116.ヤケクソの、買い占め。
俺達は、オリ村の広場に作った衛兵の仮設詰所に案内される。
中では、衛兵長が、街の代官と話し合いをしていた。
丁度この避難民達をどこに受け入れるか、検討しているようだ。
何故か俺とニアもその打ち合わせに参加することになった。
———大きな問題は二つ
一つは避難民を受け入れる場所。
もう一つは食料の問題である。
本当はもう一つ、怪我の治療の問題があったのだが、これは俺達でほぼ解決済みだ。
まず食料の問題は、この前のストックが多少残っているのが、いずれ足りなくなるということだった。
これには、俺が大量に捕縛してしまった盗賊達も影響しているらしい。
何せ二回分合わせて、三百人以上いるのだ。
食料だけで相当必要になってしまう。
我ながら微妙なタイミングで盗賊退治してしまった……
食料問題なんて全く考えてもいなかったのだ。
俺が盗賊達のアジトから没収した食料を全て出そうかとも思ったのだが……
それほどの量はなかったので、むしろ魔物を狩って食料にするという事を提案した。
もちろん担当するのは俺達だ。
俺達が近隣から魔物を狩ってきて、捕まえた盗賊達や避難民達の食料を確保するという役割を担うと申し出たのだ。
仮に近隣に適当な魔物がいなかったとしても、俺の『波動収納』には多くの魔物の死体がある。
いつでも食べ放題状態だ。
魔物を狩ってきたことにして、それを出せば安定提供できる。
これで問題は一つ解決した。
代官は驚いていたが、衛兵長は深々と感謝していた。
受け入れる場所の問題は、街の中の空いてるスペースに仮設の家を建てればいいんじゃないかと提案したのだが……
守護が不在で、その意思決定はできないらしい。
代官の行える仕事の範囲は、守護の指示で決まっているらしい。
通常業務はほぼ丸投げで代官が行っていたが、その他の意思決定は守護がする決まりになっていたそうだ。
その守護がいないから動けないというわけだ。
そんなお役所仕事をしてる場合じゃないのに……文句を言いたかったが……
勝手なことをして、もし罪に問われるようなことになれば、命に関わるらしい。
それを聞くと、無下に文句を言うこともできなかった。
ただ俺としては全くもどかしい。
ほんとにそんなお役所仕事してる場合じゃないのである。
災害被害にあった人は、災害被害自体ですごく傷ついてるのに、その後の生活環境などをケアができないともっと大変なことになる。
二次災害といえるような心身の病気を発生したりするのだ。
俺は、ムシャクシャしながらいろいろ考えた……半分やけくそだが……いいことを思いついた!
この前、トルコーネさんの宿屋やサーヤの敷地を追加で購入した時に、役所や商業ギルドの人に他にも色々お勧め物件を紹介されたり、買い手がつかない場所を勧められたりした。
その中に、サーヤが安く買った敷地と同じような壁沿いの土地があった。
そこは、ほとんど陽が当たらず、誰も買おうとしない土地だった。
一応街の所有となっている土地で、かなりの面積があったはずだ。
特に南門から北門側の東西に延びる壁に向かって始まるアーチ状の半円形をなす壁の内側の土地だ。
真昼の時間帯しか陽が当たらないような場所で、全く買い手がつかない場所だったはずだ。
あそこなら安く買えるはずだ。
俺は、その土地を全部買ってしまうことにした。
そうすれば、俺の土地に何を建てようが俺の自由だし、そこに誰を住まわせようが俺の自由なはずだ。
つまり人気が無い安い土地を大量に買って、仮設住宅をいっぱい作って、そこで受け入れるという作戦だ。
俺のこんな申し出に、代官さんも衛兵長も驚いていたが、もし本当にそれをするなら、誰も文句のつけようがないとの事だった。
そしてその土地は、この街の管理地なので、代官さんの権限で格安にしてくれると申し出てくれた。
ということで、俺は避難民の為に土地を買い占めることにした。
マグネの街は北の関所のところに東西に延びるまっすぐな壁がある。
南門のところから左右にアーチ状に壁が伸びていき、上空から見ると街の形は半円形の外壁に囲まれている形になる。
そのアーチ状の外壁の内側のエリアを全域購入することにした。
ただ一部は南門の衛兵詰所と衛兵の訓練場所として使われているスペースがあるので、それ以外のところを全てという形になった。
面積としては、この前サーヤの敷地として追加購入した二万五千平方メートル(2.5ヘクタール)の二十倍以上になる。
価格は、五千万ゴルにしてもらった。
この前購入した土地と同様に考えると、一億ゴルしてもおかしくは無いのだが、格安にしてくれたようだ。
衛兵長は、どうせ何の使い道もない土地なんだから、もっと安くしろと文句を言ってくれていたが、まぁいいだろう。
何とかこの前の盗賊退治でもらった代金で収まったし。
元々あのお金は、この街の為に還元しようと思っていたからね。
俺達は早速購入手続きを済ませることにした。
その為に一度マグネの街に戻った。
◇
手続きが終わって、代金を払おうと思ったのだが……
まだ貰っていない二回目の盗賊退治の報奨金七千八百四十万ゴルから相殺ということになった。
逆に差額の二千八百四十万ゴルを貰ってしまった。
これは代官さんの粋な計らいというやつだろう。
こんな時にお金を出してしまって大丈夫なのだろうか……
「いえ、これはしっかりとした規定に則ったものですから大丈夫です。
それにグリムさんが土地を購入してくれたお陰で、実質の出費はかなり減りましたので全く問題ありません。
せめてもの気持ちです。お受け取り下さい。仮設住宅を建てていただけるというお話ですし、その資金にあててください」
代官さんはそう言って、遠慮しないで受け取るように頼んできた。
まぁ仮設住宅の建築といっても、ほとんどお金はかからないのだが……。
普通はかなりのお金がかかるはずだからね。
ありがたく頂戴することにした。
◇
翌早朝、俺達は仮設住宅の建設を始めていた。
まずレントンの種族固有スキル『
端の草だけ背丈を長くして、目隠し用の壁を作ったのだ。
おおっぴらにすると、すごい騒ぎになりそうだったからだ。
レントンにログハウス作りを頼む。
一つの家のサイズは2LDKにした。
一家族という想定だ。
これを百軒位設置する予定だ。
イメージは仮設のプレハブ住宅のような感じだが、ログハウスなのですごくかっこいい。
今回の避難民に対しては十分な数だろう。
これだけ設置しても、まだ購入した敷地の半分以上開いている状態だ。
隣との距離も、ある程度余裕をみて設置している。
これなら、しばらく快適に暮らせるんじゃないだろうか。
トイレもすべてサーヤに設置してもらった。
さすがにレントンもサーヤも途中で魔力が切れていたが、『マナ・ハキリアント』謹製の『魔力回復薬』を飲んで連続してやってくれた。
明け方から始めて、数時間で終わった。
まだ朝の時間帯のうちに完成してしまったのだ。
完成後に目隠しにしていた草を刈り落として、ログハウス型の仮設住宅が現れたときには、近隣の住民達がビックリしていた。
そして噂を聞きつけて、住民がどんどん見物に集まりだした。
今回の仮設住宅建設は、かなり目立ってしまう荒業だったが、そんなことは言ってられないので自重しなかった。
ここはニアさんの、“妖精女神の御業”ということで誤魔化すことにしよう。
避難民の受け入れは、あくまでこの街の役所や衛兵隊主導でやるべきなので、俺は善意の協力者としてこの仮設住宅を無償で提供する形にした。
したがって、避難民の受け入れ誘導等は、衛兵隊を中心にやってもらうことにした。
もちろん俺達も、手伝える事は手伝うつもりだ。
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