97.救出の、猫耳っ子奴隷。
もうすっかり夜が明けて明るくなってきた。
今回の戦利品で、一番俺の心を躍らせたのは米なわけだが、他にもゆっくり見たら掘り出し物があるかもしれない。
そういえば、以前盗賊のアジトを潰した時の回収品も、ゆっくり見ていなかった。
もしかしたら、そこにも掘り出し物があるかもしれない……。
まぁそれはいつでもできるから、後の楽しみにとっといて、今はやることをやろう。
ちなみに、今回の回収した金貨等は前回の盗賊アジト壊滅時に比べれば大分少ない。
まぁ普通はこんなもんなのだろう。
前回は関所を襲撃する依頼を受けた代金が入っていたからね。
盗賊が貯蓄なんかするわけないしね……。
今回保護した動物達は、一旦フラニーの転移で霊域に送った。
先輩の馬達が、面倒みてくれるだろう。もちろんカチョウや霊獣達も。
そして盗賊達だが、フラニーの転移を使って、マグネの街の関所近くの林に移した。
反対側の国の関所の方が近かったが、行ったことがないので、なじみのあるマグネの街の関所にしたのだ。
まだ門が開いてないようなので、今のうちに関所から見える場所に盗賊達を動かし、縛ったまま纏めて置いておいた。
一応匿名で、『街道を荒らす盗賊を捕まえた』とだけ書いた木札を立てておいた。
すごい数の盗賊にびっくりするだろうが、頑張ってもらうしかない……。
見た感じ、捕まってるような風貌の人はいなかったので、全員盗賊で間違いないと思うが、細かくは衛兵達が吟味してくれるだろう。
衛兵達は、まだ誰も気づいていないと思うが、念の為『聴力強化』スキルを使って探ってみる。
やはりまだ誰も気づいていないようだ……。
いずれ気づくだろうから……今のうちに引き上げるとしよう。
そう思っていると……強化された聴覚が……かすかに人の争うような声を拾った。
何となく嫌な予感がして、皆に話して声の方に様子を探りに行くことにした。
近づいてみると、馬車が止まっている。
野営をしていたようだ。
出立するところのようだが、中年の男が小さな子供と言い合いをしている。
「うるさいガキめ! いい加減どっかに行け! ほんとに斬るぞ! 」
「黙れなのだ! その子をいじめちゃだめなのだ! いじめは許さないのだ! 」
「だから何を言ってる! こいつは奴隷なんだ! どうしようと俺の勝手だ! お前がこいつを買い受けると言うなら話は別だが、金など持っていないだろう。とっとと消えろ! 」
「お、お金は……ないのだ。でもその子は泣いてるのだ、いじめちゃだめなのだ! 」
「うるさい! 付き合ってられぬわ、お前も奴隷にしてしまうぞ! おお、それがいいなぁ! こんなところに一人でいるって事は、どうせ孤児だろう? 」
「い、痛い、や、やめろ! 離せなのだ! 」
おっと、これはやばい!
俺達は飛び出していたーーー
「すいません、子供相手に何をしてるんですか? 」
俺は、湧き上がる怒りを必死で抑えて……冷静な口調で子供を掴んでいる男の手を掴み上げる。
「い、痛てて、な、なんだ、お前ら! どこから出てきた? 」
「私達は旅の者です。近くで野営していたんですが、争う声が聞こえたんでね」
そう言いながら、掴んだ男の手を放り出すように離してやる。
握り潰してしまいそうだったからだ。
怒りを抑えるのが大変だ……。
「お前には関係のないことだ! さっさとどっかに行け! 」
コノヤロウ……
ダメだ……冷静に……冷静に……
周りを見ると、襲いかかりそうなニアとオリョウを、リン、シチミ、フウで止めているようだ。
人前だから、念話でやり取りしてるようだ。
仲間達の様子を見たら、少し落ち着いた。
「確かに関係ないですけど、小さな子供に乱暴は感心しませんね……」
「助けてなのだ! こいつは悪い奴なのだ! 小さな子をいじめてたのだ! ぶってたのだ! 困ってる子は助けてあげなきゃだめなのだ! 婆ちゃんが言っていたのだ」
俺はこの子の前に庇うように立つ。
ニア達が、守る様に集まる。
「なんで、もめたのか教えてもらえませんか? 」
「そいつが突然出てきて文句を言ってきただけだ。俺は奴隷にしつけをしていただけだ。奴隷に何をしようと俺の勝手だ! 」
コイツ……反吐がでる!
馬車の奥には鎖に繋がれた猫耳の小さな女の子がいる。
ひどく怯えている。
「あなたは奴隷商人なのですか? 」
「あーそうだ。だがお前にとやかく言われる筋合いは無い!」
「奴隷商人という割には一人しか連れていないのですね。奴隷をいっぱい買おうと思ってたのに残念だなぁ」
もちろん、奴隷を買う気など無いが、敢えてそう言った。
「なーに……これは特別な奴隷……高く売れるんで特別に売りに来たのさ。マグネの街でね」
イヤミなにやけ顔をしながら、余裕たっぷりに答えてきた。
こいつ……ほんとに殴りたい……。
「その奴隷、私に売ってもらうわけにはいきませんか? 」
「馬鹿なこと言うな! やっと見つけた猫耳の子供だぞ。この先のマグネの街の守護はなぁ、変わった趣味をしてるらしくてなぁ…… クククク……きっと高く買ってくれるだろうよ……ヒッヒッ……」
全く話にならないとばかりに、両手を挙げて立ち去ろうとする……
ほんと……コノヤロウ……
あの守護に売り付けるつもりだったのか……
確かにあいつなら喜んで買っただろうが……
「それは残念でしたねぇ……私はマグネの街から来ましたが、先日悪魔に襲われて、守護の方は亡くなりましたよ。もう買ってくれる人はいませんね……」
努めて冷静に言うように心がけた。
「な、何…… そ、それは本当か? 」
男は慌てて振り向きながら訊いてきた。
「もちろん本当ですよ。関所に行けばすぐわかることですよ。大変な騒ぎだったんですから」
「む……」
「さてどうします? 売先が無くなったようですが、私なら高く買ってもいいですけどね」
「ふんっ、お前のような若造に出せるものか! 」
「守護様にいくらでも売るつもりだったんですか? 」
「百万ゴルだ! お前などに出せる額ではないわ」
「それはずいぶん高いですね」
そう言いながら俺は、百万ゴルつまり金貨百枚を 出した。
カバン状態のシチミから取り出すふりをしながら、『波動収納』から取り出したのだ。
クソ男……いや……奴隷商人が驚いている。
「さぁどうします? 今なら売れますけど、このまま関所に行って私の話が本当だったら、百万ゴルも出す人が他にいますかね……? 」
ここぞとばかりに、奴隷商人に詰め寄る。
契約でいえば、いわゆるクロージングだ。
今ここで決めなければ、もうこの話はないと即決を迫る手法だ。
営業マン時代の経験が少し活きたようだ。
「し、しょうがない。売ってやるか……」
奴隷商人が、渋々という体で了承する。
さすがに損得勘定は早いようだ。
おそらく百万ゴルというのも、十分ふっかけた値段なのだろう。
守護が生きていたとしても、そこまで出すかわからなかったはずだからね。
こいつの言い値で払うのは、少し癪に触るが、そんな事はどうでも良い。
この子を助けることの方が大事なのだ。
それに、これ以上こんな胸くそ悪い奴と関わってのも嫌だし……。
こうして俺は、猫耳の子を助けるために、買い取ることにした。
ただ、この子は『奴隷紋』を刻まれて奴隷になっているので、買取を確実にする為には『奴隷契約』の魔法で、俺にこの子を拘束するしかないようだ。
まぁ後でサーヤとかに相談すれば、奴隷契約を解除する方法もあるだろう。
そう思い、俺は奴隷契約に応じこの子を奴隷とした。
奴隷商の男は、俺と猫耳娘に『奴隷契約』の魔法をかけると、代金を受け取りさっさと行ってしまった。
そのままマグネの街に向かうつもりのようだ。
あんな人間がいるとまた被害を受ける者が出そうだが……好き勝手に殺すわけにもいかないし……
……どうすることもできない。
……あんな奴のことを考えるのはよそう。
俺は、猫耳の女の子に挨拶しようと近づいた……
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