173.やる気な、二人。
丸盾による円盤投げで蛇化物を倒したリリイとチャッピーは、ハイタッチをして喜んでいる。
だがまだ熊化物が三体、サメ化物が四体残っている。
彼女達もそれはわかっているようで、油断する事なくすぐに臨戦態勢に戻る。
リリイはサメ化物、チャッピーは熊化物を担当するようだ。
チャッピーは普通なら『魔法のブーメラン』を投げて中距離攻撃で仕留めるのだが、ここは建物が多く空間が少ないので投げないようだ。
『魔法のブーメラン』はチャッピーの意思で軌道を変えられるので、狭いところでもある程度使えるはずだが、無理には使わないようだ。
ただブーメランを手持ちの打撃武器として使うようだ。
ブーメランを構えている。
熊化物は三メートルにも及ぶ巨大さになっている。
腕全体が熊の剛腕になっていて、鋭利な爪が突き出ている。
三体のうちの一体が、近づくチャッピーに気付き突進して来る。
「当たらなければ平気なの〜、足チョンパなの〜」
振り下ろされる鋭い爪を素早いフットワークで避け、滑り込むように足に斬り付けた。
魔力を通したブーメランは切れ味抜群なので、確実に足を切り裂いている。
切断までには至ってないが、かなりのダメージだ。
だが熊化物は、斬られた事など意に介さず振り向きざまチャッピーに爪を振り下ろす———
チャッピーは慌てて丸盾でガードする。
ギギギギーっと耳障りな音を立て、火花が飛び散った。
魔力を通した丸盾は強化されていて壊れる事はなかったが、力任せの腕力でチャッピーが後ろに飛ばされてしまった。
そこには二体の熊化物がいて、チャッピーが一瞬にして囲まれる形になってしまった。
危ない! と思ったのだが、すぐに『ミミック』のシチミが対応した。
種族固有スキル『マルチトラップ』の投網で二体を搦め捕った。
これでしばらくは自由に動けないだろう。
どうやらシチミがチャッピーのフォローをするようだ。
リリイが向かっているサメ化物も二メートルを超える巨体だ。
サメの口の部分がリリイを噛もうと突進してくる。
リリイは力負けしないようにだろう、勢いをつけて逆に飛び込んでいく。
「ゴッチーンでバイバイなのだ! 」
サメの鼻先に勢い良く『魔鋼のハンマー』を振り下ろす!
サメ化物は両手に持った剣をクロスさせ受け止めるが、勢いを殺しきれなかったようだ。
ハンマーは剣ごとサメの鼻先を叩いた。
一瞬サメ化物の動きが止まった。
やはりサメは鼻先が弱点になるのだろうか……。
その隙にリリイは、サメ化物の足を横殴りに叩きつけ転倒させる。
そして一気に頭を潰す為に、ジャンプして上からハンマーを振り下ろす。
「これで終わりなのだ! ゴッチ……」
ところが突然サメ化物が両腕を下から突き上げた———
リリイは反射的に丸盾でガードしたが、そのまま弾き飛ばされてしまった。
危ない! と思ったが………オリョウが素早く駆け寄りリリイをキャッチした。
「危なかったのだ。オリョウちゃんありがとなのだ」
「アチシが来たーーー! リリイちゃん、一緒に共同戦線って感じなわけ。マジ最高! 」
良かった……リリイは無事なようだ。
サメ化物は、サメ頭の噛み付き攻撃と両腕で剣を使うので、中々に厄介な相手だ。
やはりリリイ一人で四体を相手にするのは無理があるので、オリョウが加勢するようだ。
オリョウは両手に『魔法銃』を取り出すと、サメ化物の足を次々に撃ち抜いいく。
すごい連射だ!
オリョウは今、二丁の『魔法銃』を携帯しているのだ。
俺が『波動複写』でコピー出来るようになったので、もう一丁増やし二丁拳銃にしたのだ。
オリョウはガンフォルダーを腰の両脇に下げ 、二丁拳銃のガンマンのようにめっちゃかっこいいのだ。
かなり羨ましい。
俺は未だに魔力調整で適度な攻撃力が出せないので、憧れの『魔法銃』が普段遣いの武器として使用出来ない状態なのだ。
そんな事はどうでもいいが……。
おおっと! 他のエリアで動きがあったようだ。
上空から全体の状況を確認していた『スピリット・オウル』のフウから連絡が入った。
ポンコツ商人コモーの屋敷でも化け物が出現してしまったようだ。
これは早く行かないと死傷者が出てしまう。
俺はニアにこの場を任せ、単身屋敷に向かう事にした。
ニアがいれば、不測の事態が起きても対応出来るだろう。
全力疾走で屋敷に向かう———
見えてきた……なに!
十一体もいるじゃないか……
全部蛇化物だ。
衛兵で立っているのは、クレアさん含め数人しかいない。
既に大多数が負傷して、戦闘不能状態のようだ。
まずい……
瀕死の者もいるようだ。
俺は上空からフウにも来てもらい、倒れている衛兵の救出と回復を頼む。
俺も『癒しの風』をかけて回復しながら、救出していく。
「クレアさん大丈夫ですか? 」
クレアさんは蛇化物の蛇腕による変幻自在の攻撃に防戦一方だ。
俺は声をかけながら、ポンコツ商人から没収した上級の剣で蛇腕を切り落とした。
「グリムさん、私は大丈夫ですが……」
俺に視線を向けたクレアさんだが、大分消耗しているようだ。呼吸が大きく乱れている。
「ここは一旦下がってください。怪我人を安全な場所まで下がらせてください。私が引きつけます! 」
「しかしグリムさん一人では……」
「大丈夫です。仲間達がすぐに行きます。とにかく急いで下さい! 」
仲間達には持ち場を維持するように言ってあって、本当は来ないのだがクレアさんに安心してもらう為にそう言った。
「わ、わかりました」
クレアさんは動ける衛兵と共に怪我人の移動を始めた。
フウが救出してくれていたのと、俺も回復しながら来たので、運び出す怪我人はそれほど残っていなかったようだ。
クレアさんが引き返して来た。
「私にも手伝わせてください!」
決意に満ちた目だ。
本当は避難していて欲しかったが、まぁしょうがない。
俺は使っていた上級剣をクレアさんに渡す。
「じゃあ、この剣を使ってください。頭を破壊しないと倒せません。頭を狙ってください! 」
「わ、わかりました。お借りします! 」
クレアさんは一瞬躊躇していたが、すぐに剣を受け取り怪物に向けて構えをとった。
俺はクレアさんに怪我人を移動してもらっていた間に、蛇化物を六体倒していた。
周辺被害が出ないように誘導しながら、確実に仕留めていったのだ。
一気に倒す事も多分出来たが、見ている衛兵もいると思ったので、あまり無茶苦茶な倒し方はしなかった。
そのかわり人はもちろん周辺の建物等にも被害が出ないように、誘導しながら優先順位をつけて倒していたのだ。
残り五体は、庭園の中央に自然に追い込んである。
そんな時だ———
上空から羽ばたき音が聞こえてきた!
あれは……
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