172.魔物になって、自爆テロ。
俺は正体不明の化け物を『波動鑑定』する———
<種族> が……『
一体なんだ……
ゾンビのようなものか……
そしてレベルが30を超えている。
やばい!
並みの衛兵では歯が立たないだろう。
既に何人も血塗れになっている。
早く回復しないと死者が出てしまいそうだ。
「ニア、重傷者の回復を頼む! 他のみんなもまずは怪我人を安全圏に動かして回復してくれ! 」
「オッケー! 」
「 任せとけ! 」
「アチシが来たーーー! 」
「了解なのだ! 」
「わかったなの〜」
ニア、シチミ、オリョウ、リリイ、チャッピーがすぐに動き出す。
ニア以外のメンバーも『共有スキル』で『癒しの風』をセットしてあるので回復魔法が使えるのだ。
基本的には目立たない為と魔力の温存の為に配布用希釈回復薬を使うように指示しているが、緊急時は各自の判断に任せると言ってある。
俺は奮戦している衛兵長に近づきながら『癒しの風』を送る。
「いったい何があったんですか? 」
「おお、グリム殿。わかりません……リーダー的な男達が一瞬の隙に何かを飲み込んだようでした。直後、体が弾けるように盛り上がっていき、見る見るうちに化け物に変わってしまったのです」
なんと……何かを飲んで化け物になったのか……
種族が『死人魔物』になっていたから、人間としてはもう死んでいるのだろう。
まるで自爆テロだな……。
そんな薬物をあのポンコツ商人が用意出来るはずはない。
完全に『正義の爪痕』の仕業だな。
「衛兵長、衛兵達を一旦安全圏に下げてください。この化け物達は全てレベル30を超えています。まともに戦っては危険です。ここは我々が引き受けます。住民の避難誘導をお願いします」
「わかりました。ですが私だけは一緒に戦います! 」
そう言うと衛兵長は周りの衛兵に指示を出し、自分は化け物に剣先を向けた。
戦う気だ。衛兵長としては退けないのだろう。
まぁ彼のレベルなら戦えるとは思うが……
「無理なさらないでください。よければこれを使ってください! 」
俺はポンコツ商人から没収した階級が『上級』の優美な剣を魔法カバン経由で『波動収納』から取り出し、衛兵長に渡した。
「え……こんな凄い剣を……いいのですか? 」
「はい、遠慮しないで使ってください。今は化け物を倒すのが先決です! 」
「わかりました。お預かりします! 」
そう言うと衛兵長は化け物に斬りかかって行った。
俺は繋ぎっぱなしにしてある『絆通信』で、他の場所の仲間達に注意を伝えた。
捕縛後も何かを飲ませないように十分注意しなければならない。
今のところ、ここ以外では、化け物は発生していないようだ。
化け物は三種類いる。
両腕が巨大な爪を持つ熊の腕になった熊化物が三体、胸にサメの頭がついているサメ化物が四体、両腕が蛇になっている蛇化物が三体、合計十体もいる。
俺は仲間達に、もう人間ではないので倒して良いと許可を出す。
この化け物達は、目に入ったもの全てを攻撃をしている。
捕縛状態になっていた仲間や、化け物になっているお互いすら攻撃しあっている。
暴れる本能しかないようだ。
これは逆に危険だ!
そしてサメ化物は、両腕が人間形状のままなので剣や槍も使っている。
蛇化物も、腕である蛇の口で刀を咥えている。
剣の動きがかなり変則的だ。
あの厄介な動きは……衛兵長も苦戦している。
「オリャー! 」
衛兵長が気合一閃、蛇腕を斬り落とした。
「ぐう……」
あ! 残った蛇腕が咥えた剣で衛兵長の足を斬り付けてしまった。
俺はすぐに助けに向かったが……
必要無かったようだ。
衛兵長が片膝をついたまま、蛇化物の心臓を刺し貫いた。
足の傷は深いようだが、回復すれば大丈夫だろう。
「ごぶっ」
なに! 衛兵長が口から血を吐いた。
……衛兵長の体を蛇化物の剣が刺し貫いている。
倒せてなかったのか!
……もしや
俺は鞭を蛇化物の頭に放つ———
ビュウンッ———
———べシンッ
蛇化物の頭は砕け散った。
そして動きを止めた。
やはり……ゾンビと同じようだ。
頭を破壊しなければ倒せないらしい。
俺は衛兵長に駆け寄り、すぐに『癒しの風』をかける。
傷はすぐに治っていくが……
おかしい……息をしていないようだ……
心臓の近くが貫かれていたから、心臓が動いていないのか……
「大丈夫!まだ間に合うはず。私に任せて! 」
ニアはそう言いながら、超スピードで飛んできた。
「
ニアが指の先から小さな稲妻を放つと、衛兵長の体が大きく弾んだ。
まるで電気ショックを使った心肺蘇生だ。
これはニアが最近取得した新しい雷魔法だ。
ニアが言うにはこの雷魔法を取得したくて、雷魔法と相性が良い『ハイピクシー』のままクラスチェンジしなかったとの事だ。
ニアのひいお婆さんで伝説の元祖“妖精女神”ティタさんが、この魔法で多くの命を救った話を聞いていたからのようだ。
衛兵長に血色が戻っていく。
心臓が上手く動いてくれたようだ。
ふう……良かった……。
よし! 残りの化物をさくっと倒してしまおう。
みんなに頭を破壊しないと倒せない事を伝え、更なる注意を呼びかけた。
どうもこの化け物は、レベル以上の強さがあるようだ。
負傷者の治療を終えた仲間達がみんな戻ってきた。
「グリム、リリイ達に任せて欲しいのだ!」
「ご主人様、チャッピーにも任して欲しいなの! 」
「フォローはするから任しとけい! 」
「アチシが絶対守るって感じ! 過保護はマジ勘弁! 二人の成長の為任せるしかないっしょ! 」
リリイ、チャッピー、シチミ、オリョウがそんなことを言ってきた。
え……いくらリリイとチャッピーがレベル30を超えてるといっても、相手の強さは同等かそれ以上だろう。
危なすぎるでしょう……
「大丈夫! みんなでフォローすれば大丈夫だから! 」
ニアもジト目で見ながらそう言う。
なんでこの人達……こんなに緊迫感が無いんだろう。
正体不明の化け物が現れたのに……
まぁいいけど。
周囲に怪我人や住民もいなくなったから、慌てて倒さなくても大丈夫にはなったけど……。
任せてみるか……
すぐフォロー出来る体制で準備をしておけばいいか……。
俺はみんなに首肯した。
リリイとチャッピーはお互い視線を合わせて頷くと、背負っていた昨日買ったばかりの丸盾を取り出した。
早速装備して防御しながら戦うつもりのようだ……。
慎重でいいね。
………と思ったのだが……
え……何するつもり……?
二人は丸盾を水平に持ち、腕を後ろに引き絞った。
え!
そして投げ放った!
げ、……円盤投げ?
高速回転した丸盾の円盤が蛇化物二体に、それぞれ唸りをあげてながら飛んでいく。
丸盾はガードの為に出した蛇腕を弾いて、本体の頭に激突した。
頭部は激しく飛散した!
わあ……これって丸い盾を敵に飛ばして戦う、俺の好きなアメコミヒーローそのものじゃないか!
てか……そんな丸盾の使い方……誰が教えたのよ?
あのアメコミヒーロー知ってんの俺しかいないはずだし……。
いや……『ランダムチャンネル』スキルで色んな世界の情報を得ている『ライジングカープ』のキンちゃんなら知ってる可能性はあるか……。
だが二人は今朝は、大森林や霊域には行っていないはずだ。
早朝からサーヤの敷地内で訓練はしていたけど……
あの子達もしや……本能でやっちゃったわけ?
なんて凄い子達なんだ! カッコ良すぎるんですけど……。
そしてなぜか……盾が戻ってくる……。
どうして……? どうしてよ? どうしてなの?
そんな機能無かったはずだけど……
なんとなく……気合でやっちゃってる気がしないでもない……
良く言えば意思の力だけど……
もう……よくわからない……。
なんか……最近のこの子達……ニアの滅茶苦茶さが伝染してる気がする……。
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