163.おにぎりのお供、ゲットだぜ!
今日は予定通り早朝から稲刈りを行った。
みんなでやったので、特にスキルを使ったわけではないが短時間で終了した。
本来なら刈った稲を数日“天日干し”してから脱穀するのだが、時間の短縮の為にレントンにスキルで乾燥と脱穀をやってもらった。
元の世界の常識では、ありえない程の凄まじい収穫量だった。
『一粒万倍』スキルが効いていたようだ。
俺はお金関係と同様に食品関係でも、『波動複写』で増やす事を自主規制している。
ただ今回の米の種籾だけは、大規模水田地帯を作る為に自重するのをやめて『波動複写』しようと思っていた。
だがこの収穫量なら、その必要もなさそうだ。
種籾も足りるだろうし、街のみんなに振る舞う分もありそうだ。
お米の良さを広める為に、『おにぎり』を避難民だけでなく街のみんなにも振る舞う予定でいる。
稲作としてはわずかな面積だったにもかかわらず、それが出来てしまう程の凄い収穫量だったのだ。
そしてスキルの力を使えば、栽培期間が短くなるので、一年に何作も出来そうだ。
元いた世界でも、やろうと思えば米の二回栽培いわゆる二期作が出来た。
実際にやっている人は、ほとんどいなかっただろうが。
この世界、特に暖かいこの地域ではおそらくスキルを使わなくても、三期作は確実に出来るだろう。
そして不可侵領域は誰にも見られないので、自重せずにスキルを使えばおそらく五期作から六期作出来る気がする。
米は稲刈りしてしばらくすると、ヒコバエといって切株から再度成長をはじめる。
だから、もう一度種播きする必要は無いのだ。
この地域の気候なら、そのまま放置しておくだけで再度実が付くはずだ。
ニアの『雷魔法——植物成長』を使えば、またすぐに収穫出来そうだ。
おそらく一ヵ月後位には収穫出来るんじゃないだろうか。
実際に、ニアに『雷魔法——植物成長』を使ってもらった。
切株から瞬く間に青い葉が茂った。
一ヵ月もしないうちに、再収穫出来そうな感じだった。
◇
俺は今、ご飯を炊きたい気持ちを抑えて『フェアリー農場』に向かっている。
早速この収穫したばかりの種籾を播く為だ。
多くの避難民達にも参加してもらって、人海戦術で種播きする事にする。
川から引く用水路も整備され、必要な時に貫通させれば水を流し込める状態になっている。
◇
俺は種播きの様子を一通り確認した後、一人抜け出し近くの川に来ている。
一人でサボって川遊びをしているわけではない……決して……。
この中で探し物をしているのだ。
どうしても欲しい物がある。
それにしても……豊かな川だ。
遊び半分で網を入れると、笑えるくらい小エビが入っている。
赤いエビと白いエビだ。
『紅エビ』と『白エビ』というらしい。
そして結構大きめのテナガエビもいる。
黒いものと青いものがいる。それぞれ『黒テナガ』『青テナガ』というらしい。
もう……美味しい予感しかしない……。
『紅エビ』と『白エビ』は元の世界で大好きだった駿河湾の桜エビと北陸の白エビのような感じだ。
『素揚げ』や『かき揚げ』にしたら絶対美味しいはずだ!
そしてテナガエビは、完全にエビフライ向きの大きさだ。
しかも大きめのエビフライ……。
むしろこの川の幸を獲って販売した方が、儲かるんじゃないだろうか……。
そして魚も豊富だ。
街中を流れている川には魚を獲りに来る者が結構いるようだが、さすがに外壁の外に魚を獲りに来る者はいないようだ。
そのせいか網を軽く入れただけで、入れ食いだ!
様々な種類の魚がいるようだが、鮎のような形の魚が大量にいて、網を入れるとすぐ獲れる。
俺は、エビと魚をおよそバケツ二十杯分くらい獲って『波動収納』に保存した。
そうしているうちに、やっと狙った魚が手に入った。
『紅マス』という名前の真紅の魚だ。
体長一メートル位ある。
本当は、『おにぎり』の具として鮭が欲しかったのだが、この川にはいないようだ。
捕まえた『紅マス』も、元の世界の鱒とは微妙に違う感じだが、十分鮭の代用品になると思う。
そしてイクラも獲れるはずだ!
俺の探し物の一つはこの魚だったのだ。
事前にサーヤから聞いて、棲息している事はわかっていた。
更にしばらくして……
もう一つの探し物をやっと見つけた!
この川の中に生えている緑の物体———
———川海苔だ!
この川海苔を大量に獲って、乾燥させれば超高級海苔が作れるはずなのだ。
これで完璧な『おにぎり』が作れる!
今後農場で定期的に川海苔を採取して、海苔作りをやろうと思う。
もちろん他の川の恵みも頂戴する予定だ。
◇
水田の方は、大人数でやった甲斐があって、スキルを使わず何とか種播きを終わる事が出来た。
今は『フェアリー農場』に作った広場で、お米を炊いている。
大きな鍋をいくつも並べて、ご飯を炊き上げているのだ。
今回も大量に『おにぎり』を作らなといけないので、手間がかからない『塩むすび』にした。
おかずは魔物の焼肉と、俺が栽培したカボチャ、それに先ほど獲ったエビと鮎モドキだ。
カボチャは薄く切って、オリーブオイルで素揚げにした。
四種類のエビも全て素揚げにした。
もちろん鮎モドキは、串に刺して塩焼きだ。
レントンが作ってくれた木製の食器プレートに、塩おむすびと各種のおかずが盛られている。
これを働いてくれたみんなに配ったわけだが、『おにぎり』を初めて見たようでほとんどの人は不思議そうに見ていた。
みんなの驚く顔が楽しみだ。
絶対美味しいと言ってくれるに違いない。
“いただきます”をしようとしたその時……
街の東側の巡回警備を担当している『マジックスライム』のリキュウから念話が入った。
どうも孤児院で男が暴れているらしい。
リキュウが守っているので、孤児院の子達に被害は出ていないようだが……。
リキュウの話によると、今日三回目らしい。
来る度にリキュウ達に無力化されて帰るらしいのだが、今回は完全武装しているようだ。
もちろんリキュウ達が遅れをとる事は無いが、三度目という事もあり報告をしてくれたようだ。
俺は仲間達に事情説明し、一人で様子を見てくる事を告げた。
みんな同行したいと言ったのだが、今回は我慢してもらった。
これからご飯だし、働いてくれた人達を美味しいご飯で労って欲しかったからね。
魔物が大勢攻めて来ているような状況なら別だが、みんなで行く必要は無い。
『おにぎり』の美味しさに驚く顔は見たかったが、また次の機会もあるだろう。
孤児院は街の北東側にあるので、南門の壁外である現在地からは距離がある。
俺とサーヤは、人目が及ばない場所に移動し、転移で『フェアリー薬局』に移った。
サーヤの管理物件に登録できる場所で、孤児院に一番近いのが『フェアリー薬局』だったのだ。
『フェアリー薬局』の庭に移転したので、誰にも見られる事はなかった。
サーヤには『フェアリー農場』での夕食会を切り盛りして欲しかったので、すぐに戻るように言った。
サーヤは一緒に行きたそうな顔をしていたが、了承して戻ってくれた。
そして俺は走る———
———え、完全武装じゃないか……
武器や鎧を装備した完全武装の男達が十人以上……孤児院を取り囲んでいる……
……一体何なんだ?
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