77.気付かされる、恋心。

 サーヤの家のダイニングで、妹弟たちのために紅茶を入れるミルキー。


「ねぇねぇお姉ちゃん、本当はサーヤさんと一緒にグリムさんに、ついていきたかったんじゃないの? 」


 すぐ下の妹のアッキーが、手伝いながらミルキーに尋ねる。


「うんまぁ……本当はね……でも危険みたいだし、行っても足手まといになっちゃうから……」


 テーブルを囲む妹弟たちに紅茶を配り終わると、ミルキーも椅子に腰掛ける。


「そうだよねー……ぼくたち、やっぱ強くならなきゃ」


 そう言いながら、弟のワッキーがほっぺをバンバン叩く。


「そんなこと言ったって、急に強くなれるわけないでしょ」


 ユッキーが冷静に言う。


「えー、それじゃいつも留守番になっちゃう。やだよー」


 駄々っ子のように言いながら、今度はほっぺを膨らますワッキー。


「まぁ気持ちはわかるけどね。私たちまだ子供だし」


 あくまで冷静なユッキー。


「そうそう、まだダーメ。以外は留守番」


 何か含むような言い方をするアッキーが、ミルキーに視線を送る。


「えーじゃぁ、ミルキー姉ちゃんはいいの? 」


 ワッキーが口を尖らせる。


「そりゃ、私は大きいからね。でも強くならなきゃダメだよ、どっち道……」


 ミルキーが少し沈んだ調子で答える。


「お姉ちゃん、一緒に行動しながら強くなるって方法もあるよ! 要は、気持ちの問題! 今日だって現に、お姉ちゃんしっかり戦ってたじゃん。小悪魔やっつけたじゃん! 」


「うん、お姉ちゃんすごかった!」

「姉ちゃん、かっこよかった! 」


 アッキーの指摘に、ユッキー、ワッキーが同意する。


「そ、そう……見直した? 」


 少し喜ぶミルキーに、妹弟たちはみんなで揃えて、指先で“ほんの少し”というポーズをする。


 それを見てミルキーは、ほっぺたを膨らまし、「ぶー」とぶうたれる。


「お姉ちゃん、もしサーヤさんとまたどっかに行く機会があったら、私たちのことは気にしないで行っていいから。もうお母さん代わりは、私が交代してあげる。ここは安全だし、私たち三人でもなんとかなるから、お姉ちゃんは自由にしてもいいよ」


 アッキーが、ミルキーの目を見ながらいつになく真剣な顔をする。


「え…どうしたのアッキー……急に……」


「もう……じゃぁ、はっきり言うけどねお姉ちゃん、頑張らないとグリムさん誰かのものになっちゃうよ。恋はスピード勝負よ!」


 アッキーがテーブルに手をついて立ち上がる。

 凄い圧を出しながら……。


「え、え、ええー、な、何言ってるの……き、急に何言ってるのよ……」


 真っ赤になりながらジタバタするミルキー。


「わーい! 姉ちゃん頑張れ! グリムにいちゃんの嫁さんなっちゃえ! 」


 ワッキーが嬉しそうに、囃し立てる。


「コラ! ワッキー、ませたこと言ってんじゃないの! お姉ちゃん別に……グリムさんのことなんて……なんとも思ってないし……な、なんとも……な、なんと……な、な、な、なんとも思ってないし!」


 なんだか見ている周りが恥ずかしくなるほどのあたふたぶりのミルキー……。


「お姉ちゃん、それ絶対思ってるでしょ。誰が見てもそう言うわよ」


 めっちゃ冷静にトドメを刺すユッキー。


「お姉ちゃん、私の見立てじゃね、サーヤさんだってグリムさんのこと多分思ってるわよ……。いくら友情でも恋は別! お姉ちゃん、恋は真剣勝負なのよ!」


 やたらと恋に熱いアッキーが、煽りまくる。


「もう……あんたたちは……。いい加減にして! この話はもう……おしまい! 」


 恋のオーバーヒート状態により、思考が破綻したミルキーが無理やりに話を終わらす。


「はいはい、わかった。じゃあいいよ、お姉ちゃん、話を変えよう。

 このサーヤさんの家ってとっても素敵よね」


 アッキーが半分呆れ気味に、本当に話題を変えてあげる。


「うん、確かに。でもぼくちょっとだけ……前の家が気になるんだよね。あそこで育ったから……」


 ワッキーがテーブルに顎を乗せながら、呟くように言う。


「そだねー。それは同意するわ。私もちょっとだけ……あの家が恋しい。壊れちゃったけど……思い出いっぱいだし。もちろん、この家のことは大好きだけど……」


 ユッキーにも未練があるようだ。


「そうね。あの家でずっと暮らしてたもんね。…… わかった! いいこと思いついた! みんなで頑張って強くなって、時々あの辺りに遊びに行けばいいんだよ。狩りもかねて! 」


 やっと通常モードに回復したミルキーが、久々に姉の威厳を出し、右手を突き上げる。


「うん、それいい!」

「完全に同意!」

「よっしゃー! ウィーーン!」


 ナイスなアイデアにみんな一斉に同意のポーズをとる。


 アッキーとユッキーは、姉と同様に右手を突き上げた。


 なぜかワッキーだけは、興奮しすぎたのか……

 両手のひらを芝刈り機のように小刻みに振動させ、奇声を発するという変な行動になってしまっていた。


 なんだかんだ言っても、生まれ育った場所が懐かしいのは当然のことであった。


「でも……こんなに素敵な家は無いしね。

 ほんと……グリムさんに助けてもらわなかったら、お姉ちゃん多分生きてないし。あんたたちだって、盗賊にやられたかもしれない……この恩をどう返せばいいんだろう?

 サーヤにもグリムさんにも……どうにかして恩返しできるといいんだけど……」


 しみじみと言うミルキーに、『結局、自分でグリムさんの話に戻してる』と思ったアッキーとユッキーであったが、お互いに目配せしてスルーしてあげるのであった。


 しかし、空気を読めない者もいて……


「これはやっぱり、姉ちゃん、グリムにいちゃんの嫁さんになって恩返しするしかないよ! サーヤさんと二人でダブル嫁さんになればいい! 」


「もう、いい加減にしなさい!」


 すぐにオーバーヒートモードに戻って、あたふたするミルキーに、妹弟たちは大笑いした。


 賑やかで楽しい家族のひと時だった。


 暖かい空気が一帯を包む……


 このサーヤの家の屋根が、ほんの一瞬、柔らかく光った。

 まるで母親の温もりで包み込むように、家全体がやさしい光を帯びていた………。


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