57.悪魔、発生中!
破壊された衛兵詰所の扉だった所から、牢にいるはずの傭兵たちとハイド男爵が出てきた。
どさくさに紛れて、牢破りをしたらしい。
いや……怪しい黒マントの男が一緒だ……
あいつがやったのか……
あいつは……人じゃない……あれは悪魔だ!
俺がそう思った時だった……
黒いマントの男が指を『パチンッ』と弾く!
すると突然、男爵や傭兵たちが、頭を押さえながら苦しみだした。
ボコボコ音を立てながら、筋肉が盛り上がり服が裂けていく。
顔もぶくぶく膨れ上がっていく。
———体が一回り以上大きくなると、全身が緑色に変わる。
スキンヘッドになって角が生えている。
大きな長鼻と突き出す牙、鰭のような耳……これは悪魔だ!
肌が緑というだけで、その他は俺が倒した『赤の悪魔』と同じだ。
傭兵たちは角が一本、おそらく『下級悪魔』だろう。
男爵は角が二本、『中級悪魔』に違いない。
俺はすぐに、『波動鑑定』する。
ハイド男爵だった者は、『緑の悪魔(中級)』になっている。
傭兵だった者たちは、『緑の悪魔(下級) 』となった。
やはり悪魔に変わってしまったようだ。
そして、この状態の元凶、黒マントの男は……『鞭の悪魔(中級)』だった。
レベルは、『緑の悪魔(下級)』が38 、『緑の悪魔(中級) 』が50、『鞭の悪魔(中級) 』が55となっている。
これはやばい……
下級とはいえ、五十体も悪魔がいたんじゃ衛兵たちでは敵わないはず……。
なるべく目立たないように、自重して戦いたかったが……
そんなことも言ってられそうにない……
言い訳は後で考えるとして……全力でこいつらを倒すしかないか……
でもその前に一つだけ確認しておきたいことがある。
俺は久しぶりに、『自問自答』スキルのナビゲーターコマンドのナビーを呼び出す。
(ナビー、あの悪魔たちを人間に戻すことができると思うかい? )
(おそらく不可能です。鑑定結果からわかるように、すでに種族が人族から悪魔に変わっています。人間だった者は死亡しているはずです。ただ、中級悪魔では魂を刈り取れないはず。悪魔を倒すことで、人間だった者の魂が解放されると思われます。倒すことこそが、救いと推測します)
そういうことか……
もう人間に戻れないなら、遠慮はいらない。
あいつらは、殲滅する。
衛兵たちが驚いているが、衛兵長の掛け声で、すぐに、戦闘態勢に入る。
衛兵長が真っ先に悪魔に切りかかる。
すごい気迫だ!
鑑定すると……衛兵長は、レベル38 。
人族の中ではかなり高レベルのようだが、悪魔相手では……
と思ったのだが……
「オリャー!」
裂帛の気合で、悪魔の腕を斬り落とした。
そして、続けざまに袈裟斬りにして……なんと倒してしまった。
どうやら、衛兵長はかなりの腕前のようだ。
だが他の衛兵たちは、『下級悪魔』たちに殴り飛ばされている。
『緑の悪魔』は……あの筋肉の感じからしても……物理攻撃タイプのようだ。
そしてもう一人……『下級悪魔』と互角に渡り合ってる衛兵がいる。
なんとあの金髪美人さんだ。
鑑定によれば、彼女はレベル25あるらしい。
悪魔の攻撃を、右に左に身軽に避けながら応戦している。
ただ、衛兵長のように一刀両断というわけにはいかないようだ。
衛兵長に同時に二体襲いかかる……
衛兵長は一体を斬り付け、体を反転させてもう一体の攻撃を躱す。
斬り付けた一体を胴蹴りにして、もう一体に激突させる。
ところがその瞬間、衛兵長も吹っ飛んでしまった。
背後から、別の一体がタックルしたのだ。
俺は、魔法紐で『下級悪魔』を弾き飛ばしながら、衛兵長のもとに駆け寄る。
気を失っているようだが、息はある。
俺は、回復魔法『癒しの風』を衛兵長にかける。
金髪美人さんも押されているようだ。
一気にケリをつけないと……
(シチミ、『閃光』を頼む!)
俺は、念話を仲間たちに繋ぐ。
(任しとけ!)
(みんな、目を閉じて!)
———周囲に閃光が広がる
衛兵たちは、突然の閃光に目を押さえている。
(今だ! 一気に『下級悪魔』を殲滅だ!)
(オッケー)
(頑張る)
(任しとけ!)
(はい)
(手加減無しだかんね!)
おっと、まずい……
(フウ、オリョウ、無理するな! 待機だ!)
……ダメだ……全然聞いてない……突っ込んでくる……
……まあ……しょうがない……それより殲滅だ!
俺は、『波動収納』から、『魔剣ネイリング』を出す。
走りながら、『下級悪魔』たちを一刀両断してまわる。
ネイリングの持ち味である軽さと切れ味を最大限に生かす。
相変わらず、剣技というよりは、テニスのフォアハンドとバックハンドだが……。
「ピクシーショット乱れ撃ち!」
ニアは、左右それぞれの手を指鉄砲の形にして、種族固有スキル『ピクシーショット』を 二丁拳銃にして、連射している。
えげつない攻撃だ。
リンは、種族固有スキル『変形』を使い、腕を三本出すと、左右の腕で近くの『下級悪魔』にグーパンチをお見舞いしている。
背中から出した三本目の腕には、前に渡した魔法杖の『エレメンタルワンド』が握られている。
離れた悪魔を、短槍のようになった高圧縮の水の弾丸が撃ち貫く。
シチミも『エレメンタルワンド”』をかざしている。
炎の短槍が、悪魔を穿つ。
かなりの高威力だ! 射程も長い。
シチミから見れば、『下級悪魔』でもレベルが10も上の格上だ。
しかし、魔法杖の性能で同格以上の戦いができている。
階級は、『
ニアの如意輪棒や俺の魔剣で感覚が麻痺しているが、『
広場のあちこちで『下級悪魔』たちが、液体のように崩れた後、霞となって消えていく。
俺たちは、瞬く間に、『下級悪魔』たちを殲滅した。
前と同様に“ゾーン”に入ったのか、ゆっくり感じられたが、実際は三十秒くらいだと思う。
残りは、中級二体……
俺が狙いを定めると……『鞭の悪魔』が指を4回鳴らす。
すると突然———
空に黒い魔法陣が浮かび、中から魔物が大量に出てきた。
……いや……あれは……『小悪魔インプ』……。
鑑定したところ、小悪魔だった。
人間の子供ほどのサイズだが、コウモリのような翼があり飛んでいる。
頭から触角のようなものが出ていて、肌は赤い。
小剣や三叉鉾のような物を持っている。
レベルは、15程度のようだが、一般市民には敵わない相手だ。
百体以上が、一斉に街中に散っている。
まずい……
そして更に、鞭の悪魔が召喚しようとしている。
(ニア、緑の悪魔を任せる。俺は、鞭の悪魔をやる。他のみんなは、小悪魔を倒せ! 急げ!)
(オッケー)
(わかった)
(任しとけ)
(はい)
(今度こそボコるかんね!)
おお、オリョウが猛ダッシュで走り回って、インプを弾き飛ばしている。
あれは、『爆走』スキルに違いない。意外に強いかも。
フウも、オリョウが弾き飛ばした小悪魔を、爪で切り裂いている。
あれはおそらく、種族固有スキル『オウルクロウ』だろう。
あの二人も大丈夫そうだ。
それより、早く『鞭の悪魔』を止めないと、また召喚されてしまう。
と思ったが……奴は……逃げるのか?
姿をカラスに変えると、飛び立とうとしている。
丁度いい……。
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