛竜達が囚われていたようだ。


 俺はいつものように、リンに先行偵察を頼む。



 ……しばらくしてリンが戻ってきた。


「あるじ、悪い奴いない。でも捕まってる人達いっぱいいる! 」


 なに! 捕まっている人達⁈


 俺達は急いで中に突入した———


 最初に構成員達が使っていたと思われる広いスペースがある。


 だが綺麗に片付いていて、手がかりになりそうな物は何も残っていない。


 この感じは……


 やはり他にも仲間がいて、作戦の失敗でこのアジトを破棄した可能性が高い。

 おそらく囚われている人達は、移動が大変なので捨てて行ったのだろう。


 さらに進むと大きな横穴があって、鉄格子がはめられていて巨大な檻になっている。


 確かに囚われている人達がいる。

 しかもかなりの人数だ。

 おそらく五十人以上いるだろう。


 なぜか女性ばかりだ。

 しかも若い女性が多い。少女もいる。


 みんなかなり衰弱しているようだ。


「皆さん、大丈夫ですか? 助けに来ました。もう大丈夫ですよ! 」


 そう声をかけた俺の方に顔を向ける人は、ほとんどいない。

 皆虚ろな表情で呆然としている。

 かなり痩せこけている。


 おそらく、ろくに食事も与えられず、酷い扱いを受けていたのだろう。


 俺はすぐに檻の錠前を破壊し、中に入り仲間達と手分けして『癒しの風』をかける。


 そして『スタミナ回復薬』や『気力回復薬』を飲ませて、体力や精神力の回復を促した。


 更に元気を出してもらうように、『波動収納』にしまってある身体力回復効果のある『マナウンシュウ』と気力回復効果がある『スピピーチ』を食べさせた。


 もし俺達が来なければ、この人達は数日のうちに全員死んでいただろう……。


 なんてやつらだ……


「わ、私達は……魔物に襲われて逃げているところを……捕まったんです。さ、拐われてきた者もいます……」


 回復して話せるようになった一人が、そう話しかけてきた。


 どうも……この領に壊滅的な被害をもたらした白衣の男による襲撃の時から捕まっているようだ。


 その時から既に『正義の爪痕』は、この領内に入り込んでいたという事か……


 まさか白衣の男の仲間なのか……


 いや……それは考えにくい……

 もし仲間ならあの時に一斉に騒ぎを起こせば良かったはずだし、白衣の男も迷宮に引き篭もる必要も無いはずだ。

 全体の動きがチグハグだ。


 なんとなく……『正義の爪痕』が、あの混乱に乗じて動いただけのような気がするが……


 まぁ思い込みは禁物だけどね。

 白衣の男が引き篭もっているのも、単に慎重なだけかもしれない。

 もしかしたら『正義の爪痕』を指揮している可能性も無くはないからね……。



 ここにいたであろう残りの構成員は、すでに逃げた後だが何とか捕まえたい。


 俺は『波動検知』を使い、『正義の爪痕』の構成員に焦点を当てて検知をかける。


 ずっと犯罪組織にいる人間は、どす黒いマイナス波動を帯びているはずだ。

 そのマイナス波動を探ったが…………検知出来ない。


 どうも、もう近くにはいないようだ。


「ここに最後まで残っていた構成員の特徴を教えてくれないか? 」


 俺は先程声をかけてきた女性にそう尋ねてみた。


「はい。一人は背が高くて細身の白髪の老人です。周りの者からは“博士”と呼ばれていました。後は小柄で筋肉質の髪の毛のない男と厚化粧の茶髪の女がいました。馬がいたので、馬で逃げたかもしれません」


 女性はそう答えてくれた。


 よし! その三人連れで手配をかけよう。


 俺は『絆通信』で、この領全体に散らばっているスライム達にその情報を伝え、見つけたら尾行しつつ俺に連絡するように指示を出した。

 奴らの確保はもちろんだが、他にアジトがあるなら突きとめたいからね。



 後は、この囚われていた人達を早く領都に連れて行ってあげないと。



 俺は囚われていた女性達に、軍と馬車を引き連れて迎えに来るのでしばらく待っているように伝えた。


 ニア達に残ってもらい、俺だけ急いで領城に戻った。




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