168.完全に、再現しちゃったよ。
蹄の音は……案の定、あの悪徳商人、コモー達の馬車だった。
性懲りもなくまた来たらしい。
しかも孤児院の前に馬車を止めて、武装する為に着替え始めた。
間抜け過ぎて見ていられない。
こいつらほんとに何やってんの……。
そしてなぜ俺は、あいつらの着替えを待っていなければならないのか……
さてどうしようかなぁ……
昨日の衛兵長との話でしばらく泳がせる事にしたから、コテンパンにやっつけるわけにはいかないんだよね……。
あれ……リリイとチャッピーが走っていく……
やばい!
あの子達、コテンパンにする気満々だ!
泳がせ作戦が頓挫するかも……
「いじめはダメなのだ! いじめをする奴はリリイがやっつけちゃうのだ! 」
「チャッピーも許さないなの! 子供達いじめるのは悪い奴なの〜」
二人が“生着替え中”の男達に詰め寄っている。
さすがに俺に言われているから、武器は出していないが格闘する気は満々のようだ。
リリイは軽いファイティングポーズをとってるように見える。
「なんだガキ! 痛い目に会いたくなかったら、とっとと消えろ! 」
「リリイはガキではないのだ! リリイなのだ! 悪い奴はごっちんするぞなのだ! 」
「チャッピーもガキじゃないなの〜 チャッピーはチャッピーなの! 大人しく帰れなの! ここは絶対守るなの〜 悪い子はちょん切っちゃうなの! 」
おお、やばい!
あの子達……結構怒ってるらしい。
怖い発言が飛び出てるんですけど……。
リリイちゃん……ごっちんしたら普通の人は死んじゃうから……
そしてチャッピーちゃんも……ちょん切っちゃっても普通の人は死んじゃうから……
魔物以外にはダメですから……
わかってるとは思うけど……。
それにしてもコモー達、また新たな武器を持っている。
しかも昨日と同様のかなりの高級装備だ。
こいつ……店の在庫を使い潰す気か……商会が傾くわけだよ。
俺はすぐに出て行こうと思ったのだが、なんとなく面白そうなので様子を見る事にした。
今のリリイとチャッピーをあのポンコツ集団が傷つけられるとは思わないし……。
どちらかというと心配なのは、リリイとチャッピーが殺してしまわないかって事だが……。
多分大丈夫だろう……。
いざという時は、すぐ止めれるようにスタンバイしておく。
あと、殺してはいけない対人戦は難易度が高いので、あの子達がどう対応するか見てみたい気持ちもあった。
俺がいない時に、そういう局面に遭遇する事があるかもしれないからね。
男達の“生着替え”……もとい、武装が完了したようだ。
リリイ達に向かっていく。
「お前達、ほんとに叩き斬るぞ! 」
男が剣を振り上げだ。
さすがに脅しだろう。
ほんとに子供に対して斬りつけるとは思えないけど……
いや……あいつらならやるかも……
「べえーだ! 悪い奴なんかにやられないのだ! そんな綺麗な剣持ってたって、おじさん達は弱いのだ! “スライムにも勝てないなんて”なのだ! 」
「チャッピーもやられないなの〜 弱々おじさんなの〜 “宝の持ち腐れ”なの〜」
おお、リリイとチャッピーが挑発している。
楽しそうにニヤニヤしているけど。
どうも俺が昨日した話を真似しているようだ。
確かにせがまれて詳しく話したし、俺も悪乗りしながら面白おかしく話しちゃったからね。
わざと攻撃させて、避けまくって武器を取り上げるって事を再現しようとしてるのかも……。
なんか逆にちょっと面白くなってきた……。
「悔しかったら、かかってくるなのだ! 」
「子供相手に負けたら恥ずかしいなの〜」
あれれ……さらに挑発しちゃったよ。
あの二人完全にやる気だね。
そしてアホな奴が一人キレたようだ。
リリイに斬りかかる———
リリイは半身を捻ってすらりと躱す。
降りてきた剣の持ち手を掴んで剣を落とさせながら、勢いで男を転がす。
男は腕を押さえて、うずくまっている。
すると今度は三本の槍が向かってくる……
昨日と全く同じパターンじゃないか……
リリイとチャッピーがお互いを見てニヤッとしながら屈み込む。
そしてリリイが二本、チャッピーが一本、槍を掴むとそのまま振り上げて、男達を空中に放り出す!
おお、すごい! 完全再現だ!
戦いを見ていて、こんなに楽しいなんて……
二人ともすごい!
めっちゃ面白い!
そしてあの男達……めっちゃアホだ!
今度は弓を持っている男達の足元に、トーラが突撃して三人連続で転倒させる。
すごい!
トーラもたまらず参戦したようだ。
残りの男達が突然攻撃してきた猫もといトーラに驚いて動きを止めている。
リリイとチャッピーは、パンパンと手を叩き注意を自分達に戻し、男達が向かって来るのを待つ。
本当に完全再現する気のようだ。
三人の男達は昨日同様、互いに目配せをして同時に剣による突きを繰り出す———
こいつら……本当にワンパターンな奴ら……
ポンコツ過ぎて笑う気にもなれない……。
三方から剣先が迫る中、リリイとチャッピーはまたも視線を合わせてニヤッと笑う。
そして次の瞬間、二人の体は宙に舞った。
標的を失った三つの剣先は、互いを傷つけて火花を散らす。
二人はそのまま交差する剣に着地し、勢いで剣を落とさせる。
男達は手を押さえながらうずくまった。
これで十人の取り巻きを無力化し、武器も取り上げた。
残るは、あの悪徳商人コモーだけだ。
「なんなんだお前ら! もう手加減してやらないからな!」
手加減してたのかい!
めっちゃ全力に見えたけど……。
また魔法の杖を取り出してる。
どんだけあるんだよ! 在庫……。
おお、今度のは水が出るようだ!
当然リリイとチャッピーは軽く避けている。
昨日の火炎放射の魔法の杖と同様に、この杖も単なる放水状態だからね。
仮に当たっても、致命傷には全くならないと思う。
昨日の杖を没収してわかったが、杖自体の性能は決して悪くないようだ。
使う人間の問題だね。
こいつはもう悪徳商人とは呼んでやらないのだ!
これからは、ポンコツ商人だ!
リリイは放水を避けながら、どんどん近づきジャンプで杖を取り上げた。
「こいつ! もう容赦しないぞ!」
逆上したポンコツは、剣を抜き上段から振り下ろす———
リリイに向かっていた剣を、割って入ったチャッピーが真剣白刃取りで受け止める。
リリイは自分がやりたかったらしく悔しそうにしているが、チャッピーが「順番なの〜」と言いつつ舌を出し愛嬌顔をする。
チャッピーは白刃取りされたまま動けないでいるポンコツを、そのまま引き転がす。
———これで無力化完了!
素晴らしい!
この子供達、最高!
俺は影から見守りながら、心の中で盛大な拍手を送った。
完全再現だった!
トーラは馬車の中に乗り込んで、積んであった予備の武器や防具・道具等積荷全てを没収してしまったようだ。
ちなみに、トーラが馬車の中で没収していた様子は誰も見ていない。
俺は事前に馬車の中の武器を没収していいかと許可を求められていたのでわかったのだ。
もちろん念話を使ってのやりとりだ。
ポンコツ達……後でびっくりするだろうなぁ……ざまあみろだ!
今の俺の仲間達は、『共有スキル』で全員が『アイテムボックス』を使えるから、かなりの物量を一瞬で回収出来てしまうのだ。
トーラは、何食わぬ顔で馬車から降りて普通に歩いている。
「小娘供、それは私の武器だ! 返せば、今日のところは許してやる! 」
あのポンコツ……この後に及んで……なに上から目線なわけ……。
「ダメなのだ!勝負に勝ったからリリイ達のものなのだ! 」
「返す必要ないなの〜」
「なに! ふざけるな!いくらの価値があると思っているんだ! 」
まったく……デジャブ感が半端ない……。
「そんなの知らないのだ! “嫌なら奪い返したらどうだい”なのだ! 」
「返して欲しかったら、もう一回挑んでくればいいなの〜」
笑える……ほんとに完全再現だ。
リリイ、俺の言葉の再現度も高いわ……凄い記憶力だ。
あのポンコツ、何も気づいてないんだろうか……
おバカさんにもほどがあるんですけど……。
「 どうなっても知らんぞ! 俺を誰だと思っている! ザコーナ商会の会頭コモーだぞ! この町の有力者に楯突いてただで済むと思ってるのか! 」
リピート状態かよ!
まったく……子供に何言ってんの……。
「値段なんて関係ないのだ! この武器はリリイ達を襲った証拠なのだ! 」
「衛兵隊に持ってっちゃったら、どうなるかな……なの〜」
「ふざけるな! それだけで証拠になるものか! まぁいい。今日のところは引き上げてやる。見逃してやる。だがこのままで終わると思うなよ! 」
捨て台詞までワンパターンかい!
男達はそそくさと馬車に乗り込み、逃げるように去っていった。
いやー面白かった!
リリイとチャッピーとトーラの大勝利!
———パチパチパチパチバチバチ!
結果的に二人が対応してくれて良かったと思う。
あいつらをしばらく泳がせる為に、追い払う事しか出来なかったからね。
俺は二人を褒めて、思いっきり抱きしめてあげた。
そして孤児院の子供達が目をキラキラさせて二人を見ている。
まるでヒーローに出会ったような憧れの眼差しだ。
二人より年上の子達まで、尊敬の視線を送っている。
男の子達なんか弟子入りさせてくれと言っている。
そして……
リリイとチャッピーはまんざらでもないようだが、年上の男子達に姉さんて言われる八歳ってどうなのよ……。
いやーでも本当に面白かった。
ニヤけが止まらない。
早く二人とトーラの活躍をみんなに報告したい。
ていうかビデオ欲しいよー……
なんでビデオが無いんだろう……
魔法道具でビデオとかないのかなあ……
あー……めっちゃビデオ欲しい———!
親バカですんません……。
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