164.不埒な、輩。

 孤児院を取り囲んでる完全武装の男達に、『マジックスライム』のリキュウをリーダーとするチームが立ち塞がっている。


 男達は躊躇することなくスライム達に攻撃を仕掛けている。


 斬りつけたり、弓を射ったりしている。


 外見上は普通のスライムだがリキュウ達は、今やレベル30を超えた屈強な戦士達なので攻撃を受けてもノーダメージだ。


「すみません、いったいこの騒ぎはなんですか? 」


 俺は走って近寄り、男達に声をかけた。


「うるさい、お前には関係ないことだ! 」


 武装集団のリーダーらしき男が、俺を睨みながら怒鳴り声を上げる。


「この孤児院がどうかしたのですか? 私はこの孤児院の関係者です」


 本来の意味での関係者ではないが、少し関わりを持った者という意味では関係者だ。


「グリムさん! 」


 建物の中に避難していた院長先生が、俺を見つけて出て来た。


「院長先生、 ご無事ですか? この騒ぎはどうしたのですか? 」


 俺は院長先生の無事を確認するとともに、事情の説明を求めた。


「実はこの孤児院を出て行けと言われていまして……もう少し待って欲しいとお願いしているのですが……」


「何を言っている! もう何度も出て行けと言っているではないか! ここは私の土地だ。今日は絶対に出て行ってもらうぞ! 建物も取り壊す! 」


 武装集団のリーダーらしき男が、院長先生の言葉を遮るように怒鳴る。


「待ってください。詳しい事情を教えてもらえませんか? 」


 俺は怒りを抑えながら、再度説明を求める。


「お前には関係ないことだ! いい加減にしないと血を見ることになるぞ! 」


 リーダーの男がそう言うと、周りの男達が一斉に俺を取り囲んだ。


 ああ、ムカつく!


 このイラつくパターン……


 悪徳奴隷商人以来だな。


「話だけでも教えてもらえませんか? そもそも街中でこんな武装して衛兵隊に知られたら……そちらの方がただで済みますかね? 」


 冷静に努めつつも、皮肉たっぷりに言ってやった。


「ぐ……」


 リーダーの男は、苦虫を噛み潰したような顔する。


「話し合いで解決した方がいいと思いますが……」


「ふん、この場に衛兵はいない。お前を斬り殺して馬車で運べは誰にも知られぬ! 」


 あら……こいつ開き直っちゃったよ。

 てか……逆ギレか!


 確かに大きな馬車で来ているようだ。


 武装も目立たないように、馬車に積んで来たのだろう。


 ほんとに何なんだこいつら……


 話し合いは出来そうにないな。

 ここはしょうがない……懲らしめるしかないな……。


「本当にあなた達に人が斬れるのですか? とっても弱そうですね。スライムにも勝てないなんて……。高そうな武器を持っているようですが、これを“宝の持ち腐れ”というんですかね? 」


 俺は半笑いしながら、あえて挑発をしてやった。


「な、なにを! こいつ……やれ! やってしまえ! 」


 十人の男達が一斉に襲いかかってくるーーー


 だが、こんな奴らに指一本触れさせる気はない。


 レベル10になった『格闘』スキルの威力を見せてやる!


 一番近くにいた男が剣を袈裟斬りに斬りつけてくる。


 それを半身捻ってギリギリで躱しながら、手首を捻り上げ剣を奪い取る。


 直後に三方から槍の突きが襲ってくるが、俺にとってはスローモーションだ。


 これもギリギリまで引きつけて、しゃがみ込んでかわす。

 奪った剣を地面に突き刺し、両手で二本の槍を掴み、力任せに引き寄せ男達を空中に放り投げる。


 その流れのまま二本の槍を地面に刺し、瞬時に残る一本を叩き落しながら男を足払いで転がす。


 弓を引こうとしている三人を、転がる槍を蹴りつけて纏めて転倒させる。


 これで七人……


 剣を持つ残りの三人に囲まれ追い詰められる体を装って、距離を詰めさせる。


 三人は目配せをしている。

 同時に攻撃するつもりのようだ。

 単純にもほどがある。


 三方からの突きが迫る。

 さっきの槍の攻撃を避けたのを見ていなかったのだろうか……。


 胸に届く瞬間、俺は軽くジャンプする。


 俺の軽いジャンプといっても、常人には瞬間移動のように見えたかもしれない。


 三つの剣が交差して火花を散らす。


 俺は交差した三本の剣に着地し、その勢いで叩き落とす。


  三人の男は、腕を痛めてうずくまっている。


 これで十人。


 残るは、あのリーダーの男だけだ。


 おっと、男は何を思ったのか、俺ではなく孤児院の建物に向けて杖を振っている。


 奴は剣以外に魔法の杖も持っていたようだ。


 杖の先から火炎放射のような炎が出る。


 この建物を燃やすつもりらしい。


 だがそんなことはさせないよ。


『マジックスライム』のリキュウが壁となって火炎放射を受けた。


 俺もこの動きがわかっていたから、慌てていない。


「この魔法の杖でもダメなのか、一体何なのだ……このスライム達は…… 」


 とっておきの攻撃だったようだ。

 火炎放射を防がれた事で呆然と立ち尽くしている。


「もうネタが尽きたようですね、そろそろ話し合いをしませんか? 」


 そんな俺の言葉に我に帰った男は、やけくその怒鳴り声を上げる。


「うるさい、うるさい、うるさい、うるさーーーい! 」


 叫びながら魔法の杖を俺に向け、火炎放射を繰り出した。


 杖の性能が低いのか、それとも奴の魔力が低いのか、放射範囲が狭く簡単に避けられる。


 俺は避けながら近づいて行き、魔法の杖を取り上げる。


 すると男は後じさりながら、剣を抜く。


 優麗な高そうな剣だ。

 こいつは金持ちなのか……

 全く実力に見合ってない装備だ。


 奴は目を血走らせながら、上段から斬りつけてきた。


 俺は避けずにそのまま受けた。

 もちろん斬られたわけではない。


 俺は両手で剣を受けたのだ。

 所謂“真剣白刃取り”だ!


 一回やってみたかったんだよね。


 そして受け止めた剣を横に引き、奴を引き転がしてやった。


 全ての武器を取り上げ、無力化完了だ。


「おのれ……貴様何者だ! 」


 何者って……

 やっぱり俺のことをわかってないようだ……。


 この街では、かなりの有名人になってると思っていたのだが、知らない人もいるようだ。

 少し自意識過剰だったようだ……。


 有名人が気づかれない時の寂しさって、こんな感じなんだろうか……

 まぁそんな事はどうでもいいけど……。


「まぁいい、今日のところは引き上げてやる。さっさとその武器を返せ! 」


 引き上げてやるって……


 完全に悪者の捨て台詞じゃないか……

 小者過ぎて……笑う事も出来ない。


「断る。これは勝負に勝った俺のものだ。これは全て俺がいただく! 」


 別に欲しいわけじゃないけど、こんな奴らに武器を持たせておいたら大変な事になりそうだからね。

 没収しておかないと。


「なに! ふざけるな!いくらの価値があると思っているんだ! 」


 全て合わせたら相当な金額になるのだろう。

 男が必死で食い下がる。


「そんなの知らないよ。でも勝ったのは俺だ。それが嫌なら奪い返したらどうだい? 」


 俺は嫌味たっぷりに笑ってやった……ざまあみろだ!


「貴様! どうなっても知らんぞ! 俺を誰だと思っている! ザコーナ商会の会頭コモーだぞ! この町の有力者に楯突いてただで済むと思ってるのか! 」


 出たーーー!

 権力を笠に着るパターン……

 悲しいかな大した権力でもないけど……。

 ……ほんとに小者すぎる。


「この武器は勝った俺のものであると同時に、街中で武装して俺に斬りつけた証拠でもあるんだよね。これを衛兵隊に持っていったらどうなるかなぁ……? 」


「ふざけるな! それだけで証拠になるものか! まぁいい。今日のところは引き上げてやる。見逃してやる。だがこのままで終わると思うなよ! それから、そこのババア、絶対に出て行ってもらうからな! 覚悟しておけ! 」


 そう言って男達は、馬車に乗り込み走り去ってしまった。


 もちろん逃さない事も出来たのだが……

 相手の名前もわかったし、あまりにも小者過ぎてこれ以上どうしたらいいか……

 少し思考が停止してしまったのだ。


 魔物なら倒せばいいんだけど、人間はそういうわけにもいかないし……

 相手がお馬鹿な人間というのが、一番質が悪いかもしれない。


 まぁあいつの対策は後で考えるとしよう。




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