74.キマイラと、ミノタウロス。

 一通りの救護活動が終わったら………


 動ける者がキンちゃんの周りに集まっている。


 やっぱりあのドラゴンすごかったからね……


 俺も詳しく聞いてみたいけど……


 ニアとオリョウの目が星になってる。

 ———キラキラだ。


「キンちゃん、すごかったね! さっきのドラゴン、本当にドラゴンになったね! ほんとすごいよキンちゃん! みんなを救ってくれてありがとう!」


「ニアちゃん、うち、ダチをいじめる奴まじ許さねえし! うちは、ドラゴン王にきっとなるし! そしてドラゴンになったし! まじアゲアゲ! まじまんじ!」


(キンちゃんパイセン! まじすごかったっす! あちしは、オリョウっす。よろしくっす。あちしもいつかドラゴンになれるように、まじまんじって感じで頑張るっす! ニアパイセンとキンちゃんパイセンについて行くって決めたっす!)


「オリョウちゃん、まじイケてる。まじウケる! これから、まじ、マブだし。オリョウちゃんもいつかドラゴンになれるし、まじまんじ!」


 おお……クセの強い人たちで早速チームができてしまっているようだ……ここはスルーしよう……気づかないふりスルー


 そして、動けるようになったキンちゃんが、周りのみんなと一緒に一番重傷だった『マナ・ハキリアント』のところに向かう。


 どうも“おばばちゃん”と呼ばれているようだ。


「おばばちゃん、うちがドラゴンなれたのも、おばばちゃんの薬のお陰だし。

 あれ、まじ効いたし! アゲアゲなったし! マジ高まったし! ありがとだし。

 ……う、うち……おばばちゃん……死んだと思ったし……

 でも生きてて良かったし……よ、良かったし………よがっだじ………うー……うわーわー……うばーん……」


 キンちゃんが号泣しだした。


 どうも、この“おばばちゃん”は、陰の功労者らしい。


 彼女がキンちゃんを助け、それで瀕死の重傷を負ったようだ。

 彼女のお陰でキンちゃんが覚醒できたのだろう。


 まだ話せるほど回復していないが、キンちゃんたちに優しい微笑みを向けている。



 そして今回も死者を一人も出していない。


 本当に素晴らしい仲間たちだ。


 誰も失わないで済むなんて……こんな素晴らしいことは無い!



 俺は、しばしの間、ここにいる仲間たちとゆっくりと歓談した。


 浄魔たちも霊獣たちもこの短い間に、何度も合同訓練してすっかり仲良くなっている。

 全くすごい団結力。


 この人たち、本当に素晴らしいとしかいいようがないよ。

 最高の仲間たちだ!


 この大森林が浄魔たちの楽園に、霊域ボルの森が霊獣たちやいろんな動物たちの楽園に、そうなってくれたら最高だ!


 そして、その二つが助け合い交流しあう。


 そんな楽しい未来が、今の俺には確実に見える!


 この仲間たちに出会えて…… 俺はとても幸せだ!



 初めて来たサーヤさんも、最初びっくりしていたが、すぐに打ち解けていた。


 特に同じ妖精族のフラニーと仲良く話している。


 ニアもそうだが、妖精族同士って結構仲がいいんだね。


 すぐに仲良しな感じになってくるので、変な心配しなくていいから安心するわ。


 みんないい子たちばかりだ。

 俺はほんとに恵まれてるな。




 そういえば、ケニーが 『オリジン』と呼ばれる強力な魔物を拘束していた。


 なんと、俺がよくやっていたゲームなどでおなじみの中ボスキャラ『ミノタウロス』と、これまた色んな漫画やゲームに出てくる『キマイラ』だった。


 これらは、殺されずに拘束されていたわけだが、驚きだったのは捕らえられた霊獣たちがされていたのと同じ首輪がはめられていたことだ。


 霊獣たちやサーヤさん、ミルキーは自由意思を奪われる一歩手前で救出できたが、この二体は支配され無理やり戦わされていたらしい。


 そして俺は子供たちを救出した時のように、この二体の魔物の首輪に触れてみた。


 すると……


 あの時と同じようにピリッとヒビが入り、もう一度触れると粉々になって崩れてしまった。


 そして彼らは『支配の首輪』の楔から解き放たれた。


 かなり衰弱が激しいが、命に別状は無いようだ。


 話も……できそうだ……


「君たち大丈夫かい? 首輪はもう壊したから心配ないよ」


「感謝いたします、強き王よ」


 キマイラが伏せの姿勢をとり、大蛇がこうべを垂れる。


「ワレの意識を解放していただき、お礼の言葉もありませぬ」

「ワタシもお礼を申します。このご恩は一生忘れません」


 ライオン頭とヤギ頭それぞれに礼を言う。


 すごい……一つの体に三つの意識があるようだ……


 混乱したり喧嘩したりしないのだろうか……


「強き王よ。どうぞお仲間にお加えください」


 大蛇がそう言うと……


「おい! 何を勝手にそんなこと言ってるんだ! それはワレが言おうとしてたのだ! 」

「何を言うの! ワタシが言おうと思ってたのよ! 」

「これこれ、良いではないか! 誰が言ったとて、みんな思いは同じなんじゃから。

 全く、いつも喧嘩するなと言っておろう」


 最後に大蛇がそう言うと、蛇の体でライオン頭とヤギ頭をパシンッと叩いた。


 まるでトリオの漫才のような感じだ。


 せわしないけど、愉快な奴らだ。


 俺は、『テイム』のスキルなどを使っていないが、彼らの自由意思で勝手に仲間になってしまったようだ。

 一応、確認すると……やはり使役生物テイムドリストに入っていた。


 そして同様にミノタウロスも……


「オデを助けてくれでありがとうございます。オデを働かせてもらいたいでゲス。若様に仕えるでゲス。ケニー様のシモベになりたいでゲス……ムフ……ウホ……ウホホッ……」


 そう言いながら俺をチラッと見ると、その後はずっとケニーを見つめている。


 ……目が完全にハートマークになっちゃってるわ……

 大丈夫かなぁこいつ……


 ケニーの様子を見ると、凍てつくような視線で一度見た後、完全に無視しているようだ……


 その見下すような視線が……


 刺さるどころか……

 どうも“どストライク”らしく……


 ミノタウロスが真っ赤に高揚している。

 鼻息荒くしながら、もじもじしちゃってる……

 なんかこいつやっぱり……駄目なやつかもしれない……。


 ただの“ドM”なだけならいいが…………深く考えるのはやめておこう……


 ミノタウロスも自主的に、というかケニー狙いで積極的に仲間になっていた。


 “トリオ漫才”に“ドM”か………


 またキャラが濃いの来ちゃったか………


 でも彼らは強力な『オリジン』。

 戦力の底上げになるのは間違いないし……


 まぁ悪い奴らではなさそうだし、面白いからいいか。


 いずれにしろケニーに丸投げだけどね……。


 そんな感じで、彼らは仲間になったわけだが、少しだけ話を聞いた。


 彼らもサーヤさんやミルキーと同じように、突然麻痺攻撃にあって身体の自由を奪われて捕まった挙句に、『支配の首輪』を長期間つけられ自由意思を奪われたようだ。


 何かダンジョンのような場所に拘束されていたらしいが、場所まではわからないらしい。


 もし場所がわかれば、今後のためにも不安要素を排除しておきたいところだが……


 まぁ後でゆっくり考えよう。


 今は、彼らもダメージを受けているし、体を休めることの方が大事だからね。


 ミノタウロスは、この大森林の北西方向にある山脈の中にある迷宮の出身らしい。


『ミノタウロスの小迷宮』という小さな迷宮で、そこにミノタウロスの一族が暮らしているそうだ。


 彼は、武者修行のために迷宮を飛び出し、放浪しながら暮らしていたらしい。


 それに目をつけた『爪の悪魔』に捕まったようだ。


 その迷宮に戻らなくていいか訊いたところ、もともと武者修行で出かけているのだから大丈夫とのことだった。

 むしろ、ここにいる方が修行になりそうだし、助けてもらった恩を返したいとも言っていた。


 だが、どう見てもケニー目当てだろとツッコミたかったが、まぁそこはスルーしてあげた……優しさスルー

 がんばれミノタウロス!


 キマイラも、群れで暮らすキマイラの里があるようだが、大分前にそこを出て、あちこち放浪していたらしい。


 里にいると退屈で、外の世界で暴れる方が性に合ってるとのことだ。


 意外とバトルジャンキーなのかもしれない……いや、意外でもないか……。


 ということで、ここで普通に暮らすことになった。



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