174.助太刀は、令嬢姉妹。

 羽ばたき音の正体は……


 どうやら知り合いがやって来たようだ。


 スピードを増して近づく赤色の飛竜から、二つの人影が舞い降りた。


「はあーーーーっ」

「えーーーーいっ」


 二つの人影は空中で剣を抜くと、それぞれ蛇化物を脳天から唐竹割りにした。


 一人は青く煌めく鎧を纏った金髪のクールビューティー、セイバーン公爵家長女シャリアさんだ。

 ロングの金髪が風になびいている姿は、神々しささえ感じる。思わず見とれてしまいそうだ。


 そしてもう一人は薄青色の髪をセミロングにしている優しい雰囲気の美少女、セイバーン公爵家次女のユリアさんだ。

 シャリアさんとは異質の柔らかい美しさを持っている。彼女もまた見とれてしまう程の美人だ。


 姉妹で訪れたようだ。


 それにしても一撃でレベル30越えの化物を倒すとは……しかも通常の魔物より強いはずなのに……



 俺は個人情報保護の観点から、無断での『波動鑑定』によるステータスチェックは、緊急時以外自粛している。

 だから二人のレベルは、実は知らないのだ。


 かなり腕が立つのは間違いないが、一応安全の為に一瞬だけ『波動鑑定』させてもらう。


 なんと……


 シャリアさんはレベル42、ユリアさんはレベル37だ!


 公爵令嬢なのに、隊長クラスのレベルがある。


「助太刀いたします。私達で倒してしまっても構いませんね? 」

「グリムさん、大丈夫ですか? 」


  二人がそれぞれの位置から俺に声をかける。


「シャリアさん、ユリアさん、どうして……」


 思わずそんな言葉を口にしてしまった。


「「話は後です」」


 おお、さすが姉妹、息がぴったり合っている!

 おっと、そんな事に感心してる場合じゃないか……。


「クレア、大丈夫ですか? 共に戦いましょう! 」


 シャリアさんが、クレアさんに駆け寄りながら言葉をかける。


「シャリア様、ありがとうございます。弱点は頭のようです」


 クレアさんがシャリアさんと肩を並べて剣を構え直す。

 前に訪れた時に対応していたが、意外と仲良しになっていたようだ。


「たーーーーーっ」


 クレアさんが衛兵長を彷彿とさせる気合で一閃、蛇化物に斬りかかり蛇腕を二本一気に切り落とす。

 そのままの勢いで間合いを詰めて、顔面に剣を突き立てた!


 その様子を見てニヤリと笑ったシャリアさんは、自分の番だとばかりにもう一体に狙いを定める。

 口笛を吹くや飛竜が急降下して蛇化物の背後から両肩を掴み上げると、そのままシャリアさんの方に放り投げた。


 待ち構えるシャリアさんは、剣を大上段から振り下ろす———


 力まずに軽く振り抜いた剣撃は、蛇化物を頭から真っ二つに斬り裂いた。


 最後の一体はユリアさんが戦闘態勢に入っている。


 剣を収め四十センチ位の小さな杖を取り出した。


「いでよ!雷撃小剣サンダーダガー! 」


 杖の頭頂部に紫の魔法石が埋まっていて、その下の台座に発射口がある。

 そこから紫電を纏った小剣形状のエネルギー弾が発射された!


 次の瞬間には、蛇化物の頭を撃ち抜いていた。



 これで全て倒したはずだ。


 俺は二人の突然の来訪に驚きつつも、その戦いぶりに見入ってしまった。

 もちろんクレアさんも格上相手に大金星だ。


 しかし二人は驚きの強さだ。


 俺の仲間達のように『共有スキル』があるわけでもなく、多くの魔物と実戦を積むような環境でもないだろうに、どうやってレベルを上げたのだろう……。



 おお、ニアから念話だ。


 リリイとチャッピー達が無事に化物達を倒し終わったようだ。


 他の場所に配置していた仲間達も、無事に不穏分子を確保したようだ。

 化物バケモノ化しないように、しっかり拘束出来たようだ。


 多分これで全ての作戦は終了と言っていいだろう。

 もちろん事後処理はこれからで、大変だと思うが……。


「一体これは何の騒ぎですの? 」


 シャリアさんが剣を収めながら、俺の方に歩み寄って来た。


 さて……どこから説明するかなぁ……


 仲間達とも合流したいし……


 そうだ! クレアさんに丸投げしよう!


 俺は衛兵長の現場の様子を確認に行く必要があるからと、クレアさんに説明を頼んだ。


 クレアさんは口をパクパクしていたし、シャリアさんとユリアさんも何か言っていたが、俺は「すぐ戻りますから」と言って、勝手に走り去ってしまった……。



 下町エリアに戻ると、衛兵長が意識を取り戻していた。


「衛兵長、大丈夫ですか? 」


「グリム殿、またも助けていただき、ありがとうございます。お陰で命拾いしました」


「いえ、礼ならニアに言ってください。ニアがいなければ、危ないところでした」


「もちろんです。先程お礼させて頂きました。またこの街を救って頂き感謝のしようもありません」


 衛兵長が俺の手を取り、深々と頭を下げる。


 そんなところに、俺の姿を見つけたニア達が集まって来た。


「衛兵長、装備をもっと充実させた方がいいんじゃない! いくら私服だからって、服の下に着るチェインメイルとかあるでしょう? ほんと危なかったんだから。他にも重傷者が多くて、死者が出なかったのがほんとに奇跡よ」


 ニアが来るなり衛兵長にそんな注文をつけた。


 衛兵長は苦笑いしている。

 やはり予算の問題とかで、いい装備を揃えられないのだろうか。


 ニアが言う通り一番危険に遭遇する確率が高い衛兵には、装備を充実させてあげたいよね。

 強固な素材のチェインメイルを着るだけでも、生存率が大分上がると思うんだよね。


 ナーナから『波動複写』させてもらった『武器作成』スキルで、チェインメイルを作れないかなぁ……防具だから無理なのかなぁ……

 それはともかくとして、何か軽くて頑丈な素材があるといいんだけど……


「リリイは頑張って全部倒したのだ! 」

「チャッピーもやっつけたなの! 結構大変だったなの〜」


 そう言いながらリリイとチャッピーが俺の腰に抱きついて来た。


「二人ともよくやったね。怪我はないかい? 」


「へっちゃらなのだ! 」

「大丈夫なの〜」


  二人が可愛く俺の顔を見上げる。

 俺は頭をぐりぐりしてあげた。

 二人共、くすぐったそうに笑っている


(二人共よく頑張ってた! オイラのフォローもバッチリさ! )

(アチシは見たーーーー! 二人はマジ激アツって感じ! )


 シチミとオリョウも人前なので、一応念話での報告にしたようだ。

 ちなみにシチミは魔法カバン状態に戻って、オリョウの肩からぶら下がっている。


(二人ともよくやってくれたね。守りながら戦ってくれてありがとう)


 俺は二人にも念話にて労いの言葉をかけた。



 俺達は衛兵隊とともに、北門の衛兵詰所に逮捕者を護送する事にした。


 他のエリアの仲間達にも、捕縛した者達を北門の衛兵詰所まで連れてくるように連絡を入れた。





 

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