169.商売敵の、嫌がらせ。

 俺は孤児院でのリリイとチャッピーの撃退劇の後、二人とトーラを孤児院に残し『フェアリー薬局』に来ている。


 さすがに今日はもう孤児院には来ないだろうと思ったので、所用を済ませる為に『フェアリー薬局』を訪れる事にしたのだ。


『フェアリー薬局』では各種魔法薬や、調合した薬、そして目玉商品にしようと思っている健康茶が順調に売れているようだ。


 特に健康茶の評判が良いようだ。


 色んな種類を作ったし、この世界で主流の紅茶に乾燥フルーツなどをブレンドしたフルーツ茶も作ったからね。


 美味しくて体にいいから人気のようだ。


 それから烏骨鶏の卵も順調に売れているらしい。


 ロネちゃんの蜂蜜も販売させてもらっていて、これもバカ売れだそうだ。

 試食をさせてあげた人は必ず買って帰るそうだ。


 試食販売は俺のアイディアだ。


 本当に美味しい物は、食べさせてあげれば大体売れるんだよね。


 買わずには帰れないだよね。味を知ってしまうと……。


 食品販売店である『フェアリー商店』と、多少食品かぶりな気もするが『フェアリー薬局』の方は健康に特化しているので差別化は十分出来るだろう。


 まぁ同じ商品を置いても別に問題は無いが……。


 もっとも『フェアリー薬局』に置く商品は、置くスペースの問題もあるので今後厳選していく予定だ。



 俺はハーリーさんに相談事で来たのだ。


 それは薬師見習いの事だ。


 この前、仮設住宅から拐われた四人の子供達を薬師見習いとして住み込みで雇用したが、孤児院の子達で薬学を身に付けたい子がいたら、まだ受け入れる余裕があるか聞いておきたかったのだ。


 二階の部屋は五部屋全部埋まっているが、孤児院の子達は当面孤児院から通ってくるので部屋の問題は無い。


 後はハーリーさんが面倒見れるかどうかなのだ。


 俺の話を聞いたハーリーさんは、「是非協力させてください」と目をキラキラさせて俺の手を両手で包み込んだ。


 あれ……ハーリーさんってこんなキャラだっけ?


 俺は一瞬固まってしまった……


 子供が好きなのかな。

 たぶん……子供達の為になる話に感動してくれたのだろう。


 まぁ快諾してもらえて良かった。


 希望者がいたら連れてくる事にした。


 今度はハーリーさんから話があった。


 昨日競合の薬屋と思われる人物が店舗を訪れて、文句を言ってきたようなのだ。


 ハーリーさんが上手く対応して追い返したらしい。


 特に問題はなかったが、念の為の報告という事だった。


 なんでも二十代後半位のつり目の女性が、散々嫌味な事を言った挙句に商品に文句をつけたそうだ。


 周囲にはお客さんもいて、わざと悪い評判を絶たせようとしたらしいのだが、ハーリーさんが正しい知識で黙らせたらしい。


 女性は知識負けして、逆上して喚き散らしながら帰っていったとの事だ。



 ハーリーさんの言うように商売敵なのだろうか……。



 俺は『フェアリー薬局』を後にして、トルコーネさんの『フェアリー亭』にお邪魔した。


 今日も大繁盛のようだ。


 トルコーネさん一家はもちろんだが、孤児院から働きに来ている子供達も生き生きしている。


 俺は忙しい中申し訳ないと思ったのだが、少しだけトルコーネさんに時間をもらった。


 この街に詳しいトルコーネさんに、『フェアリー薬局』と競合しそうなお店の情報を尋ねたかったのだ。


 ハーリーさんから聞いた話を簡単に説明し、競合しそうな薬屋等を教えて欲しいとお願いした。


「この街では、下町に一つ昔からやってる薬屋があります。もう大分お歳を召したお婆さんがやっています。

 あとお店は出していませんが、内職的に薬師の仕事をしている人は数人いると思います。

  一番大きいのはザコーナ商会の武具店ですね。回復薬や毒消し薬等の薬類も販売しているんです。

 確か……店では調合せずに、先程話した数人の内職薬師達から仕入れていたはずです。そんな意地悪な事をするのは、ザコーナ商会の人間じゃないですか」


 出た! ザコーナ商会……あのポンコツ商人の商会じゃないか……


 ギルド長が武器防具のお店をやってるって言ってたけど、回復薬も販売してるのか。


 ザコーナ商会は最近、方々で揉め事を起こしていて、トルコーネさんの耳にも入っていたようだ。


 またあのポンコツが絡んでくるとは……逆に対処が難しくなってしまった。


 俺は苦情を言ってきた店を突き止めて、難癖を付けないように釘を刺しに行こうと思ったのだが……


 ポンコツ悪徳商会が相手だと動きにくい。

 今泳がせているから、あまり派手に騒ぎを起こせないのだ。


 衛兵隊が全容を掴むまで待っているしかないかな……


 ……いや、待てない!


 もう面倒くさくなって来た……。


 俺の方でも動く事にしよう。

 これ以上ストレスを抱えたくないからね。


 屋敷はわかっているんだから、潜入して探ろう。


 俺は、安定の凄腕潜入工作員リンちゃんを念話で呼んだ。


 リンにいつものように、『隠密』スキルと体色変化によるステルス機能でポンコツ商人コモーの屋敷への潜入任務をお願いした。


 怪しそうな書類の持ち出しと会話の盗聴をしてもらい、関係者を洗い出すつもりだ。


「わかった。リン、がんばる! 悪い奴の武器、持ってきちゃう? 」


「そうだね……あいつが持ってると、碌な事に使わないから没収しちゃっていいよ」


 武器を取り上げれば、悪さをする機会も減るだろう。


「わかった。行ってくる! 」


 そう言って、リンは張り切ってポンコツの屋敷に向かった。




  ◇





 俺は孤児院で遊んでいたリリイとチャッピーとトーラを連れて、ザコーナ商会のお店に向かった。


 中央通りに面した立地の良い場所に金物販売店と武具販売店が二軒並んでいる。


 この二軒は『フェアリー商会』のお店とは、通りを挟んだ反対の西側にある。


 まずは金物販売店に入る。


 鍋や包丁、その他様々な日用品が置いてある。


 二階建ての一階が店舗で、二階が事務所のようになっているようだ。


 店員は三人のようだ。


 ポンコツ商会の店舗の様子を見に来たのだが、折角なので買い物も楽しむ事にした。


 品数が多いので、見ているだけでも楽しい。


「あの……すみません、妖精女神様のお仲間の皆様ですよね? 」


 突然、店長らしき中年の男性が話しかけてきた。


 この人はさすがに俺の事を知っているようだ。


 まぁ目の前の中央通りで、何回かパレード状態になっていたからね。

 その時に見ていたのだろう。


「ええ、そうです」


「この街を救っていただき、本当にありがとうございます。ご入用の物がございましたら、なんなりとお申し付けください。価格も勉強させていただきます」


 何か目がキラキラしている。

 この人は悪い人には見えないなぁ……。


 少し話をすると、この店員さんはやはり店長さんだったようだ。


 お店の商品は下町にある工房で作っていて、特注品を作る事も可能だそうだ。


 大鍋が欲しいという要望を伝えたところ、作れる最大の大きさを工房の職人さんに確認してくれる事になった。


 対応もしっかりしている……ポンコツなのは会頭のコモーだけなのかもしれない。


 俺はとりあえず店頭にあった大きめの寸胴型の鍋をいくつか買った。

 ちょうど寸胴型の深鍋が欲しかったのだ。

 他にも包丁や金串など細々とした物を結構購入した。


 会計を済ませて帰ろうとした時、二階から目つきの悪い男達が三人バタバタと降りてきた。


 客である俺を睨みながら小走りに店を出て行った。


 そんな様子を見ていた店長さんが、申し訳なさそうに俺に謝った。


 店長さんによれば、二階部分は事務所になっているらしいのだが、主に持っている土地の管理などをしている部門との事だ。

 最近は貸してる物件の賃料の値上げを強行したり、追い出したりしているそうだ。


 この商会の悪評を作っているのは、主にこの部門らしい。


 なぜ俺にそんな内部事情を話すのか不思議だったが、それには理由があった。


 追い出されて可哀想な目に遭っている人が結構いるので、避難民達を助けているようにその人達も助けてもらえないかとお願いされたのだ。

 住む所が無くて困っているので、一時的にでも仮設住宅を提供してもらえないかとの事だった。


 はじめは凄く言い辛そうにしていたが、最後には自分の事のように切実に訴えかけてきた。


 この店長……めっちゃいい人じゃないか。

 ポンコツ商会にはもったいない……。


 もっとも先代の時は素晴らしい商会だったようなので、その時から働いてる人なのだろう。


 先程の目つきの悪い男達は、最近雇い入れたようだ。


 無理矢理追い出されて住む家を失くした人達については、役所に申し出るように伝えておいた。

 後で代官さんに連絡して、仮設住宅を割り当てるようにお願いしておく事にする。

 まだ少し空きがあったはずだしね。



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