98.俺、号泣。
俺がしゃがんで猫耳の女の子に挨拶しようとすると、怯えるように後ずさった。
「大丈夫だよ。おはよう、俺はグリム。君のことを助けるために契約しただけだから、すぐ自由にしてあげるからね。もう大丈夫だよ」
「は、はい、あ、ありがとうなの……です。私、一生懸命働きます」
「大丈夫だよ。君を奴隷として買ったわけじゃないんだ、自由に生きていいんだよ。家族はいないのかい? 」
「私、一人、村のみんな死んじゃった……殺された……悪魔が襲ってきた……う、うわーーんーー」
猫耳の子が泣き出してしまった……
俺は思わずこの子を抱きしめた。
しばらく落ち着かせるために、そのまま抱きしめ頭を撫でてあげた。
この子を助けようとしていた金髪の女の子も泣いている。
俺はその子も一緒に抱きしめてあげた。
すると女の子は更にわんわん泣き出してしまった。
しばらくして落ち着いてきたので、まずは猫耳の子からもう一度話を聞く。
名前はチャッピーで、年齢は八歳。
明るい茶髪に猫耳と猫しっぽがついた亜人だ。
服装はワンピースのようなものを着ているが汚れている。
『アルテミナ公国』にある小さな村に住んでいたらしい。
亜人が多い村だったようだ。
突然、悪魔に襲われて村は全滅したらしい。
この子は 一人で森で遊んでいて無事だったようだ。
必死で逃げて行き倒れていたところを、奴隷商人につかまってしまったとのことだ。
あの奴隷商人は悪徳らしく、孤児などを捕まえては売りさばいているらしい。
この子が今まで無事でいたのは、珍しい物好きのマグネの街の守護に売るために取ってあったからのようだ。
どこにも身寄りがなく、帰る場所もないのだ……この子は……。
俺には、この子を投げ出すことなんて当然できない。
この子の面倒を見ることに決めた。
もちろん奴隷としてではない、仲間、家族としてだ。
「もう大丈夫だよ。俺と一緒に行こう。仲間がいっぱいいるから、楽しいよ」
「えー……いいの……あたし頑張って働くなの……」
「奴隷じゃないんだから、無理に働かなくてもいいんだよ。いずれ奴隷契約を解除してあげるからね。友達として一緒にいて、友達としてできることをすればいいんだよ……いいね……」
「うん……はい、わかったなの……わかりましたなの……です」
「よし、じゃぁよろしくね。それから言葉遣いは普段通りでいいよ」
「う、うん。わかったなの」
やっと猫耳の少女は微笑んでくれた。
そして俺はチャッピーを助けようと頑張っていた金髪の女の子と話をする。
「俺はグリム、君はどうしてこの子を助けようとしてたんだい? 」
「この子ぶたれてた。悪い大人やっつける。困ってる人は助けなさいって婆ちゃんが言ってた」
「そう、えらいね。ちっちゃいのに。勇気があるね。それにしても一人なのかい? 家族が近くにいるの? 」
「家族いない……婆ちゃん……この前……死んじゃった……わ、わた、私一人……ぐ、ぐわーーんわーー」
また泣き出してしまった。嗚咽している。
俺はまた抱きしめて頭を撫でてやる。
しばらくそのまま泣かせてあげる。
落ち着いて話せるようになるのを待って話を聞いた。
この子はミルキー達のように、この不可侵領域にお婆さんと二人でひっそり暮らしていたようだ。
最近、 一週間位前らしいが、おばあさんが突然なくなってしまったとのことだ。
一人でお婆さんを弔って、その後一人で狩りをして暮らしていたようだ。
こんな小さいのに……
どんなに心細かったろう……
さっきの猫耳の子の時もそうだが、この子の話を聞いて泣かずにはいられなかった……。
いくら体が若返っても、心は涙もろくなってしまったおじさんのままなのだ………
俺は号泣しながら、この子達を抱きしめた。
二人もまた泣いてしまった。
折角落ち着いていたのに、俺のせいでまた泣いてしまったのだ……。
それでも俺はこの子達を抱きしめずにはいられなかった……。
この子の名前はリリイという。
歳は、この子も八歳だった。
人族の子できれいな金髪をショートカット、ボブカットのようにしている。
服装は、手作りの革鎧のようなものをつけて、弓と短剣を持っていた。
見ようによっては、小さな駆け出し冒険者のように見える勇ましい格好だ。
こんなに小さいのに、お婆さんの教え通りに、いじめられている子を助けに入るなんて……そう思うと……俺はまた涙が込み上げてきてしまった。
声を抑えて涙を流していると……ニアにあきれ気味に慰められてしまった……
そんなニアも泣いていたわけだが……。
リンとシチミは固まっている。
フウは目をクリクリさせながら、首をぐるりぐるりと振っている。
何となく目が涙で滲んでいる気がする。
オリョウは……号泣している。
ワンワン泣いてる。嗚咽しちゃってる。
「あちしが絶対守る!」
と宣言しながら泣きまくっている。
やっぱり熱いやつだ。
完全に言葉話しちゃってるけどね……。
「リリイ、俺達と一緒に行かないかい? 仲間がいっぱいで楽しいよ」
「うん、一緒に行くのだ。婆ちゃんも喜ぶのだ」
「よし、じゃあ行こう」
俺はこの二人の女の子を一緒に連れて行くことにした。
身寄りもないこんな小さな子達をほっとけるわけがない。
これも何かの縁だと思うし、俺が保護者となってこの子達を守ろうと誓ってしまったのだ。
当然、ニア達も大賛成だ。
というわけで、みんなで大森林に帰ろうと思ったが、リリイの家がこの近くにあるそうなので、みんなで向かうことにした。
色々持ってく物もあるだろうし。
リリイの案内でしばらく行くと、林と林の間の開けたところに、小さな家が立っていた。
ミルキー達の家もそうだったが、街道からそれなりに離れているし、普通は誰にも気づかれないだろう。
家の前に小さな畑があった。
リリイの話では、お婆さんと一緒に畑で野菜を作ったり、狩りをしたり、木の実を集めたりして暮らしていたようだ。
時々お婆さんの知り合いが訪ねてきて、色々な物を持ってきてくれたそうだ。
でも来るのは一年に一度来るかどうかということで、リリイは連絡先も何も知らないらしい。
リリイが教えてくれたお婆さんのお墓の前で、俺達は手を合わせる。
この墓を八歳のこの子が一人で作ったのかと思うと、また涙が出てきた。
弱くなってるおじさんの涙腺はすぐに崩壊してしまうのだ……。
どれだけ心細かったろう……そう思うだけで……涙が……
俺は墓に誓った。
この子を絶対守る。
「俺に任せてください」そうお婆さんの墓に誓った。
リリイが持っていきたいと言う物は全て『波動収納』にしまってあげた。
もちろんリリイ専用のフォルダを作ってしまった。
リリイもチャッピーも最初驚いていたが、特別なスキルだよと教えてあげた。
小さな家ではあるが、しっかりとした良い家だ。
山小屋みたいな感じの家だけど。
なんとなくこの家を廃れさせるのはもったいない気がする……
小さいけど畑もあるし……
何よりリリイの育った場所だ……
思い入れもあるだろう……。
戻ってサーヤに相談して、『管理物件』に登録してもらってもいいかもしれない。
そしたらリリイが帰りたい時にいつでも帰れるし……。
畑の手入れもやろうと思えばできるしね。
もちろん墓参りも。
あと普段は、スライム達を何体かここに配置して守らせてもいいかもしれない。
リリイに誘われて近くの木の実が取れるエリアなどを案内してもらった。
結構色々な物が取れる良い場所なのだということがよくわかった。
そしてリリイの話では、時々乳を絞らせてくれる野生のヤクの友達がいるらしい。
本当はその友達に挨拶したいと言われたのだが……
リリイが呼んでも出てこない。
近くにはいないらしい。
諦めて行こうとしたところ………
遠くから「ブーブー」という低い唸り声のような鳴き声が聞こえてきた……
しばらくすると、本当にヤクが現れた。
大きい……見た目は普通に牛に見える。
大きな角で体長も二メートル以上ある
牛の仲間だったはずだが、俺が元いた世界では、寒い気候のところに生息していたはずだ。
この世界では暖かい場所でも生息しているらしい。
……あんな長毛で暑くないのだろうか……。
巨大角、巨体のオスに率いられた群れだ。
リリイは群全体と友達らしい。
リリイはヤク達にしばらく留守にすると話しかけていた。
言葉が通じるのだろうか……
なんとなく……いや完全に通じてるっぽい……。
しかし、このヤク達よくこんな魔物も出るような場所で生き抜いていたものだ。
ヤクのボスがゆっくり俺に近づいてくる……
何かを確かめるような仕草をしながら近づいてくる……なんだろう……
何かつぶらな瞳で見つめている……
もしやこれは……
仲間になりたそうに見つめている……という感じなのだろうか……まさかね……
「君達、もしかして仲間になりたいのかい? 」
何となく訊いてしまった……。
するとヤク達は、一斉に二回ジャンプした……
二回ジャンプ……これはもしや……リンとシチミの例からすると……二回は肯定の意味だろう……
俺は『絆登録』の『絆リスト』の『
やっぱり……俺の『
二十六頭いる。
わーこのパターンかぁ……
どうしようかなぁ……
『
話してみよう……
(君達、仲間になってくれてありがとう。俺はグリム、よろしくね)
(これからよろしくお願いします。ご主人様)
ボスが代表して挨拶してくれた。
(しかし、どうして仲間になってくれたんだい? 今までだって自分達でやってこれたのに…… )
(そうです。でもリリイを保護してくれました。一人になったリリイのことを心配してました。私達はリリイもケリイも大好きでした。リリイがいい人だと言った。そして強い方だと分かったからです)
ケリイとは、おそらくお婆さんの事だろう。
とてもいい関係だったようだ。
(そうか……なるほどね。で、君達はどうする? このままここにいてもいいし、俺達の仲間がいる大森林や霊域に移住することもできるよ。どっちも襲ってくる者はいないから安全だと思うけど)
(そうですね……私達はここでも暮らしていけますが……安全な場所というのも魅力があります。ご主人様の指示に従います)
(そうか、わかった。じゃあ、ここに居たいという希望がないなら、安全な霊域に居てくれた方が俺も安心だ。一緒に行こう)
(はい、わかりました。お供いたします)
(他に仲間はいないのかい? ここにいるだけで全部かい? )
(はいそうです)
(よしわかった。じゃあ行こう! )
こうして俺達は、女の子二人とヤク達を引き連れて、大森林の迷宮前広場に転移した。
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