76.スライムと、後片づけ。
「衛兵長、これで全部です」
額の汗を拭いながら、衛兵が報告する。
「ご苦労、全部で何体だ? 」
「はい、全部で百三十六体です」
衛兵たちは、町中で倒されていた『小悪魔インプ』の死骸を関所前広場に集めていた。
「百三十六体か……改めて凄い数だな……。
いくらレベルが低い小悪魔とはいえ、一般人では対処しきれない奴らだ……。
ほんとに……よく死者を出さずに済んだものだ……」
顎に手を当てながら、感慨深げに頷く衛兵長。
「衛兵長、始めますか? 」
「あー、そうだなぁ、やってくれ!」
衛兵たちは、『小悪魔インプ』の体を切り裂き、中から『魔芯核』を取り出す。
『小悪魔』は純粋な悪魔と違い、『魔芯核』を持っているのだ。
悪魔と魔物の中間のような存在で、どちらかというと魔物に近い。
それ故、魔物と同様に体に『魔芯核』を持っているのだ。
『魔芯核』は、魔法道具の素材になったり燃料になったり、いろいろ使い道があるので換金できるのである。
例えるなら、“レアメタル”であり“石油などのエネルギー”であるということだ。
基本的には、国や領で買い取ってくれるのだ。
衛兵たちは、すべての『小悪魔インプ』から、この『魔芯核』を取り出す。
そしてインプたちの持っていた小剣や三叉鉾も集める。
これらも実際の物質でできているため、インプが死んでもそのまま残るのだ。
「武器はどうだ? 」
「はい、小剣が六十五本、三叉鉾が七十一本です」
「そうか、数的には合っている。全て回収できたようだな。
階級は全て『
「衛兵長、これらはどうするんですか? 」
「もちろん、妖精女神様が次に現れた時に全て差し出すさ。
我々が倒した分もあるが、せめてものお礼だ。領軍にはもっと十分なお礼を働きかけたいが、とりあえずは、我々が今できることをする」
衛兵長は、この街の治安を預かる者として、一際深い感謝の念があった。
自分たちが命をかけて守るべき街を、住人を守ってもらった。
おまけに、自分を含めた、傷ついた衛兵の命まで救ってもらった。
誰も死ななかった。
命を張る衛兵までも一人も失わなかった。
どれほどのことをしたら、この感謝を表せるのか……
「そうですね。この程度でお礼になると思えませんが、せめてもの気持ちですね……」
周りの衛兵たちも同じ気持ちのようだ。
「ところで、インプたちの死骸はどうしますか? 」
「そうだなぁ、これだけ数があると厄介だなぁ」
「埋めたいところだが……死骸を残すと“アンデッド”になる可能性がある。やはり一カ所に集めて焼くしかないか……」
———そんな時、三体のスライムたちがインプの死骸の周りにやってきた。
「隊長、スライムたちが来ました……」
クレアがそう言いながら、指差す。
「なんだ……インプの死骸の周りで弾んでるが……」
スライムたちは、衛兵の様子を見ながらそっと一体のインプの死骸を体に取り込んだ。
そう、彼らは種族固有スキル『分解』と『吸収』で、この大量の死骸を処理してくれようとしていたのだ。
「隊長、これはもしや……
スライムたちは、この死骸を処理してくれようとしているのではないでしょうか……
スライムは元々ゴミなどいろんなものを分解処理してくれる生き物ですし……」
クレアが思い立ったように衛兵長に話しかける。
「なるほど。そういうことか……もしそうなら……大分助かるが……様子を見よう……」
「私、ちょっと話してみます」
「話すって言っても…… 」
「多分、この子たちも妖精女神様の使徒です。人の言葉を理解しているかもしれません」
「そうか……そうだなぁ。やってみてくれ」
クレアはそっとスライムたちに近づき話しかける。
「君たち、この死骸を処理してくれるの? もしそうだったら、是非お願いしたいわ」
すると……
そこにいた三体のスライムたちが大きく二回バウンドした。
そして……
どんどんインプたちを体内に取り込みだした。
そうこうしてるうちに、なんと他のスライムたちも集まってきた。
この街は、元々スライムはほとんどいない街だった。
衛兵たちは、いつの間にこんなにスライムが集まったのかと、驚きつつも黙って見つめる。
もともと人族に友好的に捉えられていたスライムは、この街においてはもはや“女神の使い”なのである。
開いた関所門の外からも集まってくる。
近くの森などから来ているようだ。
三十体くらい集まったお陰で、あっという間に『インプ』の死骸は片付いた。
だが、スライムたちはまだ増えている。
スライムたちは、衛兵たちの方を見て三回大きくバウンドすると、みんなで去っていった。
未だに集まってきているスライムも後に続き去っていく。
「いったい、どれだけ集まるんだ……」
衛兵長は、苦笑いしながら呟いた。
実は……
このインプの死骸をスライムたちが分解吸収したことが後々、思わぬ変化をもたらすことになる……
だがそれはまた別のお話………。
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