121.二十年前の、真実。

 しばらくして、兵士達が続々と報告に帰ってきている。


 もちろん報告といってもこの領都内の事だけで、他の都市についてはまだ時間がかかるだろう。


 辺境伯や将軍を含めた領軍の活躍で、なんとか住民の半数近くはこの城壁の中に逃げ込めたらしい。


 やはり領軍は一割にも満たない四十名弱しか生き残れなかったらしい。


 いかに激戦だったかが分かる。


 領都内にあった貴族の屋敷は全て破壊され、生存者もいないそうだ。


 どうも大きな屋敷から先に破壊していたらしい。


 あの白衣の男は、貴族を根絶やしにしたと言っていたが、本当なのかもしれない。


 少なくとも領都にいる貴族や地方都市に赴任している貴族の残っている家族は壊滅させられたようだ。


 まったく酷い話だ……。


 どれほどの恨みを貴族に抱いていたのだろうか……


 そういえば……あの白衣の男が、夫人と顔見知りなようなことを言っていたが……


 俺は夫人に訊いてみた。


 夫人によれば……


 あの白衣の男は、元々ピグシード辺境伯領の貴族の息子だったらしい。


 父親はマグネの街の以前の守護だったようだ。

 ジギルド男爵の嫡男でバインという名前らしい。


 それが、あの白衣の男なのだそうだ。


 悪魔崇拝や悪魔召喚や契約を研究し、秘密結社まで作っていたらしい。


 それを、前ピグシード辺境伯と嫡男だった現ピグシード辺境伯が暴き、捕らえたのだそうだ。


 悪魔崇拝や研究は、国法で禁じられており、それをする者は国家反逆罪として厳しく処断されるとの事だ。


 一族郎党皆死罪となるらしい。


 それで彼の一族はすべて処刑されたようだが、彼自身はどうやったのか逃げ出し消息不明となっていたようだ。


 ただ二十年も前の話であり、生きていて襲ってくるとは誰も想像もしていなかったとのことだ。


 夫人はその当時まだ十五歳で、南に隣接するセイバーン公爵領のなんと公爵令嬢だったらしい。


 時々この辺境伯領に遊びに来ていたらしい。

 その後夫となる若き日のピグシード辺境伯を、兄のように慕って何度も訪れていたようだ。


 そして、辺境伯の友人の一人に件のバイン=ジギルド氏がいたようだ。


 彼は、若き日の夫人に思いを寄せていたらしいのだが、夫人は全く相手にしていなかったらしい。


 そんな中、ある人物からジギルド家が嫡男を中心に悪魔の研究をしているという通報があり、捕縛という経緯になったらしい。


 話を聞く限り…… あの白衣の男の完全な逆恨みなのだが……。



 その話を聞いてサーヤが、おもむろに口を開いた。


「あなた……やっぱりあの時の子なのね……気が強いお転婆の……セイバーン公爵家のお嬢様」


「え…… なぜそれを……」


 夫人が突然のサーヤの発言にキョトンとしている。


「覚えてないわよね……あなたとは、ほとんど言葉も交わさなかったものね……」


「え……ま、まさか……そ、そういえば……あの馬車…………」


「思い出したようね」


「では……あの時、情報をもって来ていただいたマグネの街の方ですか、ピグシード家ゆかりの老婦人と一緒にいた……」


「そうよ……そのジギルド男爵家が悪魔の研究をしているという情報と証拠を持って来たのは私達」


 なんと!

 またびっくり話が飛び出した!


 サーヤの話によると……


 二十年程前、サーヤ達は、ひょんな事からジギルド男爵とその息子の悪巧みを知り、調べていたところ、なんと悪魔崇拝や悪魔の研究をしていることを知ったらしい。

 反逆の陰謀も巡らしていたとのことだ。


 そして、それを領主に訴える為に、高齢を押して旅に出たのだそうだ。

 そしてナーナは、ピグシード家ゆかりの老婦人と言われていたが、なんと、その当時の四代前に当たる辺境伯の七女だったようだ。

 若い頃に出奔して平民として暮らしていたらしい。


 実はその旅の途中で、ネコルさんを助け、一度マグネの街に戻り孤児院に預け、再度急いで領都に向かったのだそうだ。


 この件がなければ、おそらく幼いネコルさんを引き取っていただろうが、この件でどうしても領都にいかなければならず、危険に巻き込めないので泣く泣く孤児院に預けたということだった。


 その後、二人は無事に領都に辿り着き、何とか領主に会うことに成功し、直接証拠を提示することができたらしい。


 ただ普通、一般人が領主に直接会うことなど不可能である。

 それを見越して血縁者であるナーナが来たわけだが、すでに何代も前の血縁であり、面会は困難だったようだ。

 そんな時、たまたま出くわした若き日のピグシード辺境伯や夫人と出会い、その伝で面会に成功したらしい。


 夫人はその時のことを思い出し、今度はサーヤにも深々と頭を下げた。


「あの時の事は覚えております。主人がいつも申しておりました。この領を救っていただいたと。

 もし事前に手を打てず、本当に領内の貴族が悪魔召喚などしてしまったら、辺境伯家も取り潰されていたかもしれません。

 まさか初代様の大恩人の直系のニア様と、二十年前にこの領を救っていただいた大恩あるあなた様にまた救っていただくとは……まさに神の導き、神の救い、奇跡です! そして主人が……あの人が導き守ってくれているのかもしれません……あなた……」


 夫人が涙を流す……

 今までこられていた涙が止めどなく流れ続けている……


 サーヤがそっと抱きしめてあげている。


 サーヤは自分も妖精族『シルキー』である事を告げ、見た目が変わらない理由を教えてあげていた。


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