201.掛け持ちって、ありなの?

「さて、じゃあ次に今後の領運営の話に移ろうか」


 ユーフェミア公爵はそう言って政治の話に移行した。


 公爵からの報告で、正式に国王の了承を得て、ピグシード辺境伯家はアンナ夫人が家督を継ぎ、存続する事が決まった。


 その記念式典および復興式典を、三日後に執り行うらしい。


 その式典でアンナ夫人を女辺境伯として周知する事、及びセイバーン公爵家が後ろ盾になる事が発表される。

 そして俺への授爵が行われるとの事だ。


 そして目玉はニアだ。

 正式に守護妖精としてこの領を守護する事を宣言して、閉幕する予定のようだ。


 そしてアンナ辺境伯の補佐として、セイバーン公爵家次女のユリアさんが執政官に就任するとの事だ。


 十八歳とまだ若いのに、行政手腕は凄いらしい。


 そして『マグネの街』は、予定通り俺が守護に就任する。

 もちろん約束通り、名前だけで実際は今の代官であるダイリンさんに取り仕切ってもらう事になる。


 もう一つの復興地である『ナンネの街』の守護は誰かと思って聞いていたら…………何故か俺だった。


 固まった俺を見て、ユーフェミア公爵は説明を一旦止め、『ナンネの街』の守護にも就任して欲しいと頼んできた。


 守護の掛け持ちなんて……

 いくら名前だけとは言え……


 一旦は固辞したのだが……何せこの領には俺しか貴族がいないので、引き受けるしか無かった。


 もちろんニアはいつものように「一つも二つも一緒でしょ! 」と、安請け合いを助長していたのは言うまでもない。


 さすがに他領の者を守護に就かせるわけにはいかないので、セイバーン公爵領からも出せないとの事だった。


 ただ、役人である代官は他領の者でも大丈夫なので、『ナンネの街』の代官にはなんと、セイバーン公爵家三女のミリアさんが就任するそうだ。

 まだ成人したての十五歳ながら、ユリアさんに勝るとも劣らない能力があるようで、勉強を兼ねて就任させるとの事だった。


 俺は名前だけでよく、すべての実務はミリアさんが執り行ってくれるらしい。


 今や俺とニアの評判が伝説のようになっていて、名前だけでも俺が守護になってると住人達も安心するし復興の力になるとも言われた。


 改めてミリアさんと挨拶を交わした。


「グリムさん、今後ともよろしくお願いします。今度は姉様達よりも私とすごーく仲良くしてくださいね」


 そう言って何か挑戦的な視線をシャリアさんとユリアさんに送った後、悪戯っぽく微笑んだ。


「「もう、ミリア! 」」


 シャリアさんとユリアさんは同時に注意していたが、ミリアさんは舌を出して戯けて見せた。


 ミリアさんは、活発ではっきりものを言うタイプの人みたいだ。



 細かな事は今後打ち合わせる事にして、一旦打ち合わせを終了する事にした。



 終了後の雑談の中でユーフェミア公爵から『卵焼き』の味が忘れられないという話が出たので、俺が腕をふるう事にした。


 厨房を借りて、いくつか料理を作ってくると告げて退室した。


 厨房の料理人達は手伝いを申し出てくれたのだが、適当な用事を頼んで一人になった。


 そして緊急時の為に『波動収納』に保存してある料理を取り出した。

『波動収納』に入れておけば、作りたての状態で保存されているからね。


 ただ厨房を全く使っていないのは不自然なので、『卵焼き』だけは作る事にした。


 俺は各料理を綺麗な皿に移して、メイド達に運んでもらった。

 そして俺も一緒に料理を運んで、会議室に戻った。


 俺が用意したメニューは、『卵焼き』、『紅白エビの素揚げ』、『小エビのかき揚げ』二種類、『鮭おにぎり』、『ホットドッグ』、『コロッケ』だ。


 軽くつまむ為に食堂ではなく、そのまま会議室に運んだのだが、品数の多さにみんな驚いていた。


「あんた、この短時間にこんなに作ったのかい? 」


 公爵が驚きの声を上げた。


「いえ、おにぎりなどは作り置きして魔法カバンに保存しておいたものです」


「それにしても凄いね……あんたやっぱりうちの料理人にならないかい? 」


 そう言って公爵が悪戯な笑みを浮かべた。


 今回は完全に冗談だとわかっているので、ニアもスルーしていた。


「もう新しいメニューが増えてるんですのね。この『コロッケ』というのは何かしら? 楽しみだわ。それにしても、ほんと何者ですの? 」

「ソーセージをパンに挟んだ『ホットドック』も美味しそうですわね。行軍の時なんかに、凄く良さそうですわね。こんなものを考えつくなんて、やはりセイバーン家の料理人に…… 」


 シャリアさんとユリアさんも新しいメニューに興味津々のようだ。

 最後はもうお約束発言になってるけどね……。


 そして俺の料理を初めて食べるアンナ辺境伯、ソフィアちゃん、タリアちゃん、セイバーン家三女のミリアさんは…………なぜか全員涙ぐんでいる。


 ちなみに打ち合わせが終了した時点で、別室で遊んでいたソフィアちゃん、タリアちゃん、リリイ、チャッピーが合流していたのだ。


 リリイとチャッピーがソフィアちゃん、タリアちゃんに料理の説明をしながら順番に勧めている。

 二人共、何か誇らしそうだ。


「これは……噂以上の味ですが……もうどれも凄すぎて、どう表現したらいいかわかりません」

「これすごいです。こんなの食べたことがない! 」

「おいしい! リリイちゃんとチャッピーちゃん、いつもこんなの食べてるの! 」

「全く! もうなにこれ! お母様や姉様達はこんな料理を食べていたの! もうずるい! グリムさんってほんと何なの! もう! 私のものになりなさい! 」


 アンナ辺境伯、ソフィアちゃん、タリアちゃん、ミリアさんが順番に感想を言ってくれたが、最後のミリアさんの発言は、美味しさに感動してくれて思考障害が出てしまったのだろうか……。

 聞かなかった事にしておこう…… 。


「「ちょっとミリア! 」」


 どうやら聞こえていたのは、俺だけではなかったようだ。

 シャリアさんとユリアさんが同時にミリアさんにツッコミを入れていた。

 口をパンパンに膨らませながら……


 公爵令嬢のたしなみとして良いのだろうか……。

 まぁいいけど……。


 シャリアさんとユリアさんは、新メニューの『ホットドッグ』と『コロッケ』も凄く気に入ってくれたようだった。


「米の料理がこんなに美味しいものになるのかい! 」


『おにぎり』を食べたユーフェミア公爵がそう言って、何個も頬張っていた。



 どれも好評で、みんな凄い勢いで食べていた。

 夕食が食べれなくなると思うんですけど……


 一応厨房の人達が夕食の準備をしていたから、食べてあげないと可哀想な気がするけど……

 まぁ時間を開けて遅い時間なら、食べれるようになるかな……。


『おにぎり』と『ホットドック』と『コロッケ』が屋台での販売メニューだと知って、みんな衝撃を受けていた。

 そして絶対売れるから、早く屋台を始めた方が良いと力説されてしまった。ありがたい事だ。






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