122.領内を、救おう。

「タリア、一緒に遊ぶのだ。そうだ! おいしい果物あるのだ」

「チャッピーも一緒に遊ぶなの。『スピピーチ』も食べようなの〜」


 リリイとチャッピーが、先程まで泣いていた辺境伯家の次女タリアちゃんに話しかけてあげている。


「うん…姉様、いい? 」

「ええ、いいわよタリア。私もいただいていいかしら? 」


 タリアちゃんはお姉ちゃん子なのか、姉の長女ソフィアちゃんに同意を求める。

 ソフィアちゃんは、優しく同意すると、リリイとチャッピーにも気さくに話しかけてくれている。


「もちろんなのだ。お姉ちゃんも一緒に食べるのだ」

「一緒に食べようなの」


 長女のソフィアちゃんは十三歳。

 母親と同じきれいな薄青色の髪だ。三つ編み一本で結んで肩から下げている。


 次女のタリアちゃんは八歳。リリイ、チャッピーと一緒だ。

 ナーナと同じ綺麗な赤髪で、三つ編みをツインで結んでいる。


 ちなみに母親の辺境伯夫人は、アンナ=ピグシードさん、年齢三十五歳らしい。

 ソフィアちゃんと同じく綺麗な薄青髪のさらさらロングヘアだ。

 如何にも貴族といった立ち居振る舞いの上品さがある。

 そして…… すごい美人だ。二十代にしか見えない。


 亡くなった辺境伯は、ニック=ピグシードさんという名前で享年三十九歳との事だ。

 赤髪で『赤い牙』との二つ名を持つ武勇に優れた人物だったようだ。

 また領民思いの優れた為政者でもあったようだ。

 ピグシード家は、代々赤髪か黒髪が多いらしいのだが、ソフィアちゃんは母親のアンナさんに似て薄青髪なのだという。


 子供達が美味しそうに、『スピピーチ』を食べている。

 『スピピーチ』には、精神を安定させる効果もあるようだから、少しでも元気になってくれればいいんだけど……。



 引き続き被害確認をしているようだが、貴族だけでなく役人も大分失ってしまったらしい。

 大きな建物から狙われたので、貴族の屋敷の次は役所等が狙われたようだ。


 特に政務を取り仕切っていた執政官が行方不明らしく必死で探しているようだ。



 ちなみにサーヤ達マグネの街居残り組は、すでにサーヤの転移で戻っている。


 マグネの街でも、追加で難民の受け入れ準備をしなければいけないからね。

 俺がここに来るまでにすれ違った新たな難民がいずれ到着するだろうから。


 特に仮設住宅は新たに作らないと多分足りなくなる。


 一応旅立つ前に、追加が必要になった時の為に俺の『波動収納』に残っていた霊域の倒木を特殊なもの以外ほとんど出してきた。

 足りると思うが、万が一足りなかった場合は、サーヤに不可侵領域の水田を作った近くの雑木林の木を伐採するように言ってある。

 あそこはいずれ水田を増やしたいから、伐採するか移植しようと思っていたからね。

 他に適当な場所があれば、そこの木でも良いのだが……。


 まぁサーヤが上手く手配してくれるだろう。



 そして俺達もここ領都から立つことにした。


 この領内の都市や街を回ることにしたのだ。


 あの白衣の男の話が事実なら、ほぼ全ての都市や街が魔物や悪魔に襲われたことになる。


 恐らくまだ魔物は残ってるだろうし、場合によっては悪魔や小悪魔も残っているかもしれない。


 そして何よりも、まだ生存者が居るかもしれないのだ。


 そう思って俺は仲間達と相談し、すぐに旅立つことにした。


「ああ……ありがとうございます。本来であれば、我々が軍を派遣して民を救わねばならないところ……」


「いえ……今はこの領都をしっかり機能させる事の方が重要だと思います。魔物討伐は我々にお任せください。もし生き残っている方や避難している方がいたら、領都に向かうように言いますので、受け入れ準備をお願いします」


「はい、わかりました。どうか、我が民をよろしくお願いします。ニア様、グリムさん」


「オッケー、まかしといて」

「はい、わかりました。さん付けはよしてください。恐れ多いです。グリムで構いません」



 そして俺は夫人から領内のおおまかな地図をもらって出発することにした。


 この辺境伯領は意外と広い。


 大森林よりも広いのだ。


 という事は、東京都の面積よりも広いという事だ。

 大森林の 1.5倍以上はありそうだ。


 ピグシード辺境伯領には領都の他に、都市が三つ、街がマグネの街を含めて六つあるのだ。


 この領都から見て西側に、都市が二つと街が二つある。


 そこで俺達は、まず南西方向の都市『イシード』から回ることにした。


 その都市まで普通の旅なら二日はかかるらしいが、オリョウが爆走すれば一日もしくは半日ちょっとで着けるはずだ。


  一つだけ気がかりなのは、俺達がいない間に再度襲撃がないかということだ。


 あの白衣の男を逃してしまったからね。

 ただ悪魔はすべて倒したから、すぐには再侵攻は無いとは思うのだが……。


 それにしても領軍兵士が百名もいないんじゃ、なかなかに心配ではある。


 そこで俺は一考した。


「リン、この領都や周辺にすぐに来れそうなスライム達はいるかい? 」


「いる。すぐ呼ぶ? 」


「そうだね。すぐに着きそうな子だけでいいから呼んでくれるかい? 」


「わかった! 」


 俺はリンに頼んで、野良スライム達を呼ぶことにした。


 サーヤに頼んで、大森林のスライム達を転移させてもらおうかとも思ったが、今後のことを考えると、土地勘のある現地のスライム達の方がいいと思ったのだ。


 マグネの街をスライム達に巡回させているように、この領都もスライム達に巡回させれば、治安維持の助けになるはずだ。


 レベルは低いだろうが、リンに合体してもらえば、何とかなるだろう。


「それはいい考えね。でもどうせそうするなら、先に集めて仲間にしてから一緒に魔物を倒せば一気にレベルアップできたのにね……」


 ニアがそう言って、残念そうに額に手を当てた。


 なるほどそうか……ナイス! ニア!


 これから都市や街の魔物を倒す前に、その周辺のスライム達を集めてパーティーメンバーに入れてしまえばいいのだ。

 その後、魔物を倒せば一気にレベルが上がる。


 そうすれば合体しなくても、兵士並の強さのスライムがいっぱいになる。


 うん! その手で行こう!


 この領都に居るスライム達も最初の都市に連れて行って、レベルを上げてから領都に引き返させればいい。




 しばらくしてスライム達が集まってきた。


 五十六体集まった。


 元々近隣にいた野良スライムと、今回の襲撃で主人を失ってフリーになったテイムドだったスライム達が結構いた。


 もう少し待てば、もっと増えるかもしれないが、いつまでも待っているわけにいかないので、出発することにする。


 オリョウの爆走にスライム達がついて来れるとは思えないので、リンに頼んで合体して一つのスライムにしてもらった。


 その子を『家馬車』に乗せて、出発することにする。


 ちなみにオリョウの爆走でリリイとチャッピーがまた酔ってしまうので、サーヤに一旦戻ってもらって、二人をマグネの街に連れて帰ってもらった。


 また魔物の殲滅を始める時に、呼び戻せばいいだろう。


 場合によっては、また居残り組も呼んで一気に殲滅してもいいかもしれない。


 よし! 出発しよう!


 俺達が今まさに出発しようとしたその時———


 ———空から猛烈な勢いで何かが近づいてきた。






 

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