203.非道な、行い。

 飛竜を駆り、領城に戻った俺は、アンナ辺境伯とユーフェミア公爵に事の次第を説明した。

 もちろんアジトを見つけた経緯は、飛行訓練中に飛竜が突然向かったという予定通りのストーリーを説明した。


 すぐに移送部隊を手配してもらった。


 馬車で向かうので、到着までは時間がかかるだろう。


 俺は飛竜で先に戻る事にした。


 シャリアさんも飛竜で同行すると申し出てきたので、一緒に行く事になった。


 支援物資として、清潔な服やタオル等を持っていく事にした。




 飛竜の快速飛行により、ほどなく俺達はアジトがある山の中腹に到着した。

 この山はかなりの大きさなので、馬車で迎えに来るのは意外と時間がかかるかもしれない……。


 俺は魔法カバン経由で『波動収納』から、水の入った大きなタライをいくつかを出した。


 女性達にタオルと清潔な服を渡し、体を綺麗にして着替えてもらう事にした。


 ニア達が、待っている間に『正義の爪痕』の手がかりがないか探してくれたようだ。

 だが、目ぼしい物は無かったとの事だ。

 少し廃棄されたような形跡があったが、ほとんどは持ち去ったようだ。

 おそらく魔法カバンを持っているか、『アイテムボックス』スキルを持っているのだろう。


 それとニアが女性達から聞き出してくれた話によると、元々ここにはもっと多くの人が囚われていたようだ。

 死んだ者もいるが、ほとんどの者は他の場所に連れていかれたのではないかとの事だ。

 特に最初の時点で、男性は移動させられたようだ。


 労働させる為に残されていた何人かの男達も、昨日の朝いなくなったとの事だ。


 ここからはニアの予想だが、昨日飛竜から落下して来た『死人魔物』は、『正義の爪痕』の構成員による自爆テロではなく、捕らえた人達に無理矢理『死人薬』を飲ませた、より非道な行為だったのではないかとの事だ。


 確かにタイミング的に考えると、その可能性は十分にある。


 もしそうだとしたら……本当に酷い話だ……

 絶対に許さない!


 既に決めていた事だが、俺は改めて『正義の爪痕』という組織を叩き潰す事を心に誓った。



 他に分かった事は、女性達が交代で血を奪われていたという事だ。

 腕などを傷つけられては、血を取られていたらしい。


 定期的に欲しかったようで、死なない程度に切りつけていたようだ。


 俺達が回復魔法をかけてしまったので、今はその傷もすっかり無くなってしまったが、相当傷だらけだったらしい。


 そして博士と呼ばれていた者が主導して、その血と持参した何かを合成し赤い丸薬を作っていたとの事だ。


 おそらく『死人薬』だろう。


 ……という事はあの『死人薬』は、『正義の爪痕』が独自に開発し製造していたという事になる。

 侮れない犯罪組織ということだ。

 博士と呼ばれている人間が、マッドサイエンティストなのだろう。

 まったく……質が悪い……。


 製造の痕跡らしきものは、何も残っていない。

 機材も何もかも、全て回収したのだろう。


 女性達が殺されなかったのが、せめてもの救いだ。

 慌てて撤収して、殺す時間が無かっただけなんだろうけど。


 全貌はわからないが証言によれば、『死人薬』の製造には女性の血が必要だった事になる。

 なぜ女性の血なのかはわからないが……。

 まったく厄介でふざけた連中だ。


 もし『死人薬』が量産され、罪もない人が無理矢理飲まされ、爆弾テロの爆弾のように利用されたら…………。


 まったく……反吐が出る……。


 そして……嫌な予感しかしない。


 俺は、ふと気になる事を思い出した。


 以前この領の各市町を回って魔物を駆逐した時に、発見した遺体の数と生存者の数を合わせても、アンナ辺境伯のメモにあった人口と合わなかったのだ。


 正確に人数を数えたわけでもないし、どれくらいの差だったかは覚えていない。

 他にも生存者がいて、どこかに逃げ延びて生きていてくれればいい……その時は思っていたが……。


 もしかしたら……この人達のように魔物の難を逃れた後に、捕まって拘束されている人が他にもいるかもしれない……。


 もしそうだとしたら、この領内に他にもアジトがあるだろうし、複数カ所あるかもしれない。


 そしてかなりの数が囚われている可能性もある。


 この領全体に張り巡らされているスライム達の巡回警備網も、各市町の周辺を中心に巡回しているに過ぎない。


 この領全体の面積から見れば、一〜二割程度だろう。

 最近仲間になったスライム達で人里離れた場所に住んでいる者達もいるので、その活動エリアの情報はある程度入るが、それでもカバー出来ていない場所の方が多いはずだ。


 中々に厄介だ……


 いくらスライム達の数が増えたとはいえ、領全体をしらみ潰しに探索するには全く足りないのだ。


 どうしたものか……。


 まぁ闇雲に探してもしょうがないので、とりあえず巡回警備しているスライム達に怪しい人間や怪しい場所の情報があったら、すぐに報告するように再度『絆通信』を入れた。



 俺達は女性達を一刻でも早く領都に連れ帰る為に、飛竜に二人づつ乗せて街道近くまで運ぶ事にした。

 そこなら、もうすぐ軍の馬車が着くはずだし、山を登る時間を節約出来るからだ。


 シャリアさんの飛竜と俺、リリイ、チャッピーの飛竜合わせて四体で、ピストン輸送した。




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