123.飛竜騎士は、公爵令嬢。
「あれは……飛竜ね、飛竜騎士だわ」
ニアがそう言って、俺の肩から空を見上げた。
丁度俺達の目の前に降りてくる。
確かに騎士が騎乗している。
飛竜はドラゴンとは違い、
翼竜のプテラノドンを小さくしたような感じでもある。
もっとも顔は普通にトカゲっぽいけどね。
飛行型の竜馬といったところだろうか……。
青く煌めく豪奢な鎧に身を包んでいるのは、女性のようだ。
鮮やかな金髪のロングヘアが風に揺れている。
かなりの美人さんだ。
マグネの街の衛兵の金髪美人こと、クレアさんと双璧をなしそうだ。
より怜悧な感じのクールビューティーだ。
ぼーっと見つめる俺達に、その女性騎士が近づきながら誰何してきた。
「怪しげな奴と思ったけど……妖精様が一緒なのね……まるで初代様のよう……あなたは誰かしら? 」
美人騎士がニヤリと笑う。
特に敵意は無いようだ。
「失礼いたしました。私はテイマーと商人をしておりますグリムと申します」
「なぜ……あなたは妖精様と一緒なの? 」
やはりニアに対しては、丁重な感じだ。
俺がどう答えようか考えていると……城の方から声がしてきた。
「シャリア? シャリアなの? 」
辺境伯夫人のアンナさんが走り寄ってくる。
「アンナ叔母様! 良かった! ご無事で……」
美人騎士さんが急に脱力し、安堵の表情を浮かべる。
どうやら夫人の知人だったようだ。
「シャリア姉様! 」
「シャリア姉さまー」
ソフィアちゃんとタリアちゃんもかけ寄り、ダイブするように抱きつく。
「ソフィア、タリア、よかった無事で……」
「「姉様ーー、うう、うわーーー」」
泣き出してしまった二人の頭を美人騎士が優しく撫でてあげている。
「アンナ叔母様、叔父様は……」
夫人が力なく首を横に振る。
「え……なんてこと……うう、う……」
「「うわーん…… 」」
美人騎士さんが二人を抱きしめたまま一緒に嗚咽している。
微妙に出発しづらい空気になり……
俺達はしばらく見守るしかなかった……。
少し落ち着いたところで、夫人が俺達を紹介してくれた。
「私は隣領のセイバーン公爵家長女シャリア=セイバーンと申します。この領土そして叔母達を救っていただき、ありがとうございます。ニア様、グリムさん」
美人騎士さんがそう挨拶してくれた。
なんと、公爵家の長女さんらしい。
いわゆる公爵令嬢というやつか……
リアル公爵令嬢キターって感じだね。
そんな高貴な方が、飛竜騎士とは……
しかも護衛も付けずに……
相当なお転婆令嬢の予感がする……
あまり関わらないようにした方がいいかもしれない……。
一応挨拶も終わり、なんとなく出発できそうなタイミングだったので……
「アンナ様、我々はそろそろ出発いたします」
そう言って出ようとしたのだが……
「この混乱の中、どちらにいかれるのですか? 」
美人騎士さんが、怪訝そうに訊いてきた。
「我々は、今から各都市や街を回って魔物を討伐して参ります」
「なんと! そ、それは本当ですか……この人数で…… 私も同行しましょう」
うーん、それはやばい……
「いえ、大丈夫です。是非アンナ様の側でお守りください。実はこの領都の守りが気がかりでした。シャリア様がいて下さるなら、安心して討伐に旅立てます。是非この領都の守りをお願い致します」
「……わかりました。ではそうしましょう。ただナンネの街は行かなくても大丈夫です。我がセイバーン公爵領軍がすぐ近くまで来ています。我々でナンネの街は解放します」
「わかりました。ではそちらはお願いします」
「シャリア、軍を出してくれたのですか? 」
夫人が驚きをあらわにしながら尋ねている。
「当然です叔母様。第一報が入ってすぐに組織しました。軍は、母様が率いています! 」
「え、ユーフェミア姉様自ら出陣してくださったのですか? 」
夫人が更に驚いている。
なんとなく……また出発のタイミングを逃した俺達は、少しだけ話を聞いた……。
隣のセイバーン公爵家の当主は、ユーフェミア=セイバーンという女公爵様らしい。
旦那さんと嫡男を同時に亡くし、まだ娘さん達も幼かったので、無理に婿を取る事はせず、自らが家督を継いだのだそうだ。
女性が家督を継ぐ事は、かなり珍しいことだそうだ。
ただ過去には、前例があったそうで、なんとか家督を継げたらしい。
文武両道の女傑のようだ。
その領主が、自ら軍を率いて救援に来ているとのことだ。
そういえば、アンナさんはセイバーン公爵家の令嬢だった。
亡くなった前公爵さんの妹らしい。
それで義理の姉である現女公爵を姉と慕っているのだそうだ。
そんな凄い人が、軍を率いて来てるなら安心だ。
今度こそ俺達は出発することにした。
◇
オリョウの全速力の凄まじい爆走のお陰で、予定通り半日位で『イシード市』の近くに着いた。
やはり街道沿いに村があるようだ。
俺達は最初の村で、野営することにした。
もうすっかり日が暮れていたのだ。
領都を出発した時間が、夕方近かったのだ。
オリョウが日が暮れてからも頑張ってくれて、ここまで来れた。
ただこれ以上無理してもしょうがないので、村が見えたところで止まってもらったのだ。
この村で休んで、明日の夜明けとともに出発すれば良いだろう。
夜のうちに、リンに頼んで、この近隣のスライム達を呼び寄せてもらった。
ちなみにこの村にも生存者は見当たらない。
いつものように、遺体をできるだけ集めて埋葬してあげた。
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