171.犯罪阻止の、合同作戦。

 一夜明け、ザコーナ商会のポンコツ会頭であるコモーの屋敷に潜入していたリンが戻ってきた。


「あるじ、わかった。悪い奴いっぱいいた! 悪い企みしてた! 」


 おお…… リンちゃん、いきなり核心を突く情報を得て来たようだ。

 やっぱ優秀すぎるわ……リンちゃん。


 リンに詳しく話を聞いたところ……


 コモーの屋敷にも来客用の別館があり、そこに取り巻き連中十人とならず者が三十人程いたらしい。


 屋敷の使用人は、別館に近づかないように言いつけられているようで、別館にはいなかったようだ。

 逆に本館は使用人しかいないらしい。

 コモー自身もほとんど別館にいるようだ。


 やはり武器を多数所持しているようだ。

 別の部屋にあった予備の武器等は全部没収出来たようだが、所持している武器については没収出来なかったようだ。


 そしてこの街で騒ぎを起こす計画を、打ち合わせていたとの事だ。


 リンは、役割分担を示す図を入手してきてくれていた。

 リンが盗み聞きした内容と照らし合わせると、大体の全貌が把握出来る。


 奴らの計画は………


 まず第一に、仮設住宅エリアに放火を実行する。


 同時に下町エリアで、ならず者達を中心に騒動を起こし、周囲の人間も巻き込んだ暴動を起こす。


 市内の各所でも散発的に放火し、混乱を拡大する。


 第二に、コモーと取り巻き連中が、混乱に乗じて役所を襲い金品を強奪する。


 ……というもののようだ。


 狙いとしては……

 二カ所で大きな騒動を起こし、衛兵隊をそちらに釘付けにする。

 そして衛兵隊の動きをより制限する為に、市内各所でも放火をする。

 衛兵隊が対応に追われているうちに、街で一番金品がまとまっている役所を襲うという事のようだ。


 金に困っての犯行だろうが、俺は少し違和感を感じた。


 それは……あのポンコツ商人コモーが、こんな計画を立てれるだろうかという疑問だ。


 だがリンの報告には、驚くべき続きがあった。


 この計画を主導しているのは、どうも別の人間らしい。

 グレーのフードを被っていて顔はよく見えなかったようだが、時折『正義の爪痕』という言葉を発していたようだ。


 正義の爪痕……


 前にセイバーン公爵家の次女ユリアさんから聞いた犯罪組織の名前だ。


 『正義の爪痕』はセイバーン公爵領の各地で騒ぎ起こしている犯罪組織との事だった。


 その犯罪組織が混乱に乗じてピグシード辺境伯領に入って来ないか心配していたが、既にこのマグネの街に潜伏していたとは……。



 リンの話では他にも協力者がいるようで、協力者は作戦決行時刻に下町の隠れ家に集まる事になっているようだ。


 下町の隠れ家はコモーの所持物件の一つのようで、役割分担の図に大体の場所が書いてあるので、探せばすぐに見つかるだろう。


 こんな計画はすぐに叩き潰したいところだが、リンの話を聞く限り他の協力者は決行時刻に集まってくるようなので、事前に計画を潰すと他の協力者を取り逃してしまう可能性がある。


 決行時刻は本日正午らしいので、決行時刻ギリギリまで待って一網打尽にするのが最善な気がする。

 当然その為には被害を出さないように、万全の準備をしなければならないが。


 俺は急いで衛兵長と代官さんのところに向かった。



 俺はリンが持ち帰った情報を二人に話した。


 最初はどうやって情報を手に入れたのかと驚かれたが、仲間達の一人が上手く潜入出来たとだけ話した。

 “女神の使徒”という事で納得したのか、それ以上の追求はなかった。


 代官さんは街の安全を考え、事前に逮捕すべきという意見だったが、衛兵長は一網打尽にして長期的な安全を確保すべきとして、俺の案に賛成してくれた。

 結局、一網打尽にする案で作戦を立てる事になった。


 衛兵長率いるチームが、下町のアジトに協力者が集まったのを確認して作戦開始の合図を出す。

 そして直ちに逮捕に移る。


 合図を確認後、クレアさん率いるチームがポンコツ商人コモーの屋敷に突入して逮捕。


 別働隊が念の為ザコーナ商会の二店舗にも突入し犯罪要員がいれば逮捕。


 衛兵達はバレないように私服で待機、警戒に当たる事になっている。


 俺達は狙われている仮設住宅エリアと下町全体の警備及び街の各所に設置されるだろう発火物の処理を担当する事にした。

 念の為、数が多いと予想される下町のアジトでの逮捕にも協力する事にした。



 打ち合わせを終えて、俺はサーヤの家に戻ってきた。


 今日は仲間達には外出しないで待機してもらっている。


 先程の衛兵隊との合同作戦をみんなに説明し、俺達の役割分担も取り決めた。


 まず街の各所に設置されるであろう発火物の確認と無力化をリンと『スピリット・オウル』のフウ、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラに担当してもらう。

 この三人は単独で街をうろついても不自然じゃないからである。

 それから街の巡回警備担当である『マジックスライム』のリキュウのチームとリハチのチームも一緒に担当してもらう。


 仮設住宅エリア東側の放火の阻止はミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキーに担当してもらう。


 仮設住宅エリアの西側の放火阻止はサーヤ、ナーナ、レントン、タトルに担当してもらう。


 下町エリアのアジトでの捕縛のフォローは、俺、ニア、シチミ、オリョウ、リリイ、チャッピーが担当する。





  ◇





 もうすぐ犯罪決行予定時刻の正午だ。


 俺のチームは衛兵長達とともに下町の奴らのアジト近くに待機している。


 俺は『絆』スキルの『絆登録』コマンドのサブコマンド『絆通信』の機能を使い、全員に同時双方向で念話を繋いでいる。

 こういう離れた作戦の時は、お互いの状況が瞬時に確認出来るので非常に便利だ。


 ポンコツ商人コモーの屋敷にいた取り巻き以外のならず者達三十人は、街の方々に散って配置についているようだ。


 既に発火物も設置されている。

 ただ発火物は全てリン、フウ、トーラとスライムチームの働きで場所を特定している。

 みんな配置についているので、合図があったら一斉に回収する予定だ。


 どうも事前にセットした発火物に、少し離れたとこから火矢を射るつもりのようだ。

 発火物回収後、そいつらも全て捕縛する予定だ。


 仮設住宅エリアで待機しているミルキーのチームも、サーヤのチームもそれぞれに不審な男達を既に特定しているようだ。

 合図があり次第、すぐに捕獲出来る体制が取れているとの事だ。



 下町のアジトに不審な男達が続々と集まっている。


 もう三十人を超えている感じだ。


 こんなにも悪事への協力者がいるなんて……

 ……密かにショックだ……。


 金で雇われただけの貧しい人達という可能性もあるが……。


 少し離れた場所にいた衛兵長が俺に視線を送ってくる。


 俺は黙って頷いた。


 おそらく協力者は全て集まっただろう。

 もう来る様子は無い。


 時間も予定時刻の正午の少し前のようだ。


 衛兵長の腕を振り下ろす合図で、私服の衛兵達が隠してあった武器を持ち一斉にアジトに突入していく。

 出入り口は三カ所あるようだが、事前に把握し全て衛兵を配置済みだ。


 衛兵長は同時に煙玉で、他の場所にも合図を出す。


 突入直後から、怒号や剣のつばぜり合いの音が外にまで響いている。


 リリイとチャッピーも飛び出しそうになっていたが、周辺警戒も大切だと言い含めて我慢させる。


 それに中では普通に斬り合いが発生しているので、かなりの残酷映像が展開されているに違いない。

 俺自身それを見たくないし、子供達にも見せたくないのだ。



 しばらくして少し静かになった。

 不意をつかれた不穏分子達は、抵抗虚しく衛兵達に拘束されたようだ。


 無事終わったようだ。


 そう思ったのも束の間……


 バゴォーンッ———


 アジトの建物の一部が飛び散った!

 まるで中から爆発したような感じだ。


 ヤバイ!


 俺達は急いで建物に向かう。


 バーンッ———

 バゴォーンッ———

 ボンッ———


 次々に建物の一部が爆発音を上げて飛び散っている。


 そして中から巨大な生き物が飛び出して来た!


 ———いったいなんだ!


 魔物か……いや悪魔か……


 違う……角が無いし顔は人間のままだ。


 人間に魔物の一部が合体したような姿だ……。


 体が一回り大きくなると共に筋骨隆々になっている。


 そして体の一部に魔物化したような特徴が現れている。


 腕が蛇のようになっていたり、胸にサメの頭が付いていたり……


 一体なんだこれは……





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