特別短話「スライムと、ポカポカあるじ。」

 マグネの街で色とりどりのボールが弾んでいる。


 スライムたちがバウンドしながら、列をなして移動しているのだ。



(いっぱいきたね)


(いっぱいきたよー)


(どんどんくるね)


(ほんとどんどん来る)


(どうする……)


(うーん……とりあえず……あるじが帰ってくるまで、あるじのポカポカ残ってる林に集まろう! )


(みんなついてきて)


(((わかった)))


 スライムたちは、誰からともなく種族固有スキル『種族通信』を使っていた。


 周辺のスライムたちに呼びかけ、“ポカポカのあるじ”の話がどんどん広がっていたのだ……。



 この“ポカポカあるじ”を求めるスライムたちが、次から次へとマグネの街に集まってきていた。


 もともとマグネの街は、ほとんどスライムもおらず、テイマーもいない街だった。

 それ故、野良スライムたちも訪れることはあまりなかった。


 だが現在は、マグネの街周辺の野良スライムたちが、皆マグネの街を目指しているのだ。


 赤、青、黄、緑、ピンク、オレンジ、紫……様々な色のスライムたちが集まってきていた。


 関所の門から堂々と入ってきても、誰もスライムを咎めるものはいない。


 そして、それぞれが『種族通信』でお互いの場所を知らせあい、サーヤの家の隣の林にどんどん集まってきていた。


 その数はとうに百を超えていた……。


 スライムたちは、それぞれに楽しそうにプルプルしたり、三回バウンドしたり、はしゃいでいる。


 一堂に集まったスライムたちが出している、嬉しさの波動、ワクワクの波動、これが凄いうねりとなって周囲に広がっていった……。


 この上昇するワクワクのプラスの波動は、もちろんサーヤの家にも届き、サーヤの家の屋根がひときわ明るく輝いていた……。



 この上昇するプラスの波動は、マグネの街を包み込み、さらにその周辺に広がっていくこととなる。


 このことが後に、様々な者たちを引き寄せる大きな磁力のような働きをするのである。


 このワクワクの明るい軽やかな波動を求めているのは、スライム達だけではない。


 そして、この波動を検知できるのも、スライムたちだけではなかったのだ。


 マグネの街が今まさに、純粋なエネルギーを引き寄せる磁力を帯びた街になろうとしていた。





 マグネの街は、後に様々な二つ名を持つことになるが……


 その一つが……


『スライムに守られた街』となるのである………。





(ねぇ、ポカポカあるじ、いつ来るかなぁ……)


(うーん……わかんない)


(でも楽しみ)


(ポカポカ楽しみ)


(早く来るといいなぁ……ポカポカあるじ)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る