117.いざ、領都へ。
俺達は、再びオリ村に来ていた。
衛兵長に仮設住宅の建設の件を伝え、避難民の速やかな誘導を依頼する。
建設のあまりの早業に、さすがの衛兵長も驚いていたが、“妖精女神の御業”で誤魔化した。
そして俺は、食料の調達についても打ち合わせをする。
これから毎日俺もしくは俺の仲間が、大通りに面した広場に狩った魔物を置いておくことにした。
その後の解体等の処理は衛兵隊に任せるということで話をまとめた。
衛兵長の話では避難してきた領都の人達から、被害の状況が詳しくわかってきたとのことだ。
最初は外壁に守られ、魔物が押し寄せても領軍が対応して耐えていたようだ。
だが突然内部に悪魔が現れ、領軍が壊滅的な被害を受け、内側から外門が開けられてしまったのだそうだ。
それで魔物が領都内になだれ込んだらしい。
領城に近い方の住民達は、領軍の誘導で城壁に囲まれた領城の敷地内に逃げ込めたそうだが、距離的に遠かった住民は外に逃げざるを得なかったようだ。
魔物をかいくぐって逃げてきたそうだ。
この話からすれば、まだ領城の城壁内で悪魔や魔物の侵攻に耐えているかもしれない。
ただ悪魔がいたとなると、かなり分が悪いはずだ。
俺はこの話を受けて仲間達と相談した。
「もし悪魔が攻めたのだとしたら、かなり厳しい状況じゃないかと思う。もし耐えていたとしても、早めに救援がなければ長くは持たないだろう。領都に助けに行こうと思う」
「もちろんよ。そう来なくっちゃ! 早速いきましょう!」
ニアはすぐにでも出発したいようだ。
他のみんなも同様に首肯している。
「ただ、このマグネの街のことも気にかかるんだよね。避難してきた人達のフォローもあるし、もしかしたらこれからも避難民が来るかもしれない」
「確かにそうですね……。当分混乱が続くかもしれませんね……」
サーヤが顎に手を当てながら頷く。
「そこで、チームを二つに分けようと思う。
サーヤ、ミルキー、レントン、フウは、元々残る予定だったアッキー達と一緒にこの町に残ってもらいたい。衛兵隊の人達を助けてあげてほしいんだ。
今後、レントンの力が必要となる局面が来るかもしれない。
フウには、この町に危険が及ばないように上空から警戒をしっかりやってほしいんだ。
いつでもサーヤの転移で合流できるから、この街を頼みたい。
残りのメンバーは俺と一緒に領都に向かう」
みんな納得して、首肯してくれた。
自分の役割を全うしようとしてくれている。
なんといっても、サーヤの転移でいつでも合流できるというのは大きいよね。
俺と居残りメンバーは、一旦サーヤの転移で家まで戻ってきた。
そして、『波動収納』に大量にある盗賊達から没収した馬車の中から、一台を出した。
サーヤ達の移動にも馬車が必要だろうからね。
程度の良い大きめの馬車を選んだ。
これを『家馬車』二号にしてもいいかもしれない。
まぁサーヤに任せよう。
きっと魔改造するに違いない。
あと、馬車を引く者が必要になるので、フォウにも残ってもらうことにした。
本来オリョウもフォウも一頭で十分『家馬車』が引けるのだが、一般的には一頭で引いているのは異常なようなので、カムフラージュで二頭で引いてもらっていたのだ。
その気になれば、霊域にいくらでも荷引き動物はいるのだが……
今更普通を装ってもしょうがない気もしてきて、フォウを残すことにしたのだ。
この程度の不自然さは……もうありなような気がしてきてる。
そして俺はサーヤの転移ですぐに『家馬車』に引き返した。
俺は衛兵長に、領都の様子を伺ってくると伝えた。
そしてサーヤ達を残すので、困った事があればサーヤに言ってほしいと伝えた。
サーヤ達は食料の調達を担当し、仮設住宅の受け入れも手伝うということになった。
◇
打ち合わせも終わり、俺達は早速領都に向かって出発した。
領都までは普通に行けば三日位かかるようだが、俺達は爆走した。
といっても、爆走したのはオリョウだが。
人とすれ違うまでは、オリョウに全力疾走を許したのだ。
普通ならそんなことをすれば、馬車が壊れかねない。
だが、この『家馬車』はナーナ自身であり、ナーナの種族固有スキル『
ただ衝撃吸収性能を良くしないと、中の人間が酔ってしまう……
というか酔っていた……。
リリイとチャッピーが絶賛ダウン中だ。
ニア、リン、シチミ、トーラ、タトルは平気なようだ。
俺も元の世界では、かなり乗り物酔いする方だったが、今の異常なステータスのお陰で何とか大丈夫なようだ。
でも若干気持ち悪い……
一応サーヤの発案で、馬車の車輪にはこの前大量にもらった“蛇魔物の皮”を巻きつけてある。
何重にも巻きつけたので、ゴムタイヤのような感じになっているのだ。
以前よりは、格段に衝撃吸収性能が上がっているが、いかんせんオリョウが全力で爆走しているからね。
本人はノリノリは絶好調なのだが……。
俺は念話でサーヤを呼んで、リリイとチャッピーを家に連れ帰ってもらった。
このまま乗せておくのは可哀想だからね。
着いた時に呼んであげればいいだろう。
本当は俺も戻りたかったのだが……
もし突然、誰かと遭遇したら人間が一人もいないのはまずいと思ったのだ。
……ただいま絶賛乗り物酔いと格闘中だ…… 。
◇
しばらくすると、辺りはすっかり暗くなってきた。
いくらオリョウの爆走でも、三日の道のりを半日ちょっとでは着かなかった。
丁度領都に属する最初の村らしき場所があったので、そこで野宿することにした。
村は壊滅状態だった。
村人らしき者達の遺体がいくつもあった。
リリイとチャッピーを家に戻したのは、正解だったかもしれない。
俺も途中から気持ち悪くなって、ダウンしてしまった。
それでも俺達は手分けして、遺体を集め穴を掘って埋葬した。
この感じでは、まだ近くに魔物がいるかもしれない。
俺は『波動検知』で魔物の気配を探す———
やはり周囲には、結構な数の魔物がいるようだ。
これは狩っておかないと、安心して休むことができそうにない。
俺達は手分けして周辺の魔物を狩った。
丁度良いので、この魔物達はマグネの街の避難民達の食料にしようと思う。
俺は念話でサーヤを呼んでマグネの街に戻り、広場まで行って魔物の死体を取り出した。
結構多めに出したが、避難民で人手はあるから、みんなで解体すればいいだろう。
余った肉は、また干し肉にすれば当分しのげるはずだ。
避難民の人達も全くやることがないよりは、何かやってた方が気が紛れるだろうし。
そう思って結構多めに出した。
明日、衛兵長がびっくりするだろうが、そこはサーヤにうまく対応してもらう。
そして俺はすぐに『家馬車』に戻った。
◇
翌日も朝から飛ばし、オリョウの爆走のおかげで、昼過ぎには領都近くまで来ていた。
これまでに、避難民の集団と昨日、今日で三つ遭遇した。
ニアを中心に怪我人の回復を行い、俺の『波動収納』にしまってある『マナウンシュウ』を配った。
『マナウンシュウ』は、在庫がなくなりそうだったので、ケニーに頼んで集めてもらったのを補充していたのだ。
一緒に、『マナ・ハキリアント』達謹製の各種回復薬も補充してある。
サーヤの転移で朝一で取りに行ったのだ。
避難民は、おそらく三つの集団を合わせると、また二百人近くなるのではないだろうか……。
俺達はマグネの街を案内したわけだが……
人口五百人の街に、避難民が四百人というのは………
まぁ何とかなるだろう……。
おそらく仮設住宅は俺が買い占めた土地で十分に建つと思うが。
やはりレントンとサーヤを残して正解だったようだ。
昨夜の宿にした村を除いても、ここまで村が五つあった。
一応生存者がいないか確認したのだが……
残念ながら生存者はいなかった。
衛兵長の予想通り、村は壊滅状態のようだ。
もしくは何割かでも、逃げ延びていてくれれば良いのだが……。
生き残りの人がいたとしたら、すれ違った避難民の集団の中にいたのかもしれない。
そう祈りたい。
領都の壁門が完全に開いている。
俺は『波動検知』で魔物の気配を探る———
………かなりの数だ。
魔物が領都内を跋扈している。
これは急いだ方が良さそうだ。
怪我人も大勢いそうだ。
これは…… 全員フル出動だな。
俺はサーヤに念話をつなぎ、全員でこの『家馬車』に転移してくるように伝えた。
しばらく待っていると全員が到着した。
全員で魔物討伐に当たる。
領都はかなり広いので、チーム分けをすることにした。
第一チームが俺とリリイ、チャッピー、トーラ
第二チームがニア、フウ、レントン、オリョウ
第三チームがリン、サーヤ、ミルキー、アッキー、ユッキー
第四チームがシチミ、ナーナ、フォウ、タトル、ワッキー
俺は『マナ・ハキリアント』謹製の各種回復薬をみんなに配分した。
第二チームには収納系スキルを持つ者がいないので、オリョウに魔法のカバンを持たせた。
俺達は随時念話で連絡を取り合い、街の中央にある城壁の正門前で落ち合うことにした。
後はいつものごとく臨機応変だ!
よし! ミッションスタートだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます