175.構成員の、正体。
俺達は全員合流して、北門前の広場にいる。
シャリアさんとユリアさんも、クレアさん達衛兵隊と一緒に逮捕者を護送してきたようだ。
今は、俺達と一緒に広場で休憩中だ。
二人に懐いていたリリイとチャッピーは大喜びで、二人に纏わり付いている。
今回の騒動の顛末を聞いて、シャリアさん達はかなりの衝撃を受けていた。
セイバーン公爵領を騒がせている犯罪組織『正義の爪痕』が、この町にも現れた事はショックだったようだ。
そして人が化物に変化した事と、それを持ち込んだのが『正義の爪痕』だという事が衝撃に追い打ちをかけたようだ。
逮捕した者達の供述によると、一時的に能力を強化して強くなる薬と説明され、フードの男から渡されたらしい。
副作用があるので、ほんとに危なくなった時だけ使うように言われていたようだ。
渡されたのはポンコツ商人コモーと十人の取り巻き連中、リンが確認した三十人ほどの男達だったようだ。
この証言からすると、化物になった者達は死を覚悟した自爆テロというよりは、ただ単に窮地を乗り切る為に強化薬を使ったつもりだったのだろう。
フードの男に騙されて、命を散らしたようだ。
そして屋敷の方に現れた十一体の化物は、あのポンコツ商人と取り巻き連中だったようだ。
自業自得なので同情する気はないが……哀れすぎる……。
ならず者達の中の生き残りが、その強化薬という触れ込みの化物薬を所持していたので、衛兵隊で没収したそうだ。
今は衛兵長が保管しているが、シャリアさんからの申し出で、セイバーン公爵領で解析や究明をする為に引き渡す事になっているらしい。
俺も見せてもらったが、深紅の丸いビー玉のような物だった。
ちなみに化物の遺体を調べたところ、魔物のように魔芯核は出来ていなかったようだ。
ただ、この深紅のビー玉状の物が一回り大きくなって胸の中央あたりから発見されたそうだ。
魔物化している部分は、本物の魔物と同じ材質だったらしい。
熊腕の先についてる鋭い爪は、本物の熊魔物の爪と同じものと思われるそうだ。
魔物化している部分については、素材として採取出来るのだろうが、その処理は衛兵隊に任せる事にした。
クレアさんの話では、あの屋敷をくまなく探したが『正義の爪痕』の活動目的や、組織の全容などの手がかりになるような物は何も発見されなかったらしい。
生き残りの供述では、強奪した金の何割かを貰う約束になっていたようだが……
単なる金目的の犯行とも思えないない……
金に困っていたのはポンコツ商人の方で、それをテロ活動に利用しただけではないだろうか。
もちろんテロ活動の為の活動資金は必要だったろうが……。
セイバーン公爵領でも、未だ組織の全容や目的等を掴めていないらしい。
ただ最近になって、想像以上の大組織で、かなり特殊なアイテムなどを持っている事がわかってきたそうだ。
その特殊なアイテムをどこかから入手したのか、独自に開発しているのかは不明らしい。
もし独自に作る力があるなら大きな脅威となるので、警戒を強めているそうだ。
そして肝心の『正義の爪痕』の構成員、フードの男は見つかっていないそうだ。
衛兵隊で屋敷をくまなく探しても、見つからなかったそうだ。
未だどこかに潜伏しているらしい。
普通の住民に紛れ込んでいるとすれば、この街を出る事も可能だし、そのまま溶け込んで息を潜める事も出来るだろう。
その姿を見ているのは、潜入調査に入ったリンだけだが、リンも顔は見ていないし、『共有スキル』にセットした『
今度は俺が『波動検知』で『正義の爪痕』の構成員に焦点を当てて、検知してみる事にした。
『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーの見解によれば、検知出来る可能性があるとの事だった。
『正義の爪痕』の構成員として活動している以上、その男の纏っている波動情報に『正義の爪痕』に関する情報が載っているはずであり、『正義の爪痕』という組織名だけでも強く念じて『波動検知』すれば見つけられる可能性があるらしい。
俺はそれに賭けてみる事にした。
これ以上テロ活動されたら、たまったもんじゃないからね。
悪の元は全て断たないと!
———波動検知
———正義の爪痕………………
……………………………………
……………………………………
……………………………これか?
明確ではないが、それらしき気配を検知した!
え………この気配の位置……多分商人ギルドだ……
なぜ……商人ギルド?
まさか商人ギルドの職員が構成員なのか?
俺はみんなに急用を思い出したと言って、商人ギルドに行く事にした。
すぐに戻るからと言って、全員ここで待機するように指示した。
俺は中央通りを駆け抜ける。
———走る、走る、走る!
ギルド会館に入ると、いつもの職員さんしかいない。
「ギルド長は?」
「はい。只今、悪徳商売を行っていた者の取調中です。あちらの会議室に居ります」
俺の質問に、女性の職員がカウンターから身を乗り出しながら指差す。
なに………
もしや……
俺は再度『波動検知』を使った。
———間違いなくこのギルド会館にいる。
そしてその標的は……取り調べの為にギルド長が使っているという会議室の中だ!
フードの男の正体がわかった!
そう、フードの男の正体は………
ギルド長……ではなく………その取り調べの対象者だ!
ザコーナ商会の武具販売店にいた、あのつり目の女だ!
昨日の俺の訴えでギルド長が朝一番で調査に入って、件の女性店員にも聞き取り調査を行うと言っていた。
あのつり目の女こそ『正義の爪痕』の構成員だったのだ。
フードの男ということで……勝手に男と思い込んでいたが……
おそらく構成員として活動する時は、フードを被り顔が分からないようにしつつ男の服装をしていたのだろう。
その実態を知っていたのは、あのポンコツ商人くらいだろう。
そして事件を起こす時には、万が一の事を考え自分は加わらず、あくまで店員として店で過ごすつもりだったのだろう。
あの屋敷をいくら探してもいないはずだ。
俺はギルド長がいる会議室をノックする。
———コンコン
「失礼します。ギルド長」
俺はギルド長の許可も待たずに、扉を開け室内に入る。
「これはグリムさん、どうしたんです? 」
「申し訳ありません。そこの女性に用がありまして」
「あ、あんたは昨日の客……よくも私を訴えてくれたね! 」
「今度は捕まえに来たよ」
睨みつけてくるつり目の女に、にやけ顔を作り茶化すように言ってやった。
「え……」
さすがに女も間抜けでは無いようで、計画の失敗と身元バレを悟ったようだ。
女の手が微妙に動く———
———させない!
俺は素早く『魔法の鞭』を取り出し、女に巻きつける。
この『魔法の鞭』は、巻きつけると相手を麻痺状態にするから確実に拘束出来るのだ。
ここで化物になられたら大変だからね。
俺の早業に何も出来なかった女は、目を白黒させている。
「グリムさん、一体これは……」
ギルド長が驚いている。
「実は、この者が暴動を計画した犯罪組織の人間だとわかったのです」
そう言ってギルド長に大体の経緯を説明し、突然の無礼を詫びた。
俺は麻痺状態の女に、更に『状態異常付与』スキルで『睡眠』を付与し肩に担ぎ上げた。
そしてそのまま大急ぎで、北門前広場に向かって走った。
「衛兵長、クレアさん、『正義の爪痕』の構成員を捕まえました。この女がフードの男の正体です」
「え、一体どこに……」
クレアさんが目を見開いて驚いている。
「ギルド会館にいました。実はあのポンコツ商人に最近雇われた者の中で、衛兵隊に捕まっていない者を思いついたのです」
俺は昨日の件や今朝一番でギルドの調査が入って、つり目の女が事情聴取を受けていた事などを説明した。
作戦開始時に衛兵隊の別働隊が金物販売店と武具販売店にそれぞれ突入し、怪しい人間を拘束していた。
金物販売店の二階にいた不動産担当の怪しい者達は拘束され、その他の古くからの店員達は拘束されなかったようだ。
この突入の時、一人だけその場にいなかった者がいた。
それが、ギルド長にギルド会館に連れて行かれたこの女なのだ。
そこで、確認の為にギルド会館に行ってきたという話でまとめた。
『波動検知』で見つけた事は、説明が大変だし隠しておきたかったのだ。
そして俺はこのつり目の女にシラを切られる前に、体の調査をするべきと進言し、クレアさんに調査をしてもらった。
するとやはり化物薬が出てきた。
しかも一つではなく、ケースにいくつもあった。
一つだったら貰ったと言い訳も出来たかもしれないが、これだけまとめて持っているとさすがに無理だろう。
こいつが配布元なのは明らかだ。
もはや言い逃れは出来ないだろう。
生きて捕まえた貴重な構成員なので、この女もセイバーン公爵領に引き渡す事になった。
「グリムさん、あなた……ホントはどうやったの? まったく…何者なのよ……」
「さすがグリムさんですね。詳しくは聞きませんが、これで犯罪組織の情報を引き出せるかもしれません。ありがとうございます! 」
シャリアさんとユリアさんが、それぞれ呆れ顔でお礼を言ってくれた。
あ、シャリアさんはお礼言ってないか……。
いやーこれでやっと一安心だ!
そう思った途端、お腹が空いてきたなぁ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます