73.グリムの見た、戦い。
俺たちが転移したのは、迷宮前の広場ではなく大森林の別の場所のようだった。
転移先には、フラニーと戦闘を終えたばかりらしいケニーたちがいた。
「フラニー、ケニー、大丈夫かい? 」
「主様、迷宮前では未だ戦闘継続中です。ケニー殿の戦場に様子を見に来ていたところに念話がありましたので、こちらに転移させていただきました」
「あるじ殿、こちらは只今戦闘を終えたところにございます。大丈夫ですが、迷宮前が心配です」
フラニーにもケニーも大丈夫そうだが、まだ迷宮前では戦闘が継続中らしい。
「じゃぁ、みんなで迷宮前に行こうか! 」
「主様、少しお待ちください。第二戦闘エリアで戦闘中だった者たちから念話が入りました。一旦こちらに転移させ、その後皆で迷宮前に行くことにします」
フラニーに他の仲間から念話が入ったようだ。
戦場が何カ所かに分散していたのか……
みんな無事だと良いが……
「わかった。じゃあ任せるよ」
フラニーは早速、第二戦闘エリアで戦っていた者たちを転移で呼び寄せた。
俺は、皆に簡単に労いの言葉をかける。
そして、迷宮前の戦闘が継続中であることと、すぐに向かうことを告げる。
「あるじ殿、できれば敵に奇襲をかけるために、迷宮前広場より少し離れた場所に転移するのがよろしいかと思います。
潜伏に適した場所がございます。そこで状況を見て、急襲するのがよろしいかと思います」
さすがケニー!
戦術的にもその方が優れているようだ。
俺はその案を了承し、フラニーにその場所に転移するよう依頼する。
転移したその場所は、迷宮前広場が見渡せる林の一画だった。
おや……これは……
様子がおかしい……
みんな倒れている……
これは……どうも麻痺しているようだ……
だが、残っている敵は中級の悪魔が一体、両手に大きな爪を生やしている……
奴がおそらく『爪の悪魔』……。
麻痺攻撃を使って霊域の子供たちをさらったり、サーヤやミルキーを攫った今回の騒動の張本人に違いない。
他の悪魔たちは倒したようだが、おそらく奴の麻痺攻撃にやられたのだろう……
どうやらフラニーが、ケニーの所に行ったのはナイスタイミングだったらしい……
それにより、この麻痺攻撃を逃れたようだ。
もしフラニーがやられていたら、俺は転移で戻ってこられなかっただろう……危なかった……
すぐにみんなを助けるために動こうと思ったが……
……キンちゃんが何か、新技を発動している………
おお………!
俺の周りのみんなも、助けるために一斉に動き出そうとしていたのだが……
俺と同じく動きが止まる……
キンちゃんのド派手な技エフェクトが展開し、おのずと見入ってしまっている。
俺たちは、必然的に様子を窺う形になった。
———なんと!!
———キンちゃんが
……す、すごい!
いつも『ドラゴン王』になるって宣言してたけど……
……あの人ほんとにドラゴンになっちゃってる!
しかも……なんか技が滅茶苦茶だ!
『桜吹雪』とか叫んでいるし!
そして、文字通り桜吹雪のような旋風の超絶嵐攻撃!
うわーこれはすごい!
———てか……名奉行か!
全然助けに行く必要なさそう……
『爪の悪魔』………ほとんど死んでるよね……
いやー………
それにしても本物ドラゴン!
初めて見たわ……すご過ぎる!
あれは……どういうことだったんだろう……
なんか『登竜門』って言ってた気がするけど……
まさか……ほんとに滝を登って『登竜門』を越えて龍になるなんて………
故事の通りじゃないか……。
そして、キンちゃんがまた技を出すようだ。
トドメの攻撃だろう。
ワア!
……もっと滅茶苦茶!
なんか言葉がそのまま岩石になってるんですけど……
———漫画か!
緊迫した場面なのに、思わずツッコんじゃったわ!
———ドスンッ
———ドスンッ
———ドドドドドドドッ
———バンバンバンバンバンバンッ
———ゴゴゴゴゴゴッ
なに……この岩の連続落下!
まるで隕石の衝突じゃないか!
……迷宮大丈夫かなぁ?
倒したのはいいけど……迷宮がやられてる気がしないでもない………
ダリー大丈夫かな?
連絡取れないから……無事なことを祈るしかない……。
俺たちは……全員……口をぽかんと開けたまま……誰も一言も発しなかった。
おそらく頭の中では、色々なことがグルグル巡っていると思うのだが……ほんとに誰も一言も発しない………。
それほど圧倒的なキンちゃんの攻撃だった。
キンちゃん恐るべし……
クセが強いだけじゃない!
戦闘も強い!
どうやら、これで全ての戦闘が終わり迷宮防衛は成功したようだ。
そして俺の出番は全くなかった……。
まあ……良いことなのだが………。
やはりこの子たちはすごい!
俺なんかいなくても、ちゃんと役割を果たしてくれる。
頼りになる素晴らしい仲間たちだ。
おっと……キンちゃんが……錦鯉の姿に戻った。
どうやら時間限定の必殺技のようだ……。
他の仲間たちも、麻痺で動けないままだ。
「よし、みんなで回復しに行こう。ニアは特に怪我の酷い子の回復を頼む!」
「オッケー! 任せて! 」
俺たちは茂みから出て、皆のところに向かった。
「みんな大丈夫かい? よくがんばったね。今回復するから」
俺は、皆に声をかけながら近づき『癒しの風』をかける。
ニアは、瀕死状態だった『マナ・ハキリアント』を必死で治療してくれている。
なんとか一命を取りとめたようだ。
ケニーたちは、皆に麻痺回復薬を飲ませているようだ。
いつの間にあんな薬を作ってたんだ……
やはりケニー………侮れない。
優秀すぎる……。
そして、何かペットボトルのようなものに入っているし……
あれも作ったのかな……
ほんとにいったいいつの間に……
今回も、予想の斜め上どころか遥か上を行っている……。
麻痺攻撃を受けた者たちは、回復魔法と薬のお陰で良くはなっているが……
今回も呪いの効果が乗っていたらしく……
すぐに完全復活とはいかないようだ……。
だが、おそらく時間をかければ大丈夫であろう。
治りが遅いようなら、霊域に移ってもらえばいいだろう。
霊素をたっぷり浴びたり、霊素をたっぷり含んだ霊果を食べれば元気になるはずだ。
迷宮前広場を簡易の救護所のような形にして、みんなをそこに休ませる。
悪魔は倒すと消えてしまうのでいいが、小悪魔インプは死骸が残ってしまうので、俺は、『戦利品自動回収』で、片付ける。
キンちゃんがドラゴンから戻る時に、鱗が落ちるようで、『
なぜ戦利品扱いなのだろう……
竜の鱗って、何かの素材に使えそうな予感はするが………。
今はそんなことより、みんなを見て回ろう。
頑張ってくれたお礼を言わないとね。
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