58.鞭の、勝負。

 俺は、『鞭の悪魔』が変異したカラスを、敢えて関所の外に出す。


 その方が人目を気にせずに済むからだ。


 すぐに追いかけ……関所を出たところで、魔法紐の鞭を空に向け、打ち放つ!


 ビュウンッ——

 ——バシンッ


 命中はしたのだが……瞬殺はできなかった。


 直前で悪魔の姿に戻り、ガードしたようだ。


 前の時のようにワンパンで倒そうかとも思ったのだが、せっかく『鞭の悪魔』なので、鞭勝負を挑むことにした。

 鞭捌きなどを目コピできるかもしれないし。


 『鞭の悪魔』は、その名だけあって、両手の指が全て鞭となって、ウネウネ波打っている。


「なぜ、この街を狙った? 目的はなんだ?」


 ダメ元で情報収集してみる。


「お前は何者ざます? ただの人間がなぜ……そのような力を持ってるざますか? その魔法紐は……まさか『太古の秘密道具アーティファクト』ざます?」


「訊いてるのは俺だ、なぜここを狙うんだ? 」


「知っても意味がないことざます。今ここで死ぬんざますから……」


 何も教える気はないようだ。


 これ以上、問答している時間は無いので、倒してしまおう。


 俺は魔法紐の両側を鞭状にし、二刀流で対抗する。


 『鞭の悪魔』は、十本の鞭を交互にうねらせながら、右手で横方向、左手で縦方向の同時攻撃を放つ。


 なるほど……そうすれば相手に逃げ場がなくなるよね……と考えつつ、俺は左右の鞭をヘリコプターのように回転させ、迫りくる十本の鞭を弾き返す。


 そして、そのままお返しに……


 ベシンッ——


 ……うっ……痛たた……


 奴には隠し鞭があったようだ。

 尻尾の鞭で叩きつけられてしまった。


 もっとも、痛みを感じただけで、ほとんどダメージは無い。


 『鞭の悪魔』が、何やら驚いている。


「私の鞭を浴びて生きてるなんて……何者ざます?」


「お前の目的を話すなら教えてやるよ。話す気になったか? 」


「いかんざますね。これは……ここで始末しておかねば……まずいざます」


 『鞭の悪魔』が何事か呟くと、十本の鞭が動きを速め、風切り音を出す。


 すると……鞭先が鋭利な刃物状に変化した。


 なるほど、それで斬り付けるわけか……。


 俺は、魔法紐の握り手より先に、魔力を通し硬い棍棒状に変形させる。


 そして、両手棍棒で襲い来る鞭の剣先を捌く。


 ……が、向こうの手数が多い。


 防ぐので精一杯だ。


 せっかくフラニーが作ってくれた服が、ボロボロになってくる。


 その上に、羽織ってる『マジックローブ』は、ある程度の傷を自動修復する機能があるので、ダメージを受けてもすぐに直るのだが……。

 ちなみに、この『マジックローブ』は、『自動修復機能』の他に、魔力を流して念じると色が変えられる『変色機能』と、『魔法耐性機能』がある。


 それにしても、鞭の使い方としては勉強になるが……だんだんイライラしてきた。


 俺は、捌くのを止め、共有スキルでセットしてある雷魔法の『雷盾サンダーシールド』を張り、鞭をガードする。


 奴の鞭は、雷の壁に触れても、感電しないようだ。

 もしくは魔法に耐性があるのかもしれない。


 俺は、態勢を立て直し、一旦鞭をしまう。


 悔しいが鞭の扱いでは、奴に一日の長があるようだ。


 ……というか……奴の手数が多いだけで、そんな差は無いはずだけど……決して負け惜しみではない……決して……。


 俺は、『波動収納』から、『魔剣ネイリング』を出す。


 揺らめくように輝く鈍色の剣を奴に向け、『雷盾サンダーシールド』を解く。


 すぐさま襲ってくる鞭の剣先を、魔法紐の棍棒で捌いたのと同様に受け流す。


 ところが、『魔剣ネイリング』は切れ味が鋭く、捌くために当てただけで、鞭の剣先を斬り崩す。


 相変わらず恐ろしい切れ味だ。


 驚く奴をこのまま斬り付けるために、牽制で、雷魔法『雷撃サンダー』を放つ。


 そして一気に接近し、ネイリングを振り下ろす……


 ……はずだったのだが……


 『鞭の悪魔』は、牽制で放った『雷撃サンダー』で、一瞬で蒸発してしまった……はて……?


 というか……周囲の地面も黒焦げになり、大穴が開いている…… 。


 ニアが使っていた時は、こんな威力ではなかった気がするが……


 どうも俺の桁違いのステータスでは、普通の魔法も恐ろしい威力になるようだ。


 こんなんじゃ……怖くてまともに魔法が使えない……


 特に人間の街などでは、余程注意しないと大変なことになりそうだ……


 魔法の威力も、今度ゆっくり検証しておかないと……うっかり大惨事にならないように……。


 物理力の調整はなんとなくできるんだけど……魔法の威力って調整できるのだろうか……。


 せっかく魔法で牽制をしながら、魔剣で仕留めるという魔法剣士っぽい作戦を考えてたのに……


 ……なんとなく不完全燃焼である。


 まぁ、勝てたからいいけど。


 さて、ニアたちは、大丈夫だろうか。


 俺は急いで関所の門をくぐり広場に戻る。

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